第3話 図書委員のお姉さん

 僕は諦めて、読書を再開。


 他人からの視線はあっても、僕が気にしなければ済むことだ。

 意識は読書に集中することで深く沈み込み、いつのまにかイヤな視線が気にならなくなっていた。


 夕方のチャイムが鳴る。


 もう図書室も締まる頃だ。

 周りを見ると、もう席には誰もいなかった。


「あれ、もうこんな時間か。続きも気になるし、今日はこれを借りていこう」


 そう思い、僕はさっきまで読んでいた本を手に取り、受付カウンターに座る女性へと差し出した。


 彼女は図書委員で、図書室にある本の貸し借りを名簿に記載する係だ。

 僕は毎日借りて帰るので、すっかり顔なじみとなっていた。


「これ、お願いします」


「はい、今日も本を借りていかれるのですね。えらいわ」


 そんな意味不明な受け答えをする、図書委員のお姉さん。

 どうして上から目線かというと、彼女は二年生だからだ。

 

 受付カウンターには担当の方の名前と学年が表示されており、彼女の名前は生方珠洲うぶかたすずさん。

 こういっては何だが、長い黒髪に黒縁眼鏡をかけた地味目な印象の女性だ。

 ただ、やたらとでかい胸が目を引くため、意外と注目を集めていたりする。


 でも、自分で視線が気になると言っておきながら、これはダメだよね。

 あの大きな胸を気にしない男がいるとは思えないが、やっぱ失礼だ。

 

 たぶん、彼女も僕の視線に気が付いているだろうし……って考えてるそばから。


「もう、優くんのエッチ」


「えっ、そんなつもりは……」


「ほんとかな~」


 そんなことを言って、少し首を傾げる彼女。


 あれ、凄く可愛い。


 じゃなくて、いま彼女なんて言った。


 確かに借りる時に名前を書くから、知られていて当たり前だけど、それくらいで下の名前を呼ぶ?


 僕が驚いた顔をしていると、生方さんは楽しそうに笑う。


「うふふ、でも優くんになら見られても平気だよ」


 いやいやいやいや、おかしいでしょう。僕たちそんな仲じゃないよね。

 いわば店員とお客さんみたいなものでしょ。


 何、このお姉さん……距離感バグってない?


 僕はブルりと背筋に寒さを覚え、本を受け取ると、急いで帰宅の途に就いた。

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