第2話 他人の視線

 僕が図書室へ通い始めて、二週間。

 すっかり定位置を確保し、穏やかな日々を送っていた。


 僅かに開いた窓からは心地よい風が流れ込み、カーテン越しの太陽の光は安らぎを与えてくれる。


「ああ、気持ちいい」


 教室で荒んだ僕の心も洗い流されるような、そんな気分だ。


 ここに人はあまり来ないし、いる人たちも黙って読書をするか、勉強をしているだけ。

 外から聞こえてくる運動部の掛け声も、ここまでくれば静かなもので、全く気にならず読書に集中できる。

 あとはテスト期間さえ乗り越えられれば、ここでの生活も安泰だ。


 なんて思っていたけど……。


 どうも、さっきから誰かの視線を感じる。

 こっそり横目で見ても、誰かは全くわからない。


 図書室を利用している人たちは、全部で七人。

 男子生徒が僕を含めて三人、女子生徒が四人だ。


 その誰かだと思うが、みんな下を向いており、僕を見ている人はいなかった。


 何故だ。


 けど……、女性がよく他人ひとの視線はわかるっていうが、それは確かにそう。

 誰かに見られているってのは、間違いないと思う。

 どこからかはわからないけど、突き刺さるような、嫌な視線を感じるんだ。


 でも、ボッチな僕を見て、何が楽しいんだろう。


 普段から髪はボサボサ、顔も特別良いわけでもなく、身長体重も平均並みといたって普通。

 目を引くところなど、何もないというのに。


 心配性の姉が同じ部活ぶんげいぶに入るようにと誘ってきたけど、あそこは女性しかいなくて居心地が悪そうだったから断った。


 だから、クラスでボッチな僕に知り合いはいないはずなのに、どういうことだ。

 まあ、このキモオタクさが気になっているなら、話は別だが……。


 でも、やっぱり見られている。


 自意識過剰って思われるかもしれないけど、自分に取柄など無いことは十分承知しているし、今までだって人に見られていると感じたことなんて、一度もない。


 僕なんて誰も相手にしてくれないし、中学時代だって、友人と呼べるような人は誰もいなかった。

 

 高校入学を切っ掛けに、どうにか変わりたい。


 そう思っていた時もあったけど、結局やらかしてしまい、この状況ざまだ。


 ダメな奴は何をやってもだめ。

 それがこの世のことわりなんだ。


 とても他人ひとに言えたことではないが、僕はそう悟っていた。

 

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