第7話 聖都に帰還したらエラいことになってるんだが?

「ふぅ、凄まじい戦いだった……」


 聖騎士たちとの戦いに俺は見事生き残った。

 いかに俺が聖都最強と謳われていても、あの数の精鋭を相手にして無事でいれられたのは奇跡と言っていい。


 これも、この黒い剣のおかげだぜ。

 いままで以上に剣筋が冴え渡っていたのは、やはり新たに手に入れたこの剣の恩恵によるものだろう。

 なんせ一騎相手でも手こずる《十二聖将》の十人を同時に相手して勝てたのだから。

 ひとり、またひとり強敵と刃を交えるたびに、この剣と心身ともに繋がっていくような錯覚を覚えた。

 この剣さえあればどんな相手でも負ける気がしない。

 いまやちょっと友情めいたものすら感じている。


 新たな相棒と共に、このまま一気に聖都攻略だぜ!




 暗黒騎士として覚醒したチカラを存分に揮いつつ、俺は聖女様の待つ聖都へと一直線に進んだ。

 もはや聖都に主戦力はほとんどいない。

 あとは結界を破壊して、神官どもをフルボッコにして聖女様を頂戴するだけの簡単なお仕事です。


 ふははははは!

 もうすぐあのおっぱいが揉めると思うと、逸る気持ちを抑えられず、ついつい縮地してしまうぜ!

 傍から見たら、ほぼ瞬間移動しているだろう速度で俺は聖都を目指した。

 悲願の成就はまもなくだ!


 ことは順調に進んでいる。

 そう舞い上がっていた俺だったが……


「ん? なんだ? 聖都の様子がおかしいぞ……」


 遠目からでもわかる、聖都のシンボルである《聖神柱》。

 それが異様に光を発している。

 聖女様に神託が降りる際に光るものだが、あんな風に強く発光し続けるところは見たことがない。

 それによく耳を澄ますと、無数の悲鳴までが聞こえてくるではないか。


「いったい何が……」


 もしや魔王軍の生き残りが聖騎士たちの留守を狙って聖都を攻めてきたのか?

 ……いや、しかし聖女様の結界を突破できるのは容易なことではないはず。


 しかし現実、聖都を包む結界は解かれていた。

 聖女様に許された者しか入国できず、それ以外の者は弾き出されてしまう鉄壁の結界。

 それがなくなっている。

 俺が破壊するまでもなく、聖都はいま丸裸の状態と化していた。


 好都合と言えば好都合だが……なんだ、この妙な胸騒ぎは。

 すごく、良くないことが起こっている気がする。


 聖都の変容を前に呆然としていると……


「ひ、ひぃい! た、助けてくれぇ!」


 まるで聖都から逃げ出すように、城門からひとりの老人が出てきた。


 あれは……神官ゲスオ!

 噂では幼い少女に儀式と評して、ふしだらな真似をしているというクズ神官のひとりだ!

 よぉし、聖都で何が起こったのか聞くついでに去勢したろ!

 日頃の恨みを晴らすチャンスだ!

 しかし……


「お、お許しを《聖神》様! わたくしがあのような真似をしたのはすべては《聖神》様の偉大さを思い知らせるため! 決して信仰を利用して己の欲望を発散させていたわけでは……ひ、ひぃやああああああああああ!」


「なっ!?」


 とつぜんゲスオの股間が身の丈以上に膨張したかと思うと……そのままヤツの肉体は破裂した!


「な、なんだっていうんだ、いったい……」


 やはり、ただ事ではないぞ!


  ◆


 聖都に入ると、そこは、まさに地獄だった。


「《聖神》様! 私は聖都の暮らしに満足しています! 本当です! 決して不満など微塵も……うわああああ! いやだあああ! カラダが崩れるぅうぅう!」


「《聖神》様万歳! 俺は俗にまみれた神官たちとは違う! 真の信仰者です! ですからどうか見逃して……ぐぎゃああぁぁぁあぁ! 石に、石になるのはイヤだああああああ!」


「もうたくさんよ! 私たちが何したっていうのよ!? ただ人間らしく生きたいだけなのに! あはははは! ひと思いにやりなさいよ! 信仰なんてクソ喰らえよ! ああああああああああああっ!」


 カラダが溶けていく者。

 発狂しながらカラダが石になっていく者。

 神官ゲスオと同様にカラダが破裂する者。

 その者たちのカラダには等しく、聖痕に似た焼き印が刻まれていた。

 俺たち聖騎士が持つ聖痕とは異なる、禍々しく輝くソレに人々は苦しめられている様子だった。


「《聖神》様のお怒りじゃ……我々が不信心だったあまりに、ついに《聖神》様がお怒りになられたのじゃ」


「これこそが《聖神》様の御力……なんと凄まじい」


 ただ例外も存在するようだ。

 信心深くお祈りをしている者たちのカラダには何事もない。


 《聖神》の怒りだと?

 この惨劇は《聖神》が起こしているというのか?


「おお、聖女様はついに《聖神》様と等しい存在となった。なんと神々しい……」


「あの御方こそ人を越えられた存在……どうか背信者を滅ぼし、真なる楽園に我々を導きくださいませ……」


「なに!?」


 信徒たちの口から聞き捨てならないことが語られる。

 聖女様が《聖神》と等しい存在に?

 まったく意味はわからんが、まさか聖女様の身にも何かが!?


「うおおおお! こうしちゃいられん!」


 俺は惨劇の場をすり抜けて神殿のある方向に走った。

 状況はさっぱりだが、あのおっぱいが危険に見舞われているのなら駆け出さないわけにはいかない!


「……あれ? 神殿なくなってんじゃん!?」


 そこにあるのは光り輝く《聖神柱》だけだった。

 それ以外のものは、まるで『近づくな』と言わんばかりに破壊し尽くされていた。

 聖女様は!? 聖女様は無事なのか!?


「ほう……わざわざ戻ってきたか。叛逆の聖騎士、フェイン・エスプレソン」


「っ!? 誰だ!?」


 甲冑で総身を隠しているはずの俺の正体を見破る厳かな声。

 声は空高くから響いた。

 導かれるように頭上を見上げると……


「せ、聖女様?」


 かくして、あたかも《聖神柱》を守るように空中に浮かび上がる聖女様がそこにいた。

 見間違えるはずがない。

 あの美貌を。あの生白い肌を。あの美しい亜麻色の長髪を。

 そして……あのおっぱいを!


 というか……


「エッッッッッッッッ!?」


 な、なんですか聖女様! その大変けしからん格好は!?

 いつもの露出の少ない聖衣ではなく、彫刻の女神が身につけているような一枚の布だけで大事なところを隠しただけの露出の多い格好!

 神聖美よりも「エロい!」という感想しか出てこない、カラダの輪郭がはっきりわかる、あの格好である。


 生足だ! 聖女様の生足だ!

 普段は黒ストッキングで隠されているあの美脚が外気にさらされている!

 太ももまで巻き付いた白のリボンが食い込んでいるのがまた非常にエロい!

 スラリとした足ながら腿肉はむっちむちに肉づいた、いまにもしゃぶりつきたくなるような太もも!


 てかウエスト細っ!?

 知っちゃいたが本当に細っ!

 同じ内臓が入っているのか心配になるほどにくびれたウエスト。

 《蜂腰》と称されたソレは聖都中の女性の憧れの的だ。


 そして、そのくびれによって、より存在感が強調されている膨らみ……

 夢にまで見た聖女様のおっぱいが!

 薄い布一枚だけで包まれたおっぱいが!

 大事な場所だけを隠し、生白い谷間や横乳や下乳が際どく露出したおっぱいが!

 聖女様の生おっぱいがそこにはあった!


「あ、ああ、あぁあああっ!」


 俺は感動のあまり叫んだ。

 一部では「さすがにあのありえんデカさは何か詰めてるでしょ」と噂されていたが……そんなことはなかった!

 やはり、そのおっぱいは豊満であった!

 小柄な少女のカラダには、あまりにも不釣り合い過ぎる巨大おっぱい!

 大の男の顔もまるごとその谷間で挟めてしまいそうな特大おっぱい!

 見ただけで柔らかさが伝わってきそうな爆弾サイズおっぱい!


「お、おお……おおおおおおっっぱあああああい!」


 俺の理性は崩壊した。

 女神が身につける神聖な衣装も聖女様が身につければたちまち色気ムンムンなエロ衣装に様変わりしてしまう。


「うおおおおおおお! おぱおぱおぱおっぱああああああい!」


 聖騎士のチカラをフルに発揮して俺は跳躍した。

 オスを誘っているとしか思えない格好をした聖女様に向かって突撃し、手を差しのばす!

 いまこそあのおっぱいを我が手に……


「我が聖女に触れるな。穢らわしい人間よ……」


「っ!?」


 あと少しで膨らみに届きそうだった俺の手は、見えない壁によって阻まれた。

 な、なんだ? これまで感じたことのないこの高圧のエネルギーは!?


「地に落ちよ」


「ぐわあああああああっ!」


 強化された俺ですら突破できない防壁に弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 それどころか……


「くっ、バ、バカな……甲冑が……」


 一瞬で身に纏っていた黒い甲冑が消失してしまった!

 《十二聖将》たちですら傷つけられなかった甲冑がいとも簡単に!


「平伏せよフェイン・エスプレソン。貴様のような輩には、我が聖女を見ることすら不敬である」


 聖女様の前で正体がバレても俺は焦ることはなかった。

 そんなことを気にしている場合ではないと、すぐに判断したからだ。


「……貴様は何者だ?」


 聖女様の姿をした『ナニカ』に俺は問いかける。


「我こそは貴様ら人間が《聖神》と呼ぶ存在だ」


「《聖神》だと!?」


「いまはこうして聖女ミルキースの器を借りている状態だがな」


 まさかの名乗りに驚く。

 では本当にこの惨劇は《聖神》自らが起こしているというのか!?


「《聖神》とあろうものが、なぜこんなことをする!?」


「決まっている。この地を浄化し、聖女ミルキースが生きるにふさわしい世界を創造するためだ」


「聖女様に、ふさわしい世界だと?」


「然り。この世界は穢れている。権力に溺れ、信仰を利用し、腹を肥やす愚か者どもが頂点に立ち、チカラ無き者たちはその腐敗した政治に頼るしかない世界。実に醜いとは思わんか?」


「それは……」


「だが、このミルキースという少女だけは違った」


 《聖神》は愛おしむように語る。


「彼女ほど清く美しい魂を持つ存在を我は知らない。まさに聖女の名にふさわしい。我が寵愛を受けるにふさわしい。ゆえに……」


 また、どこかで人の悲鳴が上がる。


「心の穢れた者をこの地から一掃する。そして我が聖女を人類の頂点に立たせ、この世界を真なる楽園に変えるのだ。

 清き心を持つ者だけが生きる世界……ああ、なんと目眩く未来か!」


 ひとり悦に浸って野望を語る《聖神》。

 世界の浄化。

 心清き者だけが生きる世界。

 どれも話がデカすぎて実感が湧かない。

 だが……


「お前の未来図なんて、俺には知ったこっちゃない」


 腐敗した世界とか、楽園がどうのとか、俺には心底どうでもいい。


「けど……」


 はっきりしていることは、ただひとつ。




「テメェが存在している限り、聖女様の乳を揉めねえってことだな!」




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