無秩序の末路

おもち

 

 「今日は良い天気ですね」なんて言葉は、この辺りの無法地帯を彷徨く粗暴な野郎共には通用しないらしい。そんな台詞を相手との距離を測るジャブのように使った日には、思いがけないカウンターパンチを食らうことになるようだ。

 そう、今日がまさに、そんな日だった。


「お前、何処の者だ? 今日が晴れであろうと雨であろうと、ここをお前が素通りしていい理由にはならねぇんだよ」


 縄張りなんてくだらない。何処であろうと、通りたいときに通るのが俺の生き様だ。ガラの悪い男の一匹や二匹、取るに足らない。


「何だよ。今日は久々の晴れ模様だってのに。お天道様に顔向けできないから、八つ当たりしてるのか?」


 こいつだけではない。自由奔放に暴れまわっている俺が歩いていても、お天道様は顔をしかめるだろう。それでも関係ない。何処の誰にどう見られようと、俺は俺の道を突き進んで行くだけだ。


「生意気な野郎だ。火傷しないと分からねぇようだな」


 相手の手に、鈍く光るものが見える。やれやれ、物騒な道に迷い込んじまったようだ。


「そんな物で、この俺を引き裂けるとでも思っているのかい? もっと賢く、気高く生きようとは思わねぇのか。誰に喧嘩を売っているのか思い知らせてやるぜ、髭面君よ」


「髭面はてめぇもだろうが!」


 髭面の手が俺を目掛けて飛んでくる。同じく髭面の俺は華麗な身のこなしでそいつを躱す。すかさず追撃の姿勢を見せる髭面と猫耳野郎。同じく髭面と猫耳の俺は体勢を整え──。


「こらこら、お前達。喧嘩はお止め」


 ニャーニャーと鳴き止まない二匹のオス猫は、それぞれ首根っこを掴まれ宙吊りにされた。


 秩序は突如として現れ、圧倒的戦力を以て無法地帯に生きるならず者共を制圧する。

 この場所における最大の秩序は「近所のおばちゃん」と呼ばれ、恐れられ、慕われていた。




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無秩序の末路 おもち @mochin7

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