第3話

 ダンジョン探索を繰り返し行っていく中で、俺達は数回、メタルキャットに遭遇した。そこで気付いたのが、やつは一定のレベルを過ぎると、ビビって逃げる事だった。つまり俺はあの時、完全になめられていたのだ。


 いまはその一定のレベルより高くなってしまい、残念だけどメタルキャットを倒して経験値を稼ぐ方法は出来なくなってしまった。


 でも大丈夫。俺達は二人だけのパーティという強みを活かして、多くの経験値を得る事によって、他のパーティより早く成長していたのだ。


 今日──初めて下層に一歩、足を踏み入れる。景色は相変わらず薄暗く、岩石に囲まれているだけだ。でも──。


「空気が全然、違うな」

「あぁ……明らかに上層とは違う空気だ」

「気を付けて進もう」


 俺達は罠に掛かったり、魔物と遭遇しない様、ゆっくりと奥へと進んでいく──すると、開けた場所に出た。大抵、こういう場所には大型のボスが居る。でもここにはおらず代わりに──。


「よぅ、ジョーカー。お前らの噂は聞いていたが、まさかこんな所で出会うとは思ってもみなかったぜ」


 アレスのパーティの一人。召喚士のダートが俺達に気付き話しかけてくる。目の前の金色の宝箱を開けようとしていたアレスはダートの声に気付き、こちらに体を向けた。


 アレスはハンナを見つめ「──なんだ。そのギラついた目は? まさか俺達から、この宝を奪おうって訳じゃないよな?」


「そうだとしたら?」とハンナは言って、挑発するかのようにニヤッと微笑む。


 ダートは「ギャハハハ」と、馬鹿にするかの様に笑い、トサカ頭をユッサ、ユッサと揺らしながら俺達に向かって歩き始め「おい、ジョーカー。俺達の実力はよ~く知ってるよな!? そいつに、やめときなって言ってやれよ!」


 こうやって探索者同士、宝を奪い合うため、スキルバトルに発展することは良くある。だけど相手はS級探求者……しかもダートの言う通り、実力は良く知っている。


 だけど──それが何だッ!!


「やめる? 何で?」と俺は挑発し、鞘から剣を取り出す。そして「俺達は宝を奪って、更に先に行く!」


 ハンナも俺に合わせて、ハンマーを握る。ダートは足を止め、俺達を睨みつけながら「てめぇ……」と奥歯をギリッと噛み締めた。


「ジョーカー……その女のスキルのおかげで運よくここまで来れただけの実力のくせに、舐めた口を聞きやがるじゃねぇか!!!」


 ダートは俺を睨みつけながら怒りを露わにし、アレスの方に顔を向けると「おい、アレス。俺一人で、こいつに分からせてやっていいよなッ!?」


「あぁ、構わん。やってしまえ」とアレスは冷静な目で答える。


 ダートは「えへへ……」と不気味な笑みを浮かべると「──という事なんで、早速ッ!」


 ダートのスキルはレベルに応じて魔物を一体、召喚できるというもの。俺が追放されてから、どれだけレベルが上がっているか分からないが、ダンジョンのボス並みの魔物を召還できるのは間違いない。


「バジリスク!」とダートは、家ぐらいありそうな巨大な蛇を召還する。


「どうだ、ジョーカーッ! ビビッて声も出ないだろッ!!?」

「ハンナ、君は下がってくれ」

「了解」


 ダートはハンナが下がるのをみて、舐められたと思ったようで「ジョーカーッ!!」と叫び、逆上する。


 別に舐めている訳じゃない。これも作戦だというのに──。


「ジワリジワリと痛めつけて、終わりにしてやろうと思ったが……一撃で殺してやるッ! バジリスクッ、ポイズンブレスだッ!」


 ダートの指示に従い、バジリスクは毒の息を吐こうと大きく息を吸い込む。


 俺はその間、「呪いのブーツ、リリース!」と、ブーツのスキルを発動する。そして瞬時に、3倍速でダートとアレス達の間に移動した。


「なに!? どうやった!?」とダートは驚きながらも「まぁ、どうでも良い。バジリスクのポイズンブレスからは逃げられねぇッ!」


 ブーツの能力は3倍速で一瞬だけ動ける代わりに、その後はしばらく動けなくなる。だがこれで良い。


 バジリスクが毒の息を吐き出してくる。俺はすぐさま「呪いの盾、リリース!」と呪いの盾のスキルを解放した。


 広範囲に広がる毒の息が、どんどん盾に集まる。そして「──リフレクトッ」と、アレス達にお返しした。


 呪いの盾の能力、それはあらゆる属性攻撃を完全に防ぎ、相手に反射する。その代わりに俺は、体力が1となる。


 毒の息が消える頃、俺は「──ハンナッ!」と叫ぶ。ハンナはバジリスクの頭上で「分かってるッ!」と返事をした。


「セカンド・インパクト!!」とハンナは叫びながら、バジリスクの頭にハンマーを叩きつける。


 頭蓋骨が砕ける音がして……バジリスクはスッと地面に倒れこんだ。砂埃が舞うと共に地響きがする──バジリスクはもうピクリとも動かなかった。


 召喚士のダート、バフ係のリリヤは毒にやられ、地面に倒れこんでいる。砂埃でよく見えないが、リリヤの近くに居たアレスも同じだろう──俺達の勝利だ!

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