慕思
三夏ふみ
一
伸ばしたその指先に、冷たい感触が触れる。
「すいません。その詩集、予約が入っていて」
久しぶりに読み返したくて立ち寄った、始めての古びた図書館。棚の上から、はにかむ顔がそう告げる。
どんな顔をしていたのだろう。
白い人差し指が、本達をなぞるように滑る。
「もし良かったら代わりにこれを、僕のお勧めですけど」
赤らんだ頬が微笑み会釈すると、色づき出した桜が映る窓に向かって歩き出す。
私は、手渡された本を両手に持ったまま、その後姿から目が離せずにいた。
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