第167話 新しい使役系スキルを選択する 後編
「妖精は精霊と使い勝手が似てて、数が少ない分性能が強化されてるだけで、他は同じような感じだよね。ただ、お菓子や果物といった食べ物を与えないと悪戯をするといった特徴や、召喚者の指示なしに独自に行動する事があるんだっけ」
更科くんが改めて、妖精の特徴を挙げる。
指示なしでも独自行動をするって点は人形だって同じなんだけど、指示に従わないかもしれないって部分は、不安要素に感じてしまう。
「そこが俺にとって不安なんだよね。言葉を喋らないけど自我があるって点は精霊と同じだけど、見た目が人の姿をしているのと、一時的にとはいえ実体化できるって点も精霊とは違うし。俺が悪戯好きで人に近い姿の妖精とコミュニケーションが取れるのか不安なんだ」
せっかく選ぶならお互いにうまくやっていきたいけど、果たしてそれが可能なのか。持て余すくらいなら他の使役を選んだ方がお互いの為になる。
「でもその一方で、魔法の強化はすごく良いなって気もするんだ。精霊だけだと、戦闘中に俺の魔力が余っていても、精霊の魔力切れで召喚できずに魔法が使えない場面があってさ。それを考えると、魔法の強化に妖精召喚を取得するのもアリかと思ってさ。精霊や妖精の数が増えて俺の魔力が足りない事態になっても、俺自身は魔力回復ポーションを飲んで魔力を補う事ができるんだし」
それらの要素を考えると魔法要員として、妖精は有用だ。
「守護騎士は初期からかなり強いっていうし、わりと即戦力だよね。従属系の仲間を徐々に増やしていくって要素を考えると、大器晩成型の要素もあるかな? 専用スキルと専用魔法の両方を使える点はいいよね」
今度は雪乃崎くんが、守護騎士の特徴を挙げる。
俺が主力にしている人形はスキルと専用スキルのみで、魔法が一切使えない。そこを考えると、守護騎士の専用魔法が使えるって仕様は心強い要素だ。
その上、守護騎士の専用魔法や専用スキルはネットで調べる限り、便利そうなものが多い。特に使い手を守る為の能力の数々は、使役の中で随一の性能と言える。
「守護騎士がリビングメイルみたいな見た目って事は、アンデッドの可能性もあるけど、そこ辺りは明言されてないんだよね。でも、見た目は迫力こそあってもそんなに怖くないし、あんまりアンデッドかもどうかって可能性に捉われる必要はなさそうかな?」
更科くんが首を傾げて疑問点を挙げる。
「うん。ネットで写真や動画を見た感じだと、別に怖くなかったから、アンデッドかどうかは気にしなくっていいかなって俺も思ってるよ」
守護騎士がアンデッドかどうかはまだ判明していない。人形だって動力源がないのに動いているんだし、中身が空洞の鎧が自我を持って動くからって、アンデッドだとは限らないのだ。
「いずれはレベル100ごとに15体ずつ増えるようになるとはいえ、その大半は守護騎士に仕える存在だ。契約主がわざわざ個別にレベリングしてやらなくとも、守護騎士のレベルが上がればそれに伴って自動的にレベルが上がっていく。……レベル上げが比較的楽なのは強みだ」
早渡海くんも、彼から見た守護騎士の利点を挙げてくれる。
「そうだね。専門のものだけとはいえ、魔法もスキルも両方扱える上に、数も徐々に多くなっていって、その上レベル上げまで楽とか、すごく使い勝手がいいよね。従属する存在には直接指示できないとはいえ、守護騎士と一緒に動かすように意識すればいいだけだし。……正直、守護騎士は良いとこ取りで悪いところが見当たらないから、一番の有力候補なんだ」
俺も早渡海くんに大きく頷いて答えた。
守護騎士本体自体は、レベル100までに3体のみだ。専門スキルで増えていく他の従属存在はすべて、主である守護騎士のレベルに準じる。早渡海くんの言う通り、守護騎士のレベルを上げれば、附随する仲間も一緒に強くなる。レベリングの手間が最小限なところは大きな利点と言える。
「ロボットもいいと思うよ。数の多さも強さだけど、大きさも強さに繋がる訳だし」
雪乃崎くんがロボットの利点を挙げた。
他の使役とのバランスを考えると、妖精を選んで魔法を強化するのも魅力的だけど、一方でロボットの巨大さも捨てがたいところがあるのだ。
「ロボットを操縦するってのは、男の子の夢にモロに合致するよな。性能以前にロボットってだけでめっちゃ気になるっつーか」
「あはは、それは言えてるよねっ」
波鳥羽くんも勢い込んで発言し、更科くんがそれに笑いながら同意する。
「まあ、ロボットは10メートル以上に大きくなるらしいから、狭い場所じゃ使えないトコはネックだけどさ」
ロボット推しの波鳥羽くんにとっても、その点はやはり気になっているようだ。使えるフィールドが限定されるのは、どうしても不便さが拭えない。
「でも、この先のダンジョンに進めば、それくらい大きなモンスターが出る可能性もあるって事でしょ? そうなるとやっぱり、巨大さって重要になるんじゃない?」
一方で雪乃崎くんは、欠点よりも長所を推しているようだ。
「ロボットに乗るなら自分の分の装備を揃える必要がなくなるかもって利点はあるけど、そこは然程重要じゃないかも? それにパワードスーツ状態の時はともかく、それより巨大化してくれば結局は、ロボットに乗れない時の為に装備を別に用意しなくちゃならないだろうし」
「まあ、下級に入ればお金には困らなくなるし、そんなに問題にならないよね。それに妖精だって毎日甘いものを食べさせる必要があるんだから、食費はそれなりに嵩むだろうし」
更科くんと雪乃崎くんが金銭面で妖精とロボットを比べてみて、どちらもそれなりにお金が掛かるのは変わらないんじゃないかって結論が出た。
「ロボットの大きさは唯一無二の強みだけど、ロボットを操作して前衛として戦いつつ、人形の指示もして、精霊の召喚も熟すのって、俺にとってはキャパオーバーになる気がする……」
俺としても、ロボットの巨大さは欲しいけど、果たして俺がそれを十全に生かせるかどうかは不安だ。元々、クロスボウにする前は槍で前衛をやっていたんだから、俺だって前衛が出来ない訳じゃないけど。でも、同時にいくつものタスクを熟すのって、いまいち苦手なんだよな。
「そうなの? 今だって、指示出しと召喚とクロスボウを平行してるよね?」
シーカーギルドでの戦闘訓練などで俺の戦い方を知っている更科くんから不思議そうに問われて、俺は苦笑しつつ首を振って否定する。
「クロスボウは忙しい時は止められるけど、ロボットの操縦は忙しくても止められないからさ」
俺にとってクロスボウは、あくまで他が手隙の時の攻撃手段で、優先度は指揮と召喚の方が重要だ。それに最近は細かい指示を出さなくても、人形達は自分の判断で動いてくれる事が多い。
ロボットに乗って前衛に出るとなると、後衛よりも忙しさが増しそうだ。かといって、ロボットの巨体を生かすのに、後衛のままでは勿体ない気がする。
「だが、ロボットには自動操縦の機能がついているのだから、指揮や召喚で忙しい時は、自動操縦に切り替えればいいだけじゃないか?」
早渡海くんがそう助言してくれる。
「あー、そっか。そういえばロボットにも人形と同じように自我があるから、ある程度は自動操縦を任せられるんだったっけ」
忙しい時はロボット自身に行動を任せられるなら、ある程度は問題点が潰れるか。
なんか自分で操縦する事に囚われて、自動操縦の機能があるのを知っていたのに、ついおざなりにしてしまっていた。
「並列思考スキルが上級で取得できるようになるから、いずれそれを取得すれば、並列処理も無理なく出来るようになるんじゃない?」
そこで雪乃崎くんが、並列処理を補助するスキルの存在を口にする。
今はまだレベルの関係で取得できないスキルだけど、いずれはそういうスキルも取得できるようになるんだよな。そうなれば今は苦手気味の並列処理も、問題なく出来るようになるかな。
「なんか、ロボット専用スキルには、ロケット発射とかアンカー発射とかあるらしいんだ。それってすげー夢がないか?」
「武器屋で、特注でロボットに合わせた大型の武器を発注できるようにしていくと聞いた。鳴神の腕装着式のクロスボウも、ロボットの大きさに合わせて造れるようになるはずだ。それに槍や剣といった武器も、ロボット用の物を用意すれば使用できるだろう。……まあ、大きさが変わるごとに巨大な武器を用意するとなれば、その分かなりの金が掛かるだろうが」
波鳥羽くんと早渡海くんが更にロボットの利点を追加してくる。
俺としても、今の戦い方を踏襲するなら、守護騎士と妖精の組み合わせが安定していると思う一方で、先々のモンスターの巨大化の可能性を考えると、ロボットの大きさは非常に大きな武器になるとも思う。
「なんか堂々巡りになっちゃって、結局どれにするか決められないんだよね……」
人形と精霊を削除する気はないので選べるのは二つだけなのに、欲しいスキルが三つもある。本当に選択に困る。
「鳴神くんが、これは絶対に外せないって思う部分で決めたら?」
「それか、マイナスが大きいと思うものを除外するとか?」
雪乃崎くんと更科くんがそれぞれに助言してくれる。確かにどれも役に立つなら、そういう考え方で取捨選択していくしかないのかも。
「そうだね。でも三つの使役にはどれにもそれぞれ良さがあるから、どうにも絞れなくて」
どれも役立ちそうだけど、逆に絶対にこれだけは外せないって部分に該当するところは思いつかないでいる。となると、マイナス面が大きいのを外すべきか……。
「俺がマイナスが大きいと思うのは、妖精の悪戯な性格とか、指示を無視した行動があるってところかな。守護騎士はマイナス点は特に思いつかないな。……他にはロボットの、大きくなりすぎると狭い場所で使えなくなるところかな? でも、ロボットはその大きさこそが最大の武器になるんだろうし。それにダンジョンのフィールドは野外も多いから、レベリングは問題なくできそうだよね。それに一番ロボットの力が必要になる大型モンスターが出る場面ではフィールドも広いだろうから、一概にマイナス点とも言えないかな」
自分にとってマイナスとなる点をじっくり考えていく。言葉に出してみると、少しずつ考えが纏まってきた気がする。
「そう考えていくと、マイナスが一番大きいのは妖精って事になるかな? ……妖精での魔法の強化は捨てがたいけど、守護騎士にも専用魔法があるし、俺には元々精霊もいるんだから、ある程度はカバーできる訳だし。……そう考えると、ロボットと守護騎士かなあ」
妖精による魔法の強化はとても惜しいけど、精霊の数が今より増えていけば、ある程度カバーできるようになるだろう。一方、ロボットの巨大さに関しては、他にカバーできるものがない。守護騎士に関しては、欠点が思いつかなから、あえて外す必要を感じないし。
やや物理寄りの編成になるのでバランス的にはどうなんだって気もするけど、守護騎士も専用魔法を使えるし、致命的なバランス崩壊とまではいかないと思う。
あとは、俺がこの編成で満足できるかってところだけど。…………うん、大丈夫だと思う。
どれを選んでも選ばなかった物が名残惜しく感じるけれど、みんなに相談しながら理論立てて考えた分だけ、自分の中に納得がある。
「守護騎士とロボットにしようかな。みんなありがとう。相談に乗ってくれて」
ようやく結論を出せた事にホッとして、みんなにお礼を言う。
「これくらい気にしないで」
「改めてそれぞれの使役の特徴を並べてみて気づいた事もあるし、俺達にも有意義だったぞ」
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