第30話 夏休み終了と四体目の人形、三度目のスクロールドロップ

「石躁召喚、あのイヌ目掛けて石柱撃を頼む」

 俺の召喚に応じて出現した石躁が、地面からイヌの腹に向けて、すごい勢いで伸びる尖った石柱の魔法を使った。それが見事命中して、イヌが石柱の先端に串刺しになる。

「うわっ、これはグロい……。いや、すごい威力だな」

 初めて使った新魔法の威力に絶句する。威力的には多分、炎珠のファイヤージャベリンと同じくらいなのだろう。石柱に貫かれて絶命して消えていくイヌの姿は、なかなかインパクトがある光景だった。

 まあ視覚的な問題はともかく、攻撃力は抜群の魔法だ。倒せる相手は1匹だけだが、まさにオーバーキルと言える。

「ありがとな、石躁、よしみんな、残りのイヌを倒すぞ!」

 残り4匹、これなら一人1匹ずつ受け持って倒していけそうだ。



「……やっぱり石躁も、一時間半以上は召喚できなくなるな」

 むしろ炎珠より石躁の方がレベルが低い分、クールタイムも少し延びている。精霊がもっと大勢召喚できるようになれば、召喚回数ももっと増えるのだけど、今はまだ二人だけだ。新しく覚えさせた魔法は、どちらも切り札的な扱いだな。




 イヌの群れとの戦いの日々は続き、ドロップアイテムの売却益は、過去最高を更新し続けていた。

 そのおかげで、夏休みが終わってしばらく経ってた頃に、人形用の硬質化スキルを全員分買い揃えられた。


「おっ、レベルアップだ」

 ステータスボードを見ると、基礎レベルと人形使いのレベルが同時に16に上がっていた。

 一度に戦う敵の数が多いからか、レベルもかなり順調な上がり方をしている気がする。

「これで4体目の人形が作れるな」

 戦力増強の為に、新たな人形が作れるようになるのを待ち望んでいたのだ。早速部屋に戻って、いつもの手順で人形を作成する。

 4体目は黄色のバンダナを首に巻いて、山吹(やまぶき)と名付けた。

「よろしくな、山吹!」


 ……実は俺は前までは、4体目の人形は大盾持ちのタンク役にしようかと考えていた。

 青藍が盾持ちで攻守ともに安定しているから、次の人形も青藍と似たような役割にしようと思っていたのだ。

 だけど、最近どうもパーティ全体の攻撃力不足が目立つような気がして、ここは思い切って、新たな人形に求める役割を変更する事にした。

 ちょうど硬質化スキルも手に入った事だし、ここは防御よりも攻撃を優先しても良いだろう。

 そんな訳で山吹は、攻撃力や殲滅力が高そうな斧使いにしようと決めた。

 最初は小さな手斧から初めて、体が大きくなるにつれ、斧も大きなものに変更していき、最終的には巨大な戦斧を持たせたい。

 槍を持つ紅とともに攻撃隊長として育てていこうと思う。


 まあ、まだ小さいから、まずはレベル上げからだ。

 小さめの手斧とそれを提げる為のベルトを買ってきて、山吹に装備させてみる。


「レベルが低いうちは無理しないようにな」

 山吹の頭を撫でる。他の人形達と比べると一際小さい。青藍と紅はレベル16の現在、全長1メートル5センチ。紫苑もレベル15で、ちょうど1メートルになっている。

 先達の人形達はついに1メートルを超えたのだ。彼らと比べれば、30センチの山吹が小さく見えるのも当然だろう。


 さて、身体強化とかのスキルを山吹に買い揃える為に、また金稼ぎを頑張らないとな。




「みんな、大丈夫だったか?」

 5匹の群れとの戦闘が終わって人形達の破損状況を確認していると、山吹に問題があった。

「うわ、結構破損が酷いな」

 山吹が大きく損傷してしまっていた。

 レベルも一番低いのだし仕方ないのかもしれないが、どうにもやるせない。

「一度に5匹相手はまだ早かったかな」

 相手に先に気づかれて近づかれ、成り行きでそのまま戦ったのだけど、山吹のレベルがもっと上がるまでは、無理せず撤退しておけば良かっただろうか。


 初期と違って、弱い敵を相手に順を追って戦わせるような手間をかけられず、レベルが低いまま、最前線に連れてきてるのが原因だろう。

 だけど流石に、人形が増える度に1層からやり直す時間は取れない。一応、新入りをできるだけフォローするようみんなに頼んではいるけど、全員がギリギリで余裕がない状況もある。

 敵が強くなった分だけレベルが上がるのも早いのだけど、弱い人形を守りながらどう戦っていくかは今後の課題だ。


「もうちょっとレベルが上がるまで耐えてくれな。俺達もできるだけ山吹の方に敵が行かないように気を付けるから」

 イヌに噛みつかれ、深い噛み痕が残る山吹を慰める。

 他の人形達も山吹を囲むようにして集まってきて、それぞれがこぶしを握ったり肩を叩いたりして頷いている。山吹を守りつつ戦うという決意表明だろう。

 山吹もそんな周りを見回して、みんなと同じように頷いた。


 人形はもし徹底的に破壊されたとしても時間経過で修復するから、ロストの心配はない。それでもやはり、大きな破損はしてほしくない。

 痛覚がないとわかっていても気分の良いものじゃないし、修復に時間がかかるとダンジョン攻略に支障が出る。

 人形達が初期から持っている自己修復スキルは、レベルが上がるごとにその効果もアップしている。

 軽い破損なら数十分くらいで治るし、手足が落ちるようなそこそこ大きな破損でも、一晩寝て起きれば修復している。

 今後敵が強くなればその分破損も激しくなっていくだろうが、できれば大きな破損はしないよう、気を付けていきたい。

 適正レベルのモンスターを相手に無茶をしなければ、難しい希望ではないはずだ。レベルが上がるにつれて、人形達も頑丈になっていくのだから。





 学校生活を送りつつ、放課後から夕飯までのわずかな時間でもできる限りダンジョン攻略に励む。毎日の地道な努力がレベルアップに繋がるのだ。

 山吹用のスキルも少しずつ揃ってきた。身体強化、剛体、氣力増強は買えたので、あとは斧術と硬質化を取得できれば一通り揃う。


 ある日、8層へ降りる階段を見つけた。けれどその先に進むのはもっと後だ。一度階段を下りて8層に直接行けるようにはしておくけど、イヌとの戦いがまだまだだからな。

 もっと群れを倒す時間を短縮できるようになるか、戦闘時間が延びても安定して戦えるだけの地力をつけないと。




「あ、やったっ、スクロールだ!」

 イヌとの戦いの日々で、三度目のスクロールドロップがあった。

「今回はどんなスクロールだろうな」

 使えるスクロールだと良いなと、ワクワクしながら買い取り窓口に持っていく。鑑定してもらった結果は、「槍術」のスキルだった。売値は5万。紅用のスキルをダンジョン街で買った時は、確か3万くらいだったような。

 人気のあるスクロールはダンジョン街での売値よりも何倍も高く買い取ってもらえる場合もあるのだが、槍術スキルはそこまで人気の高いスキルではないようだ。

 それでもダンジョン街で買うよりは高く売れるのはどうしてだろう。何かやらかしてダンジョン街に出入りを禁止されてる人って、そんなにいるのだろうか。

 それとも、数万円の違いくらい気にしないで、ネットでスクロールを買う人がそれなりにいるとか?

 あるいは自分で使う分以外にもスクロールを集めたい、コレクション趣味の人でもいるのだろうか?


(これはどうしようか)

 山吹に覚えさせる予定の斧術ではないし、5体目の人形用にとっておこうか。

(……でも、5体目の人形は、斥候として育てたいんだよな)

 これまで人形は5レベルに1体ずつ増えてきたけど、5体目以降はレベル51まで新しい人形が作れなくなると判明している。


 初心者ダンジョン以外のダンジョンを攻略するようになれば、鍵や罠がついた扉や宝箱などが設置されるようになる。それ以外にもあちこちに、罠が設置されるようになるし。

 それらを解除するには、罠感知、罠解除、鍵解除といったスキルが必要になる。

 斥候系スキルを育てるのも時間がかかる。そろそろ斥候を育て始めないと、初心者ダンジョンを攻略し終わった後に、困る羽目になりかねない。

 けれど一方で、戦力となる人形の数も、足りているとは言えない。できるなら戦力となる人形だって、欲しいに決まっている。

 だからと言って斥候を主戦力にするのは問題がある。斥候は独自に覚えなければならないスキルが多すぎて、戦闘にまで氣を多く回せないのだ。持たせるとしても精々が、投擲スキルと投げナイフくらいだろうか。


(5体目が斥候、6体目を作成できるのが当分先になるなら、このスキルは売っちゃって良いかな?)

 とっておいても良いのだが、今は色々と物入りだ。スクロールの代金が入るのは大きい。

 迷ったが、結局売ってしまう事にした。

 6体目の人形を作った時にもし槍を持たせたくなったなら、その時に改めてスクロール屋で買ったって良いのだ。その方が2万円分お得な訳だし。自分で手に入れたものを売るだけだから、転売には当たらないし、犯罪にもならないはず。

 今はこれを売った金で、少しでも山吹のスキルを強化してやりたい。


 スクロールや他のものを売った分も合わせて、9万ほどの金額が手に入った。

 この金で山吹の斧術と硬質化のスキルを手に入れよう。

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