第16話 攻略が遅い原因の考察と体育祭や中間テスト
「あ、わかったかもしれない」
内心でずっと引っかかっていた事の答えが、ふと閃いた。
このゴールデンウイーク中、俺はかなり焦っていた。
いくら俺が鈍くさいとはいっても、今の状況はかなり悪いんじゃないか。ダンジョン攻略の速度が、あまりにも遅すぎるんじゃないかと、不安と焦りに苛まれていたのだ。
普通の中学生が数人でパーティを組めば、一気に3層以降へ降りられるのが当たり前と言われる初心者ダンジョンにおいて、俺と青藍と紅の三人だけのパーティとはいえ、いまだ2層で燻っている自分が情けなく思えてきて、悶々と悩んでしまっていた。
だが、夜ベッドに横になってこれまでの自分の行動を振り返りつつ、つれづれと考えを巡らせているうちに、ついにアンサーらしきものに思い至ったのだ。
……まず最初。俺は自分の基礎レベルをまるで上げずに、真っ先に人形使いのスキルを求めた。
だがそうやって手に入れた人形は体長わずか30センチで、レベルが低いうちは、まるで役に立たなかった。
俺は人形使いのスキルの事を、成人男性くらいの体型の頼りになる人形が作成されて、そんな存在を使役できるスキルではないかと、勝手に夢想していた。
けれど現実は違っていて、人形は俺よりずっと弱い状態からのスタートだった。
(要するに、人形スキルは大器晩成型だったんだよな)
そして真っ先に人形スキルのスクロールを買ったせいで、資金もほぼ尽きてしまった。
本来なら俺はまず、自分のレベルを上げて最低限のスキルを得て、それなりに強くなって下準備を整えてから、人形を育て始めるべきだったのだろう。
だが、そういったノウハウをまったく知らなかったせいで、弱い自分と弱い人形を同時育成しなければならないという、時間と金がやたらとかかる、険しいルートを進んでしまった。
知らなかったのだからどうしようもないとはいえ、結果的にはそのせいで、俺達全員のレベルが低く、誰もまともに戦えない。
そして、金欠でごく限られた金額を三人分の強化に振り分けているせいで、必要なスキルさえ、ろくに覚えられていない。
戦えないから稼げない。稼げないから金がない。金がないから強化も覚束ない。
(……なんという負のスパイラル)
そういった事情が合わさって、ネズミにさえ苦戦する今の状況へと、繋がってしまった訳だ。
理論立てて考えてようやく、自分のやり方が問題だらけだったと自覚した。
(まあ、理由がわかったところで今更遅いというか、改善のしようがないんだけど)
時は戻せないので、やり直しは不可能だ。
「それでも、攻略が遅い原因に見当がついたおかげで、気分はかなり軽くなったけど」
人形が大器晩成型だというならば、今が一番苦しい時期であり、これからは人形が育てば育った分だけ、加速度的に状況は良くなっていくはず。
装備全般を整える為の金がカツカツの問題だって、強くなれさえすれば解決する問題だ。
今現在が一番伸び悩む時期であり、その壁を超えられれば目途が立つ。ペースが遅くとも諦めさえしなければ、いずれまともに戦えるようになる。
(……少なくとも、ダンジョン攻略を諦めなければならないような、致命的な問題じゃない)
そこさえわかっていれば、また明日からも頑張れる。
休み明け。
うちの学校は、5月半ばに体育祭がある。なので連休が明ければ、すぐに体育祭の準備開始だ。
俺はまだ、クラスメイトの名前を半分も覚えていないし、クラスのみんなも、まだお互いに把握できてないんじゃないかな。
体育祭はそんなクラスに少しでも交友のきっかけを作って、一体感を高める為のイベントという位置付けらしい。
活発なヤツが積極的に出たい種目に立候補して、やる気がないタイプは無難な競技を選択して……と、なんとなく種目も決まり、放課後には毎日練習時間も取られた。
俺の出場種目は、全員参加の競技以外はひとつだけ。一人ひとつは参加するよう、ルールを決められているから仕方ない。
ダンジョンに行ってるヤツも行ってないヤツも一緒くたに参加する体育祭は、正直レースらしいレースにはならない。レベルによって運動能力にかなり差が出るんだから仕方ない。
小学校の時でも早いヤツはダンジョン攻略を始めていたし、レベルの違いも少しはあった。それが中学校にもなれば、その差は更に開いてしまう。
かといって、公式競技のようにレベル別に振り分けられるほどの人数はいないし、競技をそこまで細分化する時間もない。
そんなこんなでこの学校の体育祭は、単なるレクリエーションと化しているようだ。
練習風景でもまじめに練習する人数より、わいわいと楽しそうに話しながら、のんびりしている人数の方が多い。
ここの学校の校風は、ほどほどにのんびりといった雰囲気のようだ。
そして、特に波乱もなく体育祭は終わった。その余韻をぶち壊すように、今度は学校全体が中間テストを控えて、勉強中心の空気に変わる。
俺もテスト期間中はダンジョン攻略は自粛して、放課後も勉強に集中した。
中間テスト本番は、小学校の時よりはいささか手応えを感じたものの、やはり自分の頭の悪さを再確認させられるものだった。
結果がでるのを、戦々恐々としながら待つ。
そして結果は恐れていた通り、数学が赤点。ギリギリラインを割り込んだ程度とはいえ、やっぱり赤点からは逃れられなかった。
英語は一応、危ういところで赤点から逃れられたが、これもかなりマズい点数だった。
他の科目は、社会と理科は平均点よりやや下とはいえ、まあ俺としては十分許容範囲内か。
そして国語だけは、なんと平均点を超えた。こんな高得点は俺の人生で初めてである。
結果を受けて、自分の脳内で一人反省会をする。
(一番苦手な数学を、もっと集中的に頑張るべきだったか)
あとちょっとだけ点数が取れていれば、赤点は回避できたのだ。もう少し数学に力を入れて勉強していれば、オールクリアの可能性だってあったのに。
春休みから毎日勉強してきたのにと思うと、かなりがっかりした。
ろくに勉強もしていなかった頃は赤点を取っても、まあそんなもんだろうといった気持ちがあったのだけど、やるだけやってこの有様というのは、思ったよりも堪える。
(前世で一度成人してる記憶があっても、前世でも落ちこぼれだったのは変わらないからなあ)
「成人していて小学生の問題が解けないのはおかしい」って、前世でも散々言われた。
そういう事を言う人は「自分にとってできて当たり前」の事が「どうしてもできない人がいる」って、信じてなかったり、気づいてなかったりする。
(できる人にはできない人の気持ちがわからないっていうけど)
ボーダーラインの遥か下の底辺から這い上がってこれないからこそ、「落ちこぼれ」って呼ばれてるのに。存在そのものを否定されてこちらがどれだけ傷つくか、ちょっとは考えて欲しい。
(あー、前世の悔しさややるせなさまで蘇ってきた)
深いため息をつく。
至らない自分が悪いっていうのはあるよ、そりゃ。だけどそれでも、勝手にあれこれ言われて、腹が立たない訳でもないし、傷つかない訳でもないのだ。
できない事で劣等感を抱えて、自分が嫌になって。
それでも生きていかなければならないから、自分なりにどうにか足掻いて。なのに結果がついてこなくてまた絶望する。その繰り返しだ。
(……うう、考えれば考える程落ち込んできた)
前世では努力してもどうしようもなくて、自分のダメさを受け入れられず、逃避したり絶望したり、日々を無為に過ごしていた。
今世でも、記憶が戻るまではそうだった。
でも、この世界には親切設計のダンジョンがあって、努力すれば誰だって、着実に成果を出せる世界なのだ。
諦めるにはまだ早い、結果はいつか必ずついてくる。
そう信じて、ダンジョンを攻略しようと決意したのだ。
(一回目のテストの結果で、思うより点数が伸びなかったからって、そこで諦めたら前世と同じだ)
苦手な勉強でだって、取れる手段はあるのだ。
スキル「知力強化」と「記憶力強化」を手に入れて、レベルを上げればいい。
そうずれば、少しずつであっても、現状は改善するとわかってるのだ。
それだけで前世よりマシなずっと状況なのだ。諦めるにはまだ早い。
できるだけ早めに、知力強化と記憶力強化を手に入れよう。そして期末テストでは今度こそ、赤点を回避したい。
その為にもまた、ダンジョン攻略を頑張ろう。
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