転生してもぼっちなので、人形使いになる方向で
アリカ
第1話 転生しても日本だった、でもダンジョンがあるパラレルワールド!?
鳴神鴇矢(なるがみときや)。
それが俺の今の名前だ。
日本在住、両親と兄と姉の5人家族。
運動も勉強も平均以下で、なんの取り柄もない末っ子次男だ。かなりの人見知りで、親しい友人もいない。
そんな俺だが、小学校卒業式を終えたばかりの今、何故か唐突に前世の記憶を取り戻していた。
「はは、マジか……」
夢のような話だが、ただの妄想と片付けるには、前世の記憶はあまりにも鮮明だ。
「抓ると痛いし」
頬を抓って確かめてみても、当たり前に痛い。
(記憶が戻っても、俺は俺なんだけど……)
これまでこの世界で生きてきた記憶も人格も、そのまま引き継いでいる。前世を思い出した影響で、多少は性格や考え方が変わった部分もあるのかもしれないけど、それほど違和感を感じなかった。
前世での俺も今とあまり変わらない、取り柄がなくて人見知りな性格だったからだろうか。
それに、前世も今世も、同じような地球の日本で生まれ育っているのだ。国も時代もほぼ同じなので、価値観があまり違わない。
強いて違いを挙げれば、家庭環境や容姿や名前、そして前世では成人過ぎまで生きた記憶があって、今世では小学生を卒業したばかりの子供の精神である、という部分くらいか。
まあ、家族構成や周囲の環境が違う以上は別人ではあるのだが。
「それに何より、決定的に違う部分があるよな」
同じような歴史を辿ってきた地球世界。非常に良く似たパラレルワールド。 だけど前世と今世には、ひとつだけ決定的な違いがあった。
この世界には、前世で俺が好きだったファンタジー題材である「ダンジョン」が、現実のものとして存在しているのだ。
この世界では約30年前に、世界各地に様々なダンジョンが突然現れて、世界に多大な影響を与えた。
世界は得体の知れない構造物の出現に震撼とした。そしてその内部に恐ろしいモンスターがいると知って危機感を覚えた。けれどそれも最初期だけの話だ。ダンジョンから外にモンスターは一切出てこなかったし、何よりもダンジョンには危機感を上回る程の膨大な利益があると、すぐに判明したからだ。
ダンジョンからは、様々な有用な資源が得られるのだ。
モンスターを倒すと必ず得られる核結晶(コアクリスタル)は、クリーンエネルギーの燃料として使えた。
そして、モンスターを倒すと一定の確率で落とすドロップアイテム。他にも、ダンジョン内にある宝箱など。そういったものから得られるアイテムには、怪我や病気を治したり、若返りや老化防止といった効果を持つポーションまであって、当時の世を大いに騒がせた。
極めつけには、誰でも魔法やスキルを使えるようになるスクロールの数々や、それまで世界には存在しなかった、ミスリルやオリハルコンといった幻想金属などなど。
ダンジョンはとんでもない宝の山だったのだ。各国はその利益を見逃せず、競うように内部を調べ、得られるアイテムを調べ……そうして次第に、ダンジョン攻略に夢中になっていった。
おまけにこのダンジョンは大変親切な設計をしていて、中で怪我をしたり死亡したりしても、「なかった事」となって、無事に外へ戻ってこられるという、非常に安心安全な仕様だった。(ただし、ダンジョン内で負った怪我の痛みや死亡時のトラウマといった、精神的なものはどうしようもないのだが)
「死ぬ危険がないっていうのは大きいな」
ダンジョンから出ればどんな怪我も治るというなら、体に障害を抱えるような心配もいらない。これは、ダンジョンを攻略する上で重要な要素だと思う。
更に有用な事に、この世界に現れた数多のダンジョンはすべて、空間転移門……「ゲート」によって繋がっているのだ。
そのおかげで、一度でもどこかのダンジョンに出入りさえすれば、任意の場所にすべてのダンジョンに転移で出入りする為の出入り口を設置できるようになるのだ。(このゲートは一度設置した後でも、場所を移動したくなれば、また別の場所に移動して再設置もできる)
このゲートのおかげで、世界中のどこからでも好きな時に、好きな種類のダンジョンに挑める訳だ。
「行きたいダンジョンが海外でも好きな時に行けるなんて、本当に便利だよな」
まるでダンジョンを作った「何者か」が、地球人類をダンジョンに誘い込もうとしてるみたいだと、ぼんやり思う。
まあダンジョン側の意図はともあれ、どこからでも、どのダンジョンへでも自由に出入りできるなら、ダンジョン攻略はとても捗るだろう。
その上、通常ダンジョンはゲームでいうところの「インスタンスダンジョン」仕様なのである。つまり、個人やパーティ単位で、別々に形成された「別次元にある同一内容のダンジョン」へと挑めるのだ。
そのおかげで宝やモンスターの取り合いになる心配もなく、PKやMPKといった悪質な犯罪の心配もしなくて済むのだ。
それだけでもすごいのに、ダンジョン内でモンスターを倒すと、経験値を得られてレベルアップして、基礎能力が向上するのだ。スキルや魔法も、スクロールを手に入れられれば誰だって覚えられる。
しかもそうして得られたレベルやスキルや魔法は、「ダンジョンの外の地球上でも」変わらずに使用できるのだ。
「まるで、ゲームが現実になったみたいだよな。モンスターを倒してレベルを上げて、魔法もスキルも使えるなんて」
ファンタジー好きとして、ここは外せないポイントだ。魔法が現実世界で使えるとなれば、できる事はたくさんある。普段の生活に与える影響は勿論、世界の進化そのものにも大いに影響しそうだ。
ここまで条件が揃っていれば、ファンタジー好きな人以外にも、ダンジョンに興味を持つ人が出てくるのは必然だ。
ダンジョン出現当時、世界各国の政府は各地に現れたダンジョンを政府の管理下に置いて、特定の軍人や警察官といった職種の者のみが利用できるように制限しようとした。
だが結局は世界中の国の殆どの政府が、ダンジョンを民間に開放する流れとなった。
政府所属の軍や警察機関に所属する人員だけでは、数多あるダンジョンを攻略するには、とても人手が足りなかったのだ。
けれど攻略せずにただ放置するには、ダンジョンから得られる利益はあまりにも大きい。そして民間からの、「ダンジョンを開放して欲しい」という強い要望の数々も、あまり長い事無視し続けられない。
何よりも、多くの利益を得る為に、大国が率先してダンジョンを一般開放し始めてしまえば、他の国も大半は、我が国も遅れじとその流れに乗るしかなかった。
今やこの世界では、多くの一般人がダンジョンを攻略する為に活動しており、ダンジョンから得られるドロップアイテムによって様々な恩恵を受けている。まさに世界全体が、ダンジョンの影響下にあると言える状態だ。
俺は、前世の記憶が戻るまでは、ダンジョンに興味を持っていなかった。運動音痴ではまともに戦えやしないと思っていたからだ。それに、一緒にパーティを組んでくれるような友達もおらず、ダンジョンで戦うなんて到底無理だと、端から諦めていた。
……だけど、記憶が戻った今は違う意見だ。
レベルを上げる事によって、基礎能力を向上させられるのだ。むしろ積極的にダンジョンに潜って強くなるべきじゃないか。
記憶が戻る前の、「自分のような落ちこぼれにはどうせ何もできやしない」と、塞ぎ込んでいた自分に対して、強く声を張り上げて叱りつけたい。なんて勿体ない事をしているんだと。
死なない上に怪我もしないで安全に強くなれるなんていう、とんでもない便利な手段をわざわざ用意してもらっているのに、何故あっさりと諦めてしまうのか。
前世の地球には、こんな便利な夢のようなダンジョンなんて存在しなかった。この世界にはそれが存在するのだから、もっと奮い立つべきだ。
(最初から俺じゃ倒せないような強いモンスターしか出ないとか、一度でも死んだらお終いだとかいう事情なら、尻込みするのもわかるけど、この世界のダンジョンは、そんな鬼畜仕様じゃない。頑張ればその分報われるんだ)
今世の俺は前世の記憶が戻るまで、この世界で生まれ育って、物心ついた頃にはダンジョンが当たり前に存在する環境にいたからこそ、この親切設計のダンジョンのありがたさに気づけなかったのだろうか。……本当に勿体なさすぎる。
(それに、ダンジョンっていうファンタジーな存在があるなんて、すごくワクワクする! せっかくそんな面白そうなものがある世界に転生したんだから、挑むしかない!!)
前世の俺にとっては、ダンジョンという存在は夢と希望の塊なのだ。やる気が溢れて止まらない。
それに別に、ファンタジーへの憧れだけでそう思う訳じゃない。利点だってちゃんとある。
レベルを上げて魔法やスキルを手に入れていけば、できる事も増えていくのだから、いつまでも落ちこぼれのままでいなくて済むのだ。
……それに、運動音痴で自分で戦うのが苦手であっても、やりようはある。
今ネットで調べているところだが、多数あるスキルの中には、自分の代わりに戦わせられる「戦力」を得られるスキルまで存在するらしいのだ。
例えば、精霊を召喚するサモナー。
精霊とは、実体を持たない魔法生物だ。サモナースキルを入手して精霊ダンジョンへ行けば、相手の合意が得られれば契約できる。
精霊は魔法は覚えられるがスキルは覚えられないという特徴を持ち、魔力を使い、短時間だけ召喚できる。
精霊には痛覚は存在しないが、魔力の使用による疲労はある。実体がないため死亡はしない。
契約時はレベル1から開始。召喚し魔法を使わせる事で、その分だけレベルアップする。
時間制限はあるが、サモナーが渡した魔力よりも多くの魔力分の魔法を使う事が可能な存在だ。
例えば、幻獣を使役するテイマー。
幻獣とは実体を持つ、動物に近い存在だ。テイマースキルを入手して幻獣ダンジョンへ行って、相手の合意が得られれば契約できる。
痛覚や疲労はあるが、死亡しても時間をおけば復活する。
レベルの高い幻獣も稀に存在するが、テイマーのレベルより高い幻獣とは契約できない。
通常はレベル1の幼体から、テイマーとともに成長していく。
幻獣と契約する場合、食事の用意や排泄物の始末や寝床の確保など、ペットのように細々と世話をする必要がある。動物好きな人でなければ負担だろうし、大型幻獣となれば、食事だけでも馬鹿にならない費用がかかる。
テイマーが魔力切れや意識不明になっても、独自に動けるメリットがある。
また、スキルも魔法も両方を覚えられるという性質を持つ。
例えば、人形使い。
スキルによって人形を作成して使役するスキル。作成された人形は自動で動く。
人形はスキルは使えるが魔法は使えないという特徴を持つ。
痛覚も疲労もなく、破損しても自動修復スキルで、時間経過で修復される。これは極度に破壊された場合でも、時間はかかるが修復できるものなので、どんな状態になっても死亡しない。
人形は「人形使い」のスキルさえあれば、ダンジョンへ行かずとも作成できる。作成した人形はレベル1からの開始。モンスターを倒して経験値を溜める事でレベルアップして強くなっていく。
人形の数を増やすには、人形使いのスキルレベルを上げる必要がある。
アイテムボックスやインベントリスキルを持つ場合は、人形を収納空間の内部に収納できるという特徴を持つ。
(こういったスキルを得られれば、俺でもダンジョンに潜れそうだよな)
自分一人では無理でも、一緒に戦ってくれる戦力が得られるのだ。それならきっと、ダンジョンでもやっていける。
自分以外の戦力を増やせるスキルとしては、他にもネクロマンサーもあるようだけど、俺はホラーもグロも苦手だから、それは除外する。
こうして例に挙げた三つの使役スキルは、どれもそれぞれ特徴があって、メリットもデメリットもある物だ。その中で俺が一番欲しいと思ったのは「人形使い」だ。
自分が運動音痴で、仲間に守ってもらうような戦い方をする事になるだろうから、実体があって痛覚のない存在が最適だと思ったのだ。
それに、精霊にしても幻獣にしても、相手の合意がなければ契約できないのだ。俺の性格で彼らと契約できるか不安だし、もし仮に契約できたとしても、うまくコミュニケーションがとれるかどうかわからない。
だからもう、人形使い一択だ。
「よし、決めた! 俺は人形使いになって、ダンジョン攻略を目指すんだ!」
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