新参黒姫の【先行】謝罪動画
渡貫とゐち
新参黒姫の【先行】謝罪動画…前編
『はじめまして。
花柄が彩られた、赤色の和装少女だ。
年齢は十四。ばっさりと肩で切った黒髪だ。
かんざしを差しているのは、髪留めのためではなく、ワンポイントアクセントか。
刀の国、特有の和室が映し出されている。
畳と障子。彼女の後ろには、毛筆で書かれた格言が飾ってある。
『初心忘るべからず』――まさに今、走り出したばかりなのだが。
『至らぬところばかりですが、これから姫として、誠心誠意つとめて参ります――
不束者ですが、よろしくお願い致します』
丁寧なお辞儀だった。
両手を重ね、畳にくっつけている。
セリフもあってか、本当に家を出て、嫁ぐような娘のようで……。
配信を見ている男性は、親でなくとも寂しさを感じただろう。
他国から取り入れた最新技術での配信だ。何百年も時代が遅れている、と言われている刀の国だが、最近は他国の技術を取り入れている。
年に一度、各国が一つの国へ集まる祭典があるのだが、先代の姫が『エンタメの国』へ訪れた際、他国の文化と技術を持ち帰ってきた。
見よう見まねだが、型落ちでも刀の国では最先端だった。
『では、挨拶はこのあたりで。
続きましては――先当たっては、みなさまにお伝えしておきたいことがあります』
型落ちながら最先端である……つまり、最先端であるがゆえに起きた問題は、他国のデータがたくさんあるのだ。便利だからこそ、歪んだこともある。
刀の国は、よく『物騒な国』とイメージを持たれているが、しかし刀で斬りかかる、というのは意外と労力を使うのだ。
軽くはない金属の武器を抜いて、振り回し、簡単には斬れない相手の肉を斬る――
感情的になっても、なかなかその全ての行程を踏む、ということは少ない。
よほど激昂していない限りは。
拳銃ほど楽に、相手を攻撃できるわけではない。スイッチ一つで相手にダメージを負わせることができる(肉体的にも精神的にも)他国と比べたら、刀の国はまだまだだ。
手を、腰にある柄へ持っていくあたりで、カッとなった怒りも冷静になっている。
……刀を抜くほどか? それでも怒りが勝れば、抜いてしまうものだが。
売られた喧嘩は、買わなければ男が廃る、という面もあるので、手軽に他人を攻撃できる他国とそう変わらない被害も、探せば出ているのかもしれないが……。
被害者が声を上げないのも、刀の国らしさである。
振り上げた武器に覚悟が乗っているか、否かの違いだ。
『私、黒姫ですが、恐らくはこの先で「間違ったこと」をするでしょう。それについて大目に見てください、もしくは、まだ若い少女ですので水に流してください、と言うわけではありません。事態が起こってからでは遅い、と私は考えておりますので――。その時にどたばたするよりも、この場で、最速でみなさまにお届けしたい私の気持ちでございます』
んっ、と小さな咳払いをし、黒姫が再び、頭を下げた。
『この度は、私の不手際、迂闊な行動でみなさまに多大な迷惑をかけてしまったことをお詫び致します……。「なにかやらかした?」と思った方は多いかもしれませんが、今のところ、みなさまが心配しているような失敗はしておりません。
失敗をする前に、こうした謝罪動画を撮っている、という次第です。この動画はアーカイブに残しておきますので、私が失敗をした時、みなさまはこの動画へ飛んでいただければ、最速で謝罪動画を見ることができます。
迷惑をかけておきながらなにも反応をしない、というのは火に油であることは、先代の姫から教えていただきました。そのための動画となります』
仲が良い『エンタメの国』のお姫様が言うには、
「不祥事を起こしたら、すぐに謝罪動画か、コメントを残した方がいいわよ? なにも反応をせずに雲隠れをするのが一番マズイんだから。
次に出てきた時が最悪ね……袋叩きよ。とにかく、動画かコメントさえあれば、あとは国民がそっちを叩いてくれるから。
叩かせておけばいずれ飽きるでしょ。盛り上がっている間に、あたしたちは問題の対処をすればいいだけ。謝って終わりじゃないわよ? 起きた問題の収束。それが姫の役目だからね」
黒姫よりもちょっと早く、姫になったはずなのに、もう色々なことを知って、体験している……、早速大きな失敗でも起こしたのだろうか。エンタメの国では科学技術も進化しているし、国民が声を上げて他者を攻撃するのは普通なのかもしれない。
刀の国だって、刀を持って――そうでなければ調理器具を握って、城に攻めてくる時代もあったようだ。今は絶対にできないが、昔は迎え撃ち、謀反を起こした者は問答無用で斬り殺していた……今の時代は、できないし、やってはいけない。
復讐の連鎖が始まるだけだ。
『では、配信は以上になります。次回の配信日は未定ですので、みなさま、明日もお勤めがんばってください――それでは、黒姫でした』
襖が閉まるような音と演出で、配信が終了した。
べべんっ、という音までは、撮影者のミスで入らなかったけれど。
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