小さきシド

司忍

第1話 小さきシド

シドは、白鳥にパンをやりに湖に出かけるのが日課だった。この時間ならば、きっとあの湖にいるだろう。


孤独だったシドは、マンルスによって若き騎士に預けられ、今では彼の最愛の弟子となっていた。


[仲間の皆さんとお稽古をしていたのではなかったのですか?] [シドよ、お前に大事な話があるのだ]


若き騎士は馬を降りると、少年とともに浜辺に腰をおろしながら言った。 [実は、しばしの別れをいいにきたのだよ。 大様からとても重大な任務を仰せつかった。しばらくここを留守にしなければならない]


シドは、師の顔を見つめた。向こう岸では高い木々の枝が風に揺れ、その音がかすかに聞こえてくる。 [難しい試練に臨まれるのですね]シドが言った。 [なんのことだ・・・・・] 騎士は、シド少年の洞察力におどろかされながらいった。


そして体をぐっと前に倒すと、頭と両手を地面にくっつけて、脚の間から景色を見渡した。いったい、なにをしているのだろう?


[見てください、すごいですよ!ほら、先生もこっちにいらして!]シドが叫んだ。


若き騎士はシドの隣に行くと、同じ格好をしてぐるりと辺りを見回した。


眺めているうちに腰が痛くなってきた彼は、じりじりしてシドに訊ねた。 [なにがそんなにすごいのだろう?]


古く慣れ親しんできたものは、まったく新しい別のものになり得るーー。彼はシドとともに地面を寝転がると、その髪をやさしくなでながら言った。 [わたしは今、お前からとても大事なことを教わったよ。ありがとう]


やがて息を切らしてシドを降ろすと、若き騎士はひざまずき、彼の手を取った。


[アルマの家にいってくるよ。わたしが帰ってくるまで、彼女が面倒を見てくれる。白鳥の世話をしっかりして、エサをやるときは、わたしのことも思い出してほしい。稽古も忘れてはいけないよ。日々の積み重ねが、未来への下ごしらえになるのだからね]


七裁のシドに教えてもらった、大事なことを胸に繰り返しながら。

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小さきシド 司忍 @thisisme

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