第41話 学年1位ですが、なにか?
そんな調子で放課後。
皇に声をかけようと思ったが、「ボク急いで帰らなきゃ! お先に!」と慌てたようすで帰ってしまった。
まあ、今声をかけたところで、どんなことを話したらいいか分からないので、むしろ助かったが――そう思ってしまう自分をひどく情けなく思い、俺はとぼとぼと1人で帰路を歩いていた。
「おや、今日も哀愁の漂う背中をしていますね」
そんな折、いつもの如く重縄が背後から現れた。
「お前は本当にいつもいるな」
「ふむ……」
ふと、重縄がなにやらすんすんっと鼻を鳴らし始めた。
はて? 犬の物真似でもしているのだろうか?
「先輩から同類のニオイがします。今日、盗み聞きでもしましたか?」
「!」
怖い。ニオイでそんなこと分かるわけないだろ、普通に考えて。
その後、立ち話もなんだしと、つい昨日使った公園に再び立ち寄った。お互い自然にブランコへ向かい、腰を降ろしてギコギコと音を鳴らしながら緩く漕ぐ。
「それで? 今度はなにをやらかしたんですか?」
「俺がやらかした前提で話を進めようとするな」
「前回は、女子トイレに侵入でしたよね」
「……」
「今回は女子更衣室とかですか?」
「違う」
「まあ、相談してみてくださいよ。私、これでも乙伎草子では優等生ですから。いい知恵を、手綱先輩に提供できるかもしれませんよ?」
「んーーーー」
「なんですか、その訝しむような視線は。私が優等生であることを疑っているんですか」
「そうだ。と、言いたいところだけどな。たしかに、お前は育ちがいいもんな。勉強はできそうだよな」
「学年1位ですが、なにか?」
そう言いながら、重縄はどこからともなく「スチャッ!」と黒ぶちのメガネをかけた。
「おおー頭良さそう」
「手綱先輩もちょっとかけてみてくださいよ」
「俺?」
俺が答えるよりもはやく、重縄がメガネをかけてきた。
「あ、似合いますね」
「そうか?」
「はい。いつもに比べて、頭が良さそうに見えますよ」
「そうか……ん? つまり、普段は頭が悪そうに見えてるってことか?」
「おっと、話が脱線してしまいましたね。今は、そんなくだらないことは横に置いておいて、先輩の悩み事を話してみてください」
「年下の女の子に相談することじゃないんだが……まあ、聞いてくれ」
「はい」
「これは友達の友達の話なんだが」
「ああ、手綱先輩の話ですか」
「……」
とりあえず、俺は仲のいい2人の女子が、どうやら俺の友達の友達のことが好きっぽいという話をした。
「でも、片方には別で好きなやつがいたはずだし、もう片方は突然好きじゃないとか言い出すしで、頭がこんがらがっていてな……」
俺はずっと姫金は皇が好きだと思っていたし、皇は結局俺が好きなのかそうじゃないのか分からなかったしで、もはや大混乱中なわけである。
それを掻い摘んで重縄に話すと、「なるほど」と頷いた。
「なかなか複雑な話なようですが、結局のところ手綱先輩はどうしたいんですか?」
「え? 俺?」
俺は――。
「仲直りさせたい」
「そうですか。だったら、恋愛のあれやこれや、誰が好きとか、誰が嫌いとか、そんなことは一旦横に置いておいていいんじゃないですか? 先輩の頭が悪そうなことのように」
「なるほど……今最後なんて言った?」
だが、重縄の言う通りだ。姫金が皇じゃなくて、実は俺のことが好きだったとか、皇が俺を好きかそうじゃないかとか、今はそんなことどうでもいい。
俺の目的ははっきりしている。皇と姫金、そして重縄の仲直りだ。
ここで一度、状況を整理してみよう。
もともと、皇が隠していた性別のことにかんして、姫金も重縄も怒っているわけじゃなかった。
重縄曰く、どうやら皇が俺のことを好きらしい。それで重縄は俺たちに遠慮しているだけ。ようするに、重縄とはすでに気まずくなる要素が皆無。
問題は姫金と皇か?
昨日の感じだと、和解したという感じじゃなかったよな?
「……よし。まずは明日、皇と話をしてみるか」
「なるほど、片方は皇先輩ですか」
「あ」
しまった!
重縄がいるのを忘れて、つい独り言を!
「ふーむ……しかし、皇先輩のことが好きだと思っていたら、実は手綱先輩のことが好きだったもう1人って、一体誰なんでしょうか。あの人だと……時系列がおかしいですし……うーん」
なにやら重縄が考え込んでいるが――ともかく。
その日の夜、俺はさっそく夜の窓辺に皇を誘って、話を聞いてみることにした。
だが――。
「ご、ごめん! ボク、宿題やらなきゃだから! ま、また明日ね!」
と、断られてしまった。出鼻をくじかれた。まあ、こいうこともあるよなぁ……。
「あれ? 今日、宿題なんて出されてたっけ?」
そう思って一応、冴島にメッセージを飛ばして訊いてみたのだが、回答は「ないぞ~」とのことだった。
「……皇?」
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