第12話 よ~し! 今日は楽しんじゃうぞ~!
普通に振っても絶対に諦めないであろう姫金若菜。彼女に、皇のことを諦めてもらうには、皇に対する好感度を下げるしかない。これが俺が考えである。
俺は冴島からもらったテーマパークのチケットを使い、皇に姫金とのデートを勧めた。そのデートで、姫金の皇にたいする好感度を下げれば、諦めてくれるという寸法である。
しかし、この俺の完璧な筋書に皇が難色を示した。
「というか、本当にそれしか方法はないの?」
「代案があるなら聞こうじゃないか」
「たとえば、ボク以外に好きな人を作ってもらうとか」
俺はこの皇の代案を鼻で笑った。
「姫金くらい一途な人間が、別のやつに目を向けるとは思えないなぁ」
「それは分からないよ? そもそも、ボクにたいする気持ちが、恋愛感情とは言い切れないでしょ?」
「どうしてそう思うんだ?」
「彼女のボクにたいする目って、どこか憧れというか……恋愛感情とは違う気がするんだよ」
「それは皇の主観でしかないじゃないか。根拠はあるのか?」
「……本気の目を見たことがあるからさ」
そう言って、皇は遠い目をしていた。皇の言葉で、俺に思い当たりことがあるとすれば、以前しつこく電話を鳴らしてきた例の後輩だろうか?
「本気の目を見たことがあるボクとしては、彼女の目はそこまで本気の目じゃないと思うんだよ。もちろん、少なからず好意は抱いてくれてると思うけどさ」
「よく分からないが、どのみち目先の問題を解決する必要あるだろ? 変に探られて、秘密がバレてもいいのか?」
「それは困るけどさぁ……デートかぁ……いやだなぁ……」
そう言って、ヘタレていた皇に喝を入れて、姫金とのデートを強制。最終的には、皇の渋々俺の提案を受け入れた。
あとは、姫金から了承を得るだけなのだが――。
「なあ、姫金。実は、友達からテーマパークのペアチケットをもらってな。よかったら、皇と一緒に行って――」
「いくっ!」
即答であった。あまりにも食い気味にきたものだから、「お、おう」と戸惑ってしまった。
「皇くんと~テーマパークでデートかぁ~! 楽しみだなぁ~!」
「そいつはよかったな」
それじゃあ用事は終わったと、俺は人気のない学校3階の踊り場から立ち去ろうとして、姫金から「待って」と呼び止められる。
「なんだ? まだなにかあるのか?」
「いやぁ、その……す、皇くんと2人きりっていうのは、さすがにちょっと緊張するっていうか……えっとぉ」
「うん?」
「えーっと、だ、だからね? 手綱くんもぉ……一緒に来てくれないかなぁ……と……」
「え? でも、ペアチケット……」
「あんただけ、当日券買えばいいじゃない」
「自費で?」
「わ、分かった! 半分出すから!」
「半分?」
「全額出せばいいんでしょ!?」
そんなこんなで、俺も皇と姫金のデートに同行することとなってしまった。まあ、ここで断るのも不自然だし。というか、皇を1人にするのも不安だし。
せっかくの休日がお守りに費やされるというのは、精神的に辛いところがあるが――致し方ない。
そうして、デート当日を迎えた今日。
「あのさ、デート明日にしない?」
皇が物陰に隠れてヘタレていた。俺と皇の視線の先には、すでに待ち合わせ場所で待っている姫金の姿あった。
普段の着崩した制服からは想像できないような、清楚な白色のワンピース姿で、一瞬誰か分からなかった。それほど、姫金は気合を入れて、オシャレをしてきたのだろう。
すれ違う人たちのほとんどが、2度見するほど目立っていた。中には、見惚れるあまり、一緒に歩いていた恋人に小突かれる男がいるほどである。
髪もふんわりと仕立て上げられており、デートの直前で美容院にでも行ってきたのだろうか。手に提げられたバッグもワンピールに合わせた色合いで、全体的に爽やかな印象がある。
普段のチャラチャラとしたイメージから、服装だけで随分と変わるものだと、俺は感心した。
だというのに、この王子様は姫金とのデートをドタキャンしようとしていた。たしかに、皇の好感度を下げるという意味では、それも選択肢としてありよりのありと言える。
が、それはあんまりにもあんまりだ。そもそも、好感度を下げたいとはいえ、皇を悪者にしたいわけでもないのだから。それは却下。
「ほら、行くぞ」
「うぅ……デートなんて、ボクしたことないよぉ……」
「弱気なこと言うな。大丈夫だ、俺がついている」
「手綱くん……!」
「なにかあっても、見守っていてやるからさ」
「あ、助けてくれるとかじゃないんだ。本当についてきてくれるだけなんだ」
その後も、皇はぶつくさ言っていたが、覚悟を決めたのか姫金に「お待たせ」と声をかけた。
「あ、皇くん! ま、待ってないよ……!」
「その服、可愛いね。見違えるみたいだよ」
「本当に? よかった……皇くん、どういうの好きかなって悩んだかいがあったよ~」
姫金は皇に褒められて、嬉しそうに顔を綻ばせた。さっそく、好感度をあげてどうするんだ、この王子様は。
ただ、頑張った姫金が報われたのも、同時によかったなと思ってしまった。
なんだか複雑だ。絶対に報われない恋をしている姫金のために、早々に皇のことを諦めさせてやるべきなのに。
「あ、手綱くん。いたんだ」
「ああ、ずっとな。お前は皇しか見えてなかったみたいだけど」
「うそうそ。冗談だって~」
「んじゃまあ、さっそく中入るか」
「よ~し! 今日は楽しんじゃうぞ~!」
俺と皇は、子供のようにはしゃぐ姫金に苦笑を浮かべながら、テーマパークへと足を進め――。
「あ、そうだ。姫金さんや」
「うん? な~に?」
「金」
「え」
「当日券。買ってくるから」
「……」
姫金は、楽しい気分に水を差されたという顔で、俺にお金を渡した。
すみませんね。
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