第33話:ソース味のほくほくジャーマンポテト
2023年10月1日
「おはようございます! 今度こそ秋……ですよね?」
「おはよう。そうだといいなぁ」
ぶり返していた暑さが落ち着き、週末はまた涼しくなってきた。それでも平年よりは気温が上回っているようだが、今年の暑すぎた夏を思えばだいぶ涼しく感じる。
「先輩、いいの持ってきましたよ」
彼女は保冷バッグから小ぶりの瓶を取り出す。
「クラフトビールってやつです。私もようやくビールの美味しさがわかるようになってきました」
「おお、美味そうだな! ドイツの伝統スタイルかぁ」
「こういうのは真夏に飲むより、少し涼しい季節のほうがいいみたいですね」
日本のビールの主流は、ドライなキレを重視したものである。一方でクラフトビールと呼ばれる小規模なメーカーによるものは、伝統的な製法による芳醇な香りを重視したものが多い。これからの季節にはぴったりだ。
「先輩、一緒に飲みません?」
「悪い、午後からバイト入ってるんだ。先輩が出られなくなったから代わりにな」
「あー、ちょっと残念ですね」
最近は日曜にシフトを入れることは少なくなっていたのだが、人が少ない店なので他の店員をカバーしなければならないことも多い。
「ま、今夜ゆっくり飲むとするか。せっかくだからビールに合いそうなパスタでも作るかな」
材料を用意する。まずは冷蔵庫からウィンナーと、おろしにんにく、それにウスターソースだ。
「パスタ茹でちゃいますね。今日も250グラムくらいやります?」
「いや、少なめでいい。二人分で150グラムくらいあればいいかな」
「え、そんなもんでいいんですか?」
「ああ、これを入れるからな」
俺はじゃがいもを2個取り出した。
「わかりました! ウィンナーと合わせてジャーマンポテトですね!」
「当たり! まずはじゃがいもの皮を剥いていくぞ」
じゃがいもは皮を剥いて5ミリ角ほどの千切りにする。
「それにしても、パスタにじゃがいも入れるんですね」
「意外かも知れないけど、ジェノベーゼとかだと一般的な具みたいだな」
続いて小ぶりの玉ねぎ1個を半分に切り、繊維に沿って薄切りにしていく。
「先に玉ねぎとにんにくだけ炒めておくか」
「じゃがいもは炒めないんですか?」
「炒めても良いんだけど、今日は別の方法で料理してみよう」
フライパンの火を止めて小休止する。ビールは飲めないので麦茶で喉を潤した。今のうちにウィンナーも斜め切りにしておく。
*
「パスタはあと3分くらいだな」
「ですね」
「ここでじゃがいもを投入! 一緒に茹でるぞ」
「なるほど!」
5ミリくらいの太さに千切りしておけば、3分ほどでほぼ茹だる。少し固いくらいだが、炒めてさらに火を通すので問題ない。
*
「そろそろ茹で上がるころだな。湯切りする前に、少し茹で汁を取り分けておくぞ」
「さっきじゃがいもを入れた時にちょっと水温が下がったので、時間通りだと少し硬いかも?」
後輩が菜箸でスパゲッティをすくい上げながら言う。
「ああ、茹で汁と一緒に炒めればちょうどよくなるくらいだな」
俺たちは二人とも、アルデンテより柔らかめが好みである。湯切りしたら、ウィンナーと一緒にフライパンに入れる。
「味付けはこれを使う」
「ウスターソースですか?」
「ジャーマンポテトにソースを使う老舗があるみたいだからな。一人分で大さじ2杯、合わせて4杯ってとこか」
鍋肌から入れると、ソースが焼ける香ばしい匂いが漂う。
「そういえば、ソース焼きそばにじゃがいもを入れるところもあるって聞いたことありますね」
「そう、ソースとじゃがいもって相性がいいんだよな」
「言われてみれば、コロッケにもソースですからね」
続いて、取り分けておいた茹で汁を入れて、ソースを全体になじませていく。
「ソースだけじゃ塩気が少し足りないからな。塩も小さじ半分、3グラムほど入れよう」
「意外と塩分少ないんですよね。だいたい醤油の半分くらいですか」
「だから、ソースだけで味付けすると酸味が強くなりすぎる。あくまで補助的に使うんだ」
「確かに、コロッケとかフライでも塩で下味ついてますからねぇ」
醤油が塩味を付けるために使うのに対して、ウスターソースの基本は酸味。あくまでも「酢」だと思っておいたほうが使いやすい。
「仕上げに胡椒を振って、完成!」
「いただきます!……じゃがいもがほくほくしてて、いいですね」
「下茹せずに歯ごたえを残すのもいいけど、今日はこっちの気分だったからな」
「ソース味っていうのも酸味があって、パスタに合いますね。粉チーズとタバスコも相性抜群です!」
以前、「ご飯のおかずなら甘み、パスタにかけるなら酸味」が重要だという持論を披露したことがある。パスタに合わせるにあたってソース味にしたのはそれが理由だ。
「そうだ、持ってきたビールは飲まないのか?」
「ええ。私だけ飲んでも面白くないので」
確かに、理由あって飲めない人の前で一人だけ飲む酒ほどまずいものはないと思う。逆の立場なら俺でも飲まないだろう。
*
「ごちそうさまでした!……なんかすいませんね、せっかくビールに合いそうなもの作ってくれたのに」
「まあしょうがない。飲もうと思えばいつでも飲めるんだからな」
テーブルの上に置かれたビールを見る。俺も飲みたかったのだが仕方ない。
「そうだ先輩、バイトって何時に上がります?」
「6時までだな。帰ってくるのは7時くらいになるか」
「そんなに遅くならないみたいですね。私また来るんで、ここで一緒に飲みませんか?」
「家飲みかあ、たまにはいいかもな」
3年生になってからはあまりなくなったのだが、以前はよく友達を家に連れてきて飲んだりしていた。
*
「それじゃ先輩、また! 私、何か作って持ってきますんで!」
「ああ、楽しみにしてる」
後輩を見送り、バイトの準備をする。まだ少し時間には余裕があるので、今のうちに夜のおつまみでも仕込んでおこう。またジャーマンポテトを作るか、いやカリーブルストもいいな等と考えるのであった。
***
今回のレシピ詳細
https://kakuyomu.jp/works/16817330655574974244/episodes/16817330664499286585
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