第29話:大根と醤油を味わう!あっさり和風パスタ
2023年9月3日
「先輩、おはようございます! 青じそと青ゆずと青唐辛子、もらってきちゃいました」
いつもの「家庭菜園やってる友達」からのおすそわけだ。先週の祭りで、俺は初めて彼女に会った。日頃のお礼も兼ねて出店の食べ物をいろいろ奢ってあげていたら、またおすそわけをしてもらったというわけだ。
「
実家にも柚子の木があるのだが、夏場に食べた記憶がない。利用する習慣が無かったのだろうか。
「冬みたいに大きくなったり色づいたりはしないみたいですけどね。香りはちゃんと出ますよ。これでお酒割ったりとかもしますし」
「柚子に、しそと唐辛子。一緒に薬味にしたら美味そうだな。この前買った大根もあるし……今日はさっぱり目の和風パスタでいいかな?」
「はい、もちろん!」
*
そういうわけで調理にかかる。彼女がお湯を沸かしている間、まず大根をおろすことにする。二人分でだいたい300グラム、量ったわけでは無いが、長さで言えば6センチくらいを切り出して、おろし金の荒い方ですりおろしていく。
「やっぱり男の人って力ありますよね。すごく早い!」
「まったく、褒めてもなにもやらないぞ」
「そんなこと言って、いつもご馳走してくれるじゃないですか」
まあ、褒められて悪い気はしない。おろした大根はよく絞って小皿に盛り付ける。
「汁も使うから、捨てないでくれよ」
「先輩らしいですね。栄養ありますから無駄にしちゃもったいないですもんね」
「ああ、食べられるものは捨てないからな。最後に残った大根の切れ端も使おう」
最後の切れ端はパスタと一緒に炒めることにでもするか。
*
「次にタレを作ろう。まずは醤油とみりんを大さじ1ずつに、味の素を少々」
「先輩、めんつゆじゃ駄目ですか?」
「ああ、それでも構わない。今はちょっと切らしてるから、基本調味料で再現するわけだな」
醤油に甘みと旨味を加えたのがめんつゆである。出汁の風味があればなお良いのだが、これで代用できないこともない。
「続いてポン酢。さっきの柚子を絞って、それに醤油を混ぜていくんだ。大さじ1杯ずつあれば大丈夫かな」
「やっぱり生搾りだと香りがいいですよね」
「そうだな。今夜あたり焼酎のゆず割りでも飲んでみようか」
ポン酢も、市販品でも構わないのだが新鮮な柑橘類が手に入ったので自作することにする。ここで味の素を加えても良いのだが、めんつゆとメリハリを付けるために敢えて入れなかった。
「あとは薬味の唐辛子と大葉、せっかくだからゆず皮も刻んでおこうか」
「ゆず皮、表面の青いとこだけ使うんですよね」
「そうそう、白いとこまで入れると苦くなるからな」
*
「パスタ、そろそろですね」
「湯切りの前に茹で汁を少し取り分けておこう」
フライパンで炒め合わせる場合、様子を見ながら水分を足す場合がある。そのためには茹で汁が最適なので、多少は取り分けておくのである。
「油を引いて、パスタと舞茸、ついでに大根の切れ端を炒めていく」
「しめじとかエリンギとかでもいいですかね?」
「そうだな、キノコならなんでもいいと思う。ここに、さっき作っためんつゆと、大根のしぼり汁を入れて……少しだけ茹で汁も入れるか」
大根の汁からも甘みが出てくるので、みりんと合わせてやや甘口になる。
*
「キノコがしんなりしてきて、汁が煮詰まってきましたね。そろそろですか?」
「だな」
それぞれの皿に盛り付け、大根おろしを乗せる。さらにポン酢をかけたら薬味を散らす。
「大根のあっさり和風パスタ、完成!」
「いただきます! これ、混ぜちゃったほうがいいですかね?」
「めんつゆとポン酢で味が違うから、最初は別々に少しずつ食べてみるのをおすすめするぞ」
両方とも醤油ベースだが、味を変えることでメリハリを付けたつもりだ。
「こういう料理は冷製でやるのかなと思ったんですけど、温かいのもいいですね。大根の汁の甘みも出てますし」
「常温の薬味を散らしてるから、適度に冷めてるのもポイントだな」
気温ではまだまだ暑い日が続くが、9月に入ってから少し過ごしやすくなったような気がする。風や湿度の影響だろうか。
「青ゆず、青じそ、青唐辛子。旬の食材を一緒に食べられるのはこの季節だけだぞ」
「確かに、言われてみればそうですね」
「夏の終わりと秋の始まりを楽しむ、まさに日本料理の真髄……かもな」
俺は旬の食材をよく使う。実際のところは、単に安く買えるからという消極的な理由である場合が多いのだが。
*
「ごちそうさまでした! それにしても、全部いっぺんに使ってくれるとは思いませんでしたよ」
「たまたま薬味に向いていた食材だったからな。まだあるから、柚子胡椒でも作ってみようか」
塩と柚子、青唐辛子があれば作れる。なお、胡椒といってもペッパーではなくチリのことだ。
「いいですね。うまく出来たらまた新作パスタ期待してます!……あ、そうだこれももらってきたんですよ」
「これは……木綿の袋?」
「はい、ここに柚子の絞りかすを入れて、お風呂に浮かべるといい香りがしますよ」
「なるほどな、袋に入れておけば汚さないもんな」
果汁も皮も残りかすも、柚子の全てを余すことなく活用する素晴らしい知恵である。
「はい、今の季節は日焼けでちょっとピリピリするかも知れませんけれど、お肌にはいいみたいですよ」
「確かに、柚子湯といえば冬のイメージだけど、夏場でもさっぱりしていいかもな」
**
「それじゃ先輩、今日もごちそうさまでした!」
「ああ、気をつけて帰れよ」
彼女を見送り、俺はさっそく柚子のかすを袋に入れて冷蔵庫にしまっておく。満月は過ぎてしまったが、晴れていればきれいな月が上がるだろう。柚子湯で月見酒というのも風流だなと思うのであった。
***
今回のレシピ詳細
https://kakuyomu.jp/works/16817330655574974244/episodes/16817330662965373259
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