第28話:冷凍から揚げで油淋鶏焼きそば!

2023年8月27日


「おはようございます! 今日も暑いですねぇ」

「おはよう。しかし、この暑さはいつまで続くんだろうな」


 8月も終わりだというのに猛暑が収まる気配がない。今年の夏はどうかしている。いつもの後輩はドアを開くと、冷房の効いた室内へと滑り込んでいった。


「……ぷはぁ! 麦茶は相変わらずおいしいですね」

「さて、今日はどういうのにしようか」

「そうですね。暑いからさっぱり系、でもスタミナがつくがっつり系。そんなのできますか?」

「さっぱりでがっつりか。ふーむ」


 俺は冷蔵庫を物色する。


「冷凍のが残ってたな。あれが作れそうだ」

「ん、これって冷凍のから揚げですか?」

「そう、これを使って油淋鶏ゆーりんちー風にする」


 ご飯のおかずに最適な料理だが、これをパスタにアレンジするというわけだ。


「油淋鶏って、鶏の唐揚げに、ネギと甘酢のタレがかかったやつですよね」

「本場では素揚げらしいけど、まあ日本だとそうだな。とりあえず、お湯わかしてもらっていいか?」

「はーい。普通のスパゲッティでいいですね」

「ああ、頼む。俺の分は120グラムくらい!」


 こうして、いつものように調理が始まる。


 *


「まずはネギを刻む。長ネギの白いところを1本分丸ごと使う」

「青ネギでもいいですかね」

「まあそのへんは好みだな。俺の場合は常備してあるのは白ネギだけだから」


 このあたりは地域差が出る部分だろうと思う。関東育ちの俺にとって、ネギといえば白ネギなのだ。


「……あ、斜め切り。みじん切りじゃないんですね?」

「薬味というよりは具にするから、存在感が欲しいな」


「次はタレだな。醤油、酢、砂糖を大さじ1杯、2人分なら2杯。酢はせっかくだから黒酢を使うか」

「山西省のやつですね」


 油淋鶏は広東料理のようなので、山西省の黒酢を使うのが適切かどうかはわからない。日本で手に入りやすいものでいえば、よりマイルドな鎮江香酢ちんこうこうずのほうが向いているとは思うのだが、料理の種類ごとに黒酢を揃えるのは一人暮らしでは無理がある。


「あと味の素……から揚げにも味が付いてるから少しでいいか。おろしニンニクとショウガも小さじ2杯くらい入れる。から揚げの味にもよるけどな」

「ニンニク、もっと入れても良いんじゃないですか?」

「まあ食べながら足してもいいし、今はこのくらいにしておこう」


 *


「タレができたら次は具だ。から揚げは……8個くらい使うか」

 冷凍から揚げの袋を開けて、まな板の上に出す。


「パスタと絡めるから、食べやすいようにカットしていくんだ」

「凍ったままだと結構硬そうですね」

「切りづらければレンジにかけたり、今の時期なら自然解凍してもいいかもな」


 フライパンに少しだけ油を引いて、刻んだネギとから揚げ、みじん切りの唐辛子を入れる。


「油はずいぶん少ないんですね。大さじ半分くらいですか」

「から揚げの衣に含まれるからな。あと、できればごま油がいいと思う」


 今は常備していないので普通のサラダ油である。


 *


「パスタ、そろそろですね」

「よし、茹で汁を少し……お玉半分くらいこっちに入れてもらえるか」

「はーい」


 フライパンに茹で汁と、湯切りしたスパゲッティを加える。そこにタレを流し込む。


「タレ、あとがけかと思ったら先に入れちゃうんですね」

「これも好みだけどな。この黒酢はクセが強いから火を入れたほうがいいと思うんだ」


 山西老陳酢は比較的刺激が強いので、火を入れる料理に向いている。鎮江香酢なら料理に直接かけてもいいと思う。


「なんだかソース焼きそばみたいな感じになってきましたね」

「実際、日本のウスターソースはもともと酢醤油がベースだったみたいだからな。昔のソース焼きそばもこんな感じだったかも知れない」

「へえ、そうなんですか?」

「まあ、俺も部分的に知ってるだけなんだけどな」


 ソース焼きそばの歴史については、つい最近発売された書籍で非常によく研究されていると聞いた。俺もそのうち買って読んでおこうと思っているのだが。


「よし、こんなもんか」

 タレが全体に馴染んだところで皿に盛る。


「おいしそうですね。それじゃさっそく、いただきます!」


 *


「まさに、さっぱりだけどがっつりって感じですね。酢とニンニクがおいしいです」

「そういう意味では夏にぴったりかもな」

「見た目から紅ショウガでも添えたくなっちゃいましたが、もともと酸味が強いから別になくてもいいですね」


 喋りながらも、彼女は麦茶と交互にパスタを口に入れ、あっという間に完食してしまった。


 *


「ごちそうさまでした! 午後も乗り切れそうです!」

「お粗末様。夏休みも後半戦、やりたいことは全部やらなきゃな」


 人手が多いお盆の時期よりも、観光に行くならむしろ9月がうってつけだ。こんなに暑くなるとは思わなかったが。


「もう8月も終わりかぁ。最後の週末、うちのほうだと花火大会をやってたんですよね」

「俺のところも、近所の公園で盆踊りやってたな」

「毎年この時期になると夏の終わりって感じですけど、今年は全然終わりそうにないですねぇ」


 実際、9月になっても猛暑日が続くようだ。今年の夏は暑すぎて、長すぎる。夏が終わりそうなのはカレンダーだけだ。


「……ねえ、一つとなりの駅で夏祭りやるんですけど、行きません?」

「そうだな。たまには行ってみるか」


 夏祭りといえば、ここ3年くらいは自粛しているところばかりだったので久しぶりだ。


 **


「それじゃ、私はいったん帰りますね。着替えないといけないし。6時に駅で待ち合わせでいいですか?」

「ああ、大丈夫だ」

「それじゃ先輩、また後ほど!」


 わざわざ着替えるということは浴衣姿でも見せてくれるのだろうか。日が落ちても相変わらず暑そうだが、二人で夜店巡りというのも悪くないと思った。


***


今回のレシピ詳細

https://kakuyomu.jp/works/16817330655574974244/episodes/16817330662628323685

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