第19話:梅雨はさわやかに!サワークリームオニオン風

2023年6月25日


「おはようございます! 今日もじめじめしてますねぇ」


 今日も後輩がやってきた。今年の梅雨は雨が少ないような気がするが、それでも湿っぽい季節である。


「おはよう。今日も冷たいやつでいいか?」

「冷製パスタ、大好きです! これからの季節はなおさらですよね!」

「そうか、良かった。さっそく準備するか」


 鍋に水を張って火にかけ、その間に準備をする。


「プレーンヨーグルト、二人分なら100ミリリットル、大さじ7杯くらいだな」

「前にやったヨーグルトソースですか?」

「まあ、そのバリエーションだけどちょっと違うかな。サワークリームオニオンを作る!」


 サワークリームオニオンといえば、ポテトチップスなどの味として有名である。本当のところ、俺も本物は食べたことがない。


「サワークリームなんてあるんですか?」

「無い! だからヨーグルトで代用するわけだな。普通の牛乳を乳酸発酵させたのがヨーグルトに対して、生クリームを乳酸発酵させたのがサワークリームというわけだ」


 *


 解説しながら、玉ねぎの皮をむいて刻んでいく。2人分なら100グラムほど、小ぶりの新玉ねぎ1個でいいだろう。


「あ、換気扇回しますね」

「お、ありがとう」


 玉ねぎを刻むときに換気扇を回しておくと、目がしみるのを軽減できる。少量だからといって油断すると痛い目にあうことがあるので、気を利かせてくれるのはありがたい。


「細かめのみじん切りにして、っと。このまま使ってもいいんだけど、せっかくだからひと手間かけようか」


 みじん切りにした玉ねぎをザルにあけ、小さじ半分ほどの塩を入れ、指でもみ込んでいく。


「だいたい2つまみくらいの塩ですね」

「まあな。実際に指でつまんで計ったりはしないけど」


 塩もみした玉ねぎを軽く流水にさらし、よく水を切ってヨーグルトの入ったボウルにあける。


「バジルもあるから入れるか。パセリとかでもいいけどな」


 ベランダのバジルの葉を数枚摘み取って、洗って細かく刻む。


「結構伸びてきましたよね。そろそろジェノベーゼやります?」

「そうだな。まあ来週か、その次あたりかな」


 換気扇は切っておいた。バジルの甘い香りがキッチンに立ち込める。


「あとは塩と砂糖。だいたい小さじ半分ずつくらいかな。同量くらいだと覚えておけばいいぞ」

「さっきの塩もみで、玉ねぎには塩味がついてますからね。砂糖はちょっと意外かも」

「日本人のイメージするサワークリームオニオンってスナック菓子の味だからな。原料を見て思いついた」


 スナックというのは塩味のようでいて、意外と糖類で甘みを付けているものである。


「物足りなければ後から調整できるからな。あとはチューブにんにく小さじ2杯ほど、味の素を6振りってとこか。これをよく混ぜておく」

「味付けなんですけど、スープの素でもいいですかね?」

「試してないけど、たぶん冷たいとよく溶けないんじゃないかな」


 スープの素というのは、あくまでもお湯に溶かすために作られたものである。冷たいものに振りかけて使うことも想定している味の素を積極的に使う場面の一つといえる。


「そういえば先輩、水切りヨーグルトじゃなくていいんですか?」

「ディップソースにするなら水は切ったほうがいいだろうけど、パスタに絡めるならそのままでいいと思う。まあ手間のかけ方と好みの問題でもあるか」


 ヨーグルトでサワークリームを再現するレシピだと、必ずと言っていいほど水切りヨーグルトを使うのだが、事前に準備する必要があるのはどうしても面倒なのである。食べたい時にすぐ作れるレシピのほうが重宝する。


 *


「さて、パスタが茹で上がったな」

「今日も極細のカペッリーニですね」

「だな。水で締めて冷製にしていただくぞ」


 いつの間にか「カペッリーニ」を正しく発音できるようになっていた。先週食べた後に調べたのだろうか。


「ソースによく絡めて……これで完成!」

「いただきます……うん、なんとなくあの味っぽいかも!」


 そう。サワークリームオニオン味のスナックを食べた時は初めての経験だと思ったのだが、実際のところは身近な材料で再現できるものだったのだ。


「ヨーグルトソースはこの前も食べましたけど、冷たいとまた違いますね」

「ちょっと酸味が足りなかったかもな。レモン汁を入れてもいいけど今はないから、タバスコを多めに入れるのがおすすめだ」

「この前、緑色のハラペーニョタバスコを買ったんですけど、これに絶対合いそうですね」

「だろうな。ハラペーニョのピクルスなんかを刻んで入れてもうまそうだな」


 この段階ではあくまでも基本形。様々なアレンジを受け入れられるだろう。


 *


「ごちそうさまでした!」

「お粗末様。今日のはどちらかといえば付け合わせのサラダ的というか、主食としてがっつり食べるにはちょっとどうかと思ったんだけど」


 アレンジの幅があるというのは、悪く言えば未完成という意味でもある。


「そんなことないと思いますよ。材料もヨーグルトだからヘルシーですし」

「そうか。せめて途中で味変したりしないと飽きるかなと思って不安だった」

「珍しく弱気ですね、先輩」

「もともと、夏場にそのまま食べる塩ヨーグルトのバリエーションで、パスタ向けというわけではなかったからな」


 ヨーグルトというのはそのまま食べるか、砂糖やジャムで甘くするか、あるいはカレーなどに入れるものだと思っていた。冷たいヨーグルトを塩味で食べるという発想はトルコ料理などで見られるようだが、俺は近年まで知らなかったのだ。


「塩ヨーグルト、いいですね。暑くて食欲ない時とかに試してみます」

「ああ、夏はこれからが本番だからな。体には気をつけてくれよ」


 *


 後輩を見送る。朝は曇り空だったが日が差してきた。今日は久しぶりに布団を干して、爽やかな気持ちで眠りにつこうかななどと考えるのであった。


***


今回のレシピ詳細

https://kakuyomu.jp/works/16817330655574974244/episodes/16817330659362718533

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