紅武凰国の策動

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クロスディスターJADE

第十話 雨中の対決! ジェイドVSアンバー!




「本気で言っているの?」


 紅武凰国軍の統合参謀本部にて。

 参謀本部議長から提案を聞いたアオイは拳を握り締めた。

 爪が掌に食い込む痛みも気にならないほどの焦燥を込めて改めて問い質す。


「下手にあれに手を出せば最悪、国が亡ぶかもしれないのよ」

「しかし我々もこれ以上は黙っていられません」


 紅武凰国軍参謀本部議長、北条大将は決然と言い返した。


 彼の言いたいこともわかる。

 あの『異界戦争』において軍は非常に多くの損害を受けた。

 実戦投入された期待の第三世代人型兵器が次々と破壊された現実は、軍関係者にとっては悪夢にも等しい出来事だっただろう。


 しかも開戦の責任者である第四天使は消滅。

 なんとか和平という形で争いは終わったが、その直後に相手が問題を起こした。


「星野空人の敵国への助力。あれは明確な条約違反です」


 ビシャスワルトの指導者であった星野空人は王位を娘に譲ると、紅武凰国にとって最大の敵である荏原新九郎の元へ向かった。


 何やら子供だましの理屈を並べていたが、当然ながら納得できるものではない。

 すでに奴の手によって多くの損害も出ている。


 それでなくても星野空人は紅武凰国にとって許されざる者なのだ。

 かつてのウォーリア序列一位でありながら国家を裏切った、明確な敵。

 しかしだからと言って北条が提案した事はあまりに話が飛躍しすぎている。


「現場で見た者として言わせてもらうけど、あれを殺すのは絶対に不可能よ。第四天使が滅ぼされた話は聞いているでしょう? 決戦においてあれが生み出した莫大なエネルギーは、ミドワルトの観測可能な宇宙をすべて埋め尽くして、他の世界にまで影響を与えたのよ」

「無論存じております。奴めが我らの「神」と同質の力を持つ冒涜的悪魔であることは」


 彼の言う『神』とはヘルサードのことである。


 紅武凰国の基盤を作った男。

 特異点の男などとも呼ばれていたが、現在この世には存在してない。

 死んだわけではなく『この世界の外側の力』を得て、その意識だけが漂っている状態だ。


 ヘルサードを信仰し、その復活を信じる者たち。

 言ってしまえば紅武凰国最大の宗教である。


 なまじ天使という存在がいるせいで、この機械文明の世においても信仰は根強い。

 国家設立の際に既存宗教を徹底的に弾圧したのもヘルサード信仰が生まれた理由の一つだ。

 どれだけ文明が発達しようと、人は現実から乖離した何かに心の拠り所を求めてしまうのだろう。


「ふん……」


 アオイはもちろんヘルサード信仰など持っていない。

 だが神の名を出された時点でもはや議論は成り立たなくなる。

 もちろん、知った上で神の名を錦の御旗に使っている者もいるだろう。

 この北条がどちらかは知らない。


「で、作戦の詳細は? きちんと敵の情報を把握した上で行うのでしょうね」

「もちろんです。技術研の協力も得て参謀部が綿密な無力化計画を立案しました」


 とはいえ軍は教義への妄信で動くような組織ではない。

 前回の失態は強権を振るていた第四天使が相手の力を見誤ったのが大きい。

 また、第三世代人型兵器の実戦投入チャンスに浮かれた上層部がここぞとばかりに食いついたのも大きな原因だ。


「管理局の協力さえあればいつでも実行に移せます。是非とも力をお貸し願いたい」


 そして綿密に計画された彼らの作戦はアオイたち管理局の力も必要としているらしい。

 第四天使が消滅した後、局長代理を務めているアオイの判断で作戦決行の可否は決まるのだ。


「……とりあえずプランを見せてもらおうかしら。判断はそれからよ」

「もちろんです。どうぞこちらを」


 北条は机の上に置かれたPDA携帯端末をアオイに手渡した。

 その画面にはこう書かれている。


 魔王ルーチェ封印計画。




   ※


 みんなーおはるーちぇ!

 私の声、聞こえてますかー?

 魔王系Vertical HighSurerのるーちゃんです!


(おはるーちぇ)

(おはるーちぇ)


 今日も来てくれてありがとー。

 さいきん急に暑くなってきたよね。

 みんな暑さに負けないで元気にしてる?


(外は地獄)

(用がなきゃ絶対出たくない)

(エアコンかけて家に閉じこもってるよ)


 あはは。

 わかるわかる。

 熱いと外出たくないよねえ。

 私もずっと館でゲームしたり動画みたりしてる。


(ニート乙)


 にいとではない。

 魔王ですよ。


(魔界にもエアコンあるの?)


 エアコンとかの機械はないんだけどね。

 熱いときは涼しくする輝じゅ……マホウを使って温度調節してるよ。


(氷魔法使ってみて)


 氷系のマホウは苦手なの、ごめんね。

 いつもは氷系が得意なともだちにやってもらってる。


(魔王なのに苦手な魔法とかw)

(何なら得意なの?)


 火とか爆発とか超高温の閃光とか得意だよ。


(火魔法使って)


 火とか爆発はHighSureの規約に触れるからダメでーす。

 あ、でもこんど『太陽つくってみた』動画を出すかもしれないから期待しててね。


 こほん。

 さて、それじゃ今日はゲーム配信をやっていこうと思いますよ。

 今日プレイするのは最近他のVertical HighSurerさんたちの間でも話題になってる街づくりゲーム――




  コンコン。




「入るわよ」

「きゃああああ!」


 急にナータがドアを開けて入って来た!

 あれ、今の時間は街の方に行ってるはずじゃ!?


「な、なによ。そんな大声出して」

「今はだめ! だめなの!」


(誰?)

(友フラwww)

(めっちゃ美人さんやん!)

(コラボか?)


「あー、それ……『HighSure』とかいう紅武凰国の動画配信サイトよね。なんかキモイオタクがいっぱいいるところ」


(ありがとうございます!)

(美少女ドSお姉さんおほー)

(善良な一視聴者として言わせてもらいますがさすがに今のは暴言が過ぎないでしょうか。どうせ仕込みであることはもちろん理解していますが、いくら美人でもそういった人を見下すような発言は品性を疑わざるを得ません)


「キモいとか言わないの! みんないい人たちなんだから!」

「っていうかルーちゃんも染まってきたわね。いつの間に配信者なんてやってたのよ……」

「だってみんなが街のこと手伝わせてくれないから暇なんだもん!」


(普段なにやってたの?)

(もっと詳しく教えて)

(金髪のお姉さんデビューいつ?)


「ああ切り忘れてた! えっと、今日はごめんなさい! 終わります!」


 私は慌てて終了ボタンを押して配信を切った。

 いまのどうにかフォローできるかな……


「あー……なんか、ごめん?」

「いいよ別に。それで、何の用?」


 私はちょっとぶすっとしながら尋ねる。

 ナータが留守の間に勝手に次元間通信回線を使ってたこともあるからつよく文句を言う気はないけど、せめてノックに返事するまでは待ってほしかったよ。


 まあ誰も私が本当に魔王とか信じてないだろうし。

 仮にわかってもここに誰かが押し掛けるとか絶対にないし。


「えっとさ、実はあたし、紅武凰国に留学しようと思ってるんだけど」


 へー、そうなんだ。

 それは大変……


「えっ?」 




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第十一話 京都にて

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