メガネをかけるとかしこく見える

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ドラゴンチャイルドLEN

第十話 エクスキューション




 カタカタカタ……


 部屋に入ると、ナータは映水機みたいな機械に向かって何かをやっていた。

 手元にはいくつもボタンがある小さな板があって、目まぐるしい速さで指を叩いてる。


 あの機械は「ぱそこん」とかいう紅武凰国の機械マキナらしい。

 ナータが頼んでみさっちさんに一台だけ送ってもらったんだって。

 あれが届いてからというもの、ナータはずっと画面とにらめっこしてる。


「はい、お紅茶」

「ん。ありがと」


 私がお茶を差し出してもこっちを見てもくれない。

 珍しくメガネをかけているナータはまるで学者さんみたい。


 画面を見ると古代語がびっしり。

 緑色の線でよくわからない何かの模様? が並んでる。

 ナータが頭いいのは知ってたけど、なんかもう別の世界の人みたいだね……




   ※


 とりあえず邪魔したら悪いのでリビングルームに戻ってきたよ。


 少しずつ見進めてるシンクさんからもらった映像資料はようやく二巻まで終わった。

 あの世界は紅武凰国の昔の話だっていうけど、あの時代ですでにミドワルトとは隔絶した技術の差があるみたい。

 当たり前にみんな使ってる携帯端末? とか車とか、飛行機とか、輝術以上に輝術みたいな機械マキナで溢れてる世界だった。


 うーん……

 私もこれからビシャスワルトの王さまになるわけだし。

 もうちょっと、いろんなことを勉強しておいた方がいいのかなあ。


「人には向き不向きがあるんだし、別に無理することはないぞ」


 ソファで寛ぎながら何かの本を読んでるカーディが話しかけてきた。

 こっちも何故か小さなメガネをかけている。


「それだ!」

「なにが」

「私もメガネをかければ頭良く見えるんじゃないかと思いつきました」

「……うん。それでこそおまえらしいよ」


 なんか馬鹿にされてる気がするけどカーディはかわいいからゆるす。

 というわけで、無限パワーペンダントの変身能力を使って衣装チェンジしてみよう。


「じゃーん!」


 頭の良さそうな小さめの四角いメガネ。

 映像内の大人が来ていた『スーツ』っていう服。

 後ろ髪はアップにしてより大人っぽく見えるようにする。


 さあ、これで私も知的美人に見えるでしょう!

 鏡で自分を見て見ると……まあ、まるでデキる女教師!


 そんなコスチュームチェンジした私を見たカーディの感想は、


「ビッチっぽい」

「どういうこと!?」

「一〇〇〇人くらい男性経験ありそう」

「ひとりもないよ!」


 なんでよ、メガネでスーツで知的でしょ!

 えっちに見える要素なんてまったくしてないよ!


「……ピンク髪だから?」

「髪の色で人を判断しちゃいけません!」


 私がカーディに文句を言ってると、ガチャリ、とドアが開いてナータがやってきた。


「あー疲れた……ってルーちゃん、なんでそんなエロい格好してんの!?」

「えろくない!」


 どうしてナータまでそういうことを言うのか!

 エロい格好なんてまったくしてないってーの!




   ※


「で、最近ずっと『ぱそこん』で何やってたの?」

「これ」


 ナータはミルクを飲みながら一枚の紙をぴらりとテーブルに置いた。

 そこにはよくわからない図形と古代語がびっしり書かれてる。

 こんなの見せられても何もわからな……あっ。


「もしかして、前に背負ってた機械マキナの翼?」

「そ。ちょっと自分なりに組み立ててみようと思って」

「えっ、あんなの自力で作れるの?」

「組み立てるだけならね。コア部分は無理よ。ブラックボックスになってる箇所は向こうの技術に頼るしかないし、軍の機密兵器だから簡単にコピーされちゃマズでしょ」

「じゃあどうやって……」

「あるでしょ。ビシャスワルトに同系統の実機が」


 同系統の……もしかして、あれかな。


「前にナータが乗ってグランジュストと戦ってた小さめの巨大ロボ?」

「そう。あれを解析して、コア部分だけでも生きてたら何とかなるかもしれないわ」


 それはすごい。

 じゃあさっそく調査しに行こう。




   ※


 というわけで、ナータを連れてやって来たのは巨大ロボの残骸がある場所。

 近くには部族の住む集落もないってことで、回収されずにほったらかしにされていた。


 ナータが乗ってた紅武凰国製のロボット。

 白を基調にした線の細いどこか猛禽を思わせる機体、ヴォレ=シャープリー。

 ただし本来あった六枚の翼はすべて折れ、本隊部分も原型を留めないほどぐちゃぐちゃになっている。


「ミサイアは回収したがってたけどね。条約を結んだ後に気づいて、もうコイツを運べるほど大規模な人員はビシャスワルトに送り込めないって残念がってたわ」


 その代わり絶対にミドワルトには持ち込まないようにって念を押されたね。

 確かにこんなのが現れたらみんな驚くよねえ。

 あ、でもグランジュストは一応ミドワルトの技術で作ったんだっけ。


「できれば解体して欲しいって言ってたし、ちょうどよかったわ」

「それって秘密が漏れないように壊して欲しいって意味じゃ……」

「再利用するなとは言われてないし。新しく生まれ変わるならコイツも本望でしょ」


 私としては巨大ロボのまま直して欲しい。

 けど破損がひどすぎてそれは無理そう。


「ルーちゃんはこの世界の王様よね?」

「はい」

「何人か力持ちのエヴィルに命令してコレを館まで運ばせてもらえないかしら。あとついでに自由に使える工廠みたいなのを建てて欲しいわ。街づくりの時にも必要になるだろうし、最初はただ広いだけの屋根付きの建物でいいからさ」

「わかった。大丈夫だと思うよ」


 ちゃっかりしてるというか、しっかりしてるというか。

 やっぱりナータには大臣になってサポートしてもらおうと思いました。




   ※


 パーツを現場で分解して力自慢の巨鬼族と岩石人族に館まで運んでもらう。

 それと並行して建築上手の土小人族に簡単な建物を作ってもらった。


「みんな、ありがとうね」

「いえ、魔王様の為に働けて光栄です!」

「こんなの我々にとっては朝飯前でさぁ!」


 土小人族の人たちはみるみるうちに木と石を組み合わせて、半日もかからずに大きな建物を建ててしまった。


 ちなみに土小人って言っても体が土でできてるわけじゃない。

 少し背が低いくらいで外見上は人間とほとんどかわりない部族だ。

 土の中に穴を掘って作った家で暮らしてるからそう呼ばれるんだって。


「姐さん、到着いたしました!」

「ご苦労様」


 景気のいい声に振り向くと、巨鬼族と岩石人族の人たちがやってきた。

 彼らは何人かのグループに分かれて巨大な台車に乗せたパーツを運んでいる。


 ナータは何故か一番大きな岩石人族の肩に座ってる。

 その様子はまるで魔物を従えるお姫様みたい。

 あの子たしか普通の人間だよね?


「さてと」


 軽やかに着地すると、ナータは運んでもらったパーツを観察し始めた。


「これだけ残ってれば個人用ユニットの生産には十分ね。さあ、いっちょ頑張るわよ!」


 ぽきぽきと指を鳴らして工具を取り、さっそく作業を始める。

 私はそんなナータの傍に寄って尋ねた。


「なんか手伝う?」

「パーツの切断をお願いしたいわ。あと試験稼働の時にちょっと輝力を提供して」

「わかった」


 ナータは私を迎えに来る宇宙船の中で何十年も勉強ばっかりしてたらしい。

 その知識と経験を存分に活かせる機会を得て、本当に生き生きとして見える。


 どんな機械ができるのか、私もちょっと楽しみだったりしてね。




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第十一話 アーリーヒーロー

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