優しい私は、今日も君を喰らう
帆坂 天
第1話
一章
もうどのくらい繰り返しているのだろうか。
君の名前はなんだっただろう。
君との関係は、君との絆はどのくらいだっただろうか・・・
思い出せない。いや、忘れたかったから覚えていないんだろう。
君の顔をも忘れた僕を君はどう思っているのかな――――。
「はぁ・・退屈だなぁ」
私は、はっとして保管庫に向かう。
今日はどう料理しようかな。どこの部位を食べよう。
「心臓?胃?いや、脚かな・・・・決めた!脚にしよう!」
僕は保管庫にある、人が何人も入ることが出来るくらい大きな冷蔵庫を開ける。
おはよう。僕の――――。
丁寧に取り出し、専用の包丁で腕を切る。骨を取り外す。
「あぁ、野菜も取ってこなくちゃ」
そう言いながら僕は野菜を保管している保管庫にも向かう。じゃがいも、人参、玉ねぎ、きのこ……
「・・・・・薬味も持っていくか。」
キッチンに着くと大蒜を切り、オリ-ブオイルを引いたフライパンの上で
それを踊らせると美味しそうな匂いが漂う。じゃがいもの皮を剥き適当な大きさに切る。
他の野菜も切り終わるとフライパンに入れた。
じゅぅぅといい音がなっている。「ゴクリ」喉が大きく鳴った。
――あぁ、美味しそうだ。
お待ちかねの肉を乗せ、こんがりと焼き上げる。かといって、硬くなりすぎないように…
塩コショウなどの味付けをしてお皿に盛り付け、いよいよ食べる。
一口、二口と口に運ぶ。焼き加減は丁度よく、味付けも濃すぎず薄すぎず・・・・・
僕はフォ-クとナイフを上手に使い分け料理を食べる。
あぁ、ここに君が居たらもっと美味しいだろうな・・・・
午前十時。誰も居ないこの屋敷はとても静かだ。
僕は暇だったから庭に出てみる事に決めた。
いつも通りの庭、いつも通りの空、いつもと同じ誰一人居ない庭。生物さえも。
植物の成長は止まっているのだろうか。それとも精巧に作られた造花なのだろうか。
ちょうど陽の当たるベンチに腰を掛ける。
少し温もりのあるそのベンチは何故か懐かしい。
覚えていない記憶の中で来たことがあるのかもしれない。
風で植物が揺れる音しかしないその空間は私には日常だった。
覚えていない記憶に居た君もここのベンチに座って居たのか分からないが、
ここは僕の一番のお気に入りスポットだった。
「今日は朝ごはんが遅かったから昼ごはんはなくていいか。」
僕はそう言って部屋から持ってきた本を取り出し、読み始めた。
何時間経ったのだろうか。本を読み終えた僕は室内に戻ることにした。
「ふぅ・・・・先にお風呂入るか」
お風呂に入った後私は寝た。とても眠たかった。
そして不思議な夢を見た。ここは何処だろう…見覚えがある。
ああ、そうだここは僕の家じゃないか。
「え?住んでる屋敷は君のじゃないのかって?」
「ん-なんであの屋敷に居るのか、僕は分からないんだ。」
姿が見えない何かと僕は会話をしている。
僕の妄想の中の友達だろうか。
自分でも分からない。夢の中だとは分かっているが中々に組み込まれた夢だ
すると、ガチャ とドアが開いて誰かが入ってきた。
誰だろう、分かることはとても慌てているというか混乱している事だけだった。
「バチッ」
頭の中で記憶が繋がった音がした。だが、詳細はよく分からない。
目の前に君が居る。顔は見えないが自分の中の何かがそう言っている。
「――――!――――。」「………………、………………。」
何を言っているのだろうか。全く聞こえない。
なぜ君はこちらに刃を向けているのか、なぜ君は泣いているのか。
全てが…………分からない。あぁ、刺されてしまう……と同じくらいに目覚まし時計がなり
僕は目を覚ました。
「なかなかにリアルな夢だったな……」
酷く汗をかいていた。
体が汗でベトベトで、
「さっき入ったばっかりなのに…」とため息をつく。
あれ?と僕は考えた。
一体、どんな夢だったかな。忘れてしまった。
「ううん・・・まぁいいか。今は何時だろう。」
時計を見ると針は十八時を指している。
「もうこんな時間か。」
僕はお風呂場に向かおうと、ベッドから抜け出した。
長い廊下を渡らなければならないがとても寒く、床はとても冷たい。まるで冷蔵庫の中みたいだ。
「それにしてもいつにも増して暗いな。」オイルランプに火をつける。
辺りがほんの少しだけ明るくなったように感じた。
愛用しているスリッパを履き、ギシギシとなる廊下を渡る。
一番奥の壁にあるドアを開けるとリビングに出た。
それから左に曲がり、壁の端のドアを開ける。洗面所だ。僕はそこで服を脱ぎ、カゴに入れた。
「お風呂、沸かしてなかったな」今更のことに気がつく。
「まぁシャワーだけでいいか」
お風呂から上がり、書庫に向かう。廊下はまだギシギシと音を立てている。
一冊の本を手に取り、ソファに座った。
この屋敷はとても広く、まだ行ったことのない場所ばかりだ。
実を言えばあまり書庫にも行ったことが無かったのだが、何故か今日は足が向いた。
ホコリひとつない部屋で新品のような本が並ぶ中、
本棚の端っこに何回も読んだ跡がある古ぼけた本を見つけた。
「何だこれ…」
見つけたというよりも、惹き付けられたと言った方が正しいだろう。
なぜかは分からないが、僕は無意識にその本を手に取っていた。
ドサッと座ったあと本を開くと黄ばんだ紙が2枚出てきた。
それは君の顔写真と……
君の…君の……………様々な詳細が書かれていた。
「あぁあああああぁあ……」
記憶がドバドバと流れ込んでくる。頭がかち割れそうだ。
その痛みに耐えきれず僕は、――意識を手放した。
「――――。――――――。」
どこか悲しそうな声が聞こえる……。
優しい私は、今日も君を喰らう 帆坂 天 @ten14
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