第3話 メイドの初仕事
ルイくんに教えられた通り、厨房の横にある使用人の待機室にやってきた。
そこにはメガネ姿にひっつめ髪のメイドと、先ほどの赤髪のメイドがいた。
あのメガネのメイドさん、面接の時に会った人だわ。
たしかメイド長だと言っていたような。
「おはようございます。クロエと言います。今日からよろしくお願いいたします」
私が頭を下げると、ベテランメイドさんはメガネをクイッと上げた。
「ようこそ、クロエ。面接の時にも会いましたが、私はメイド長のマチルド。こっちはリザよ」
メイド長に紹介され、赤髪メイドのリザさんが無愛想な顔で頭を下げる。
「リザ、クロエはあんたと同じ、シャルロット様付きのメイドになるから、先輩ののあんたが色々と教えてあげて」
「はい」
「それから、エマが来ていた制服ある? この子に貸してあげて」
「はい、分かりました」
やる気のない返事をするリザさん。
「リザさん、よろしくお願いします」
私も頭を下げたのだけれど、リザさんからの返事は無かった。
あらっ、無視された?
ううん、単に聞こえなかっただけよね。
だって来たばかりだし、無視される覚えなんてないもの。
私がそんな事を考えていると、メイド長は時計に目をやり、青い顔をした。
「それじゃあ私は、奥様の外出の準備があるから、あとはよろしく頼むよ」
メイド長がバタバタと部屋の外へ駆けていく。
ここ、本当に忙しいのね。
「あの、リザさん、私は何をすれば良いでしょうか」
私がリザさんの顔をチラリと見ると、リザさんはあからさまに嫌そうな顔をした。
「ちっ」
えっ、舌打ちされた?
「んじゃ、とりあえずシャルロット様の部屋の掃除でもして」
面倒臭そうに言うリザさん。
「あの、シャルロット様の部屋はどちらでしょうか」
「三階のいちばん奥」
「はい、分かりました。それからメイドの制服はどこでしょうか?」
「自分で探せば? たぶん棚のどっかにはあるんじゃない」
棚のどっかって……。
まあ、とりあえず手当り次第探してみるしかないか。
「はい、探してみます」
「それじゃ、私、これから仕事があるから」
「はい」
バタンと音を立ててドアを閉め、部屋を出ていくリザさん。
リザさん、どうしたんだろう。
私、何か気に触ることしたかしら。
考えても思い当たる原因はない。
第一、今日が初対面だし。
単に虫の居所が悪かっただけかな。
「まあいっか。とりあえず制服を探そう」
私は一人つぶやくと、片っ端から戸棚を開け始めた。
とにかく制服に着替えないことには仕事はできないし。
近くの棚から手当たり次第に開けてみる。
モップはここ。ここは予備の雑巾かしら。
棚を漁っていると、やがて綺麗に畳まれた紺色のワンピースと白いブラウス、白いエプロンが出てきた。
良かった。多分これだろう。
私は真新しいワンピースとエプロンをじっと見つめた。
これ前の人が使ってたものなのよね。
洗濯して綺麗にアイロンされているせいか、新品同様に見える。
もしかして入ってすぐ辞めてしまったのかもしれない。
「うん、サイズもぴったりみたい」
私は姿見に自分の姿を映し、一回転をした。
紺のメイド服は、シンプルだけど上品で可愛らしい造り。
生地もいいし、ボタンの形とか、スカートの丈や広がり方、エプロンのフリルも上等なものに見える。
まるで全てが職人さんの手で計算されつくして作られているみたい。
さすが大金持ちのお屋敷。きっとメイド服にまでお金をかけてきちんとした仕立て屋さんに作らせたに違いない。
私は前のメイドさんが残した制服を着ると、棚の中から見つけた掃除用具を手に取った。
何も言われなかったけど、使ってもいいんだよね。
ま、いっか。とりあえず掃除しないと。
ホウキとチリトリ、それからバケツと雑巾を手に三階へと向かった。
たしか三階の一番奥の部屋と言っていたはず。
私が階段を上りシャルロット様の部屋に向かっていると、後ろから声をかけられた。
「よっ、また会ったな」
振り返ると、そこに立っていたのは黒髪に緑の目の美少年。
「あ、あの時の犬の……えっと」
「ルイだよ。忘れるな」
呆れ顔をするルイくん。
「ごめん」
私が照れ笑いを浮かべていると、ルイくんはじっと私のメイド服を見つめた。
「何?」
私がキョトンとしながらルイくんを見つめ直すと、ルイくんは少し照れたように視線を外した。
「あ、いや……あんた、本当にメイドだったんだな。何だか信じられない」
「メイド服、変? 似合ってない?」
私がキョトンとしていると、ルイくんは首を横に振った。
「いや、似合ってるよ。可愛い」
「へ?」
私が固まっていると、ルイくんはクスリと笑った。
「可愛いだろ? そのメイド服。隣町で町一番の仕立て屋に仕立てさせたらしいんだ」
あ、なんだ。可愛いというのは制服のことね。
「うん、可愛いわよね、この服」
私はうんうん頷いた後で、シャルロットお嬢様のお部屋の掃除のことを思い出した。
「あ、そうだ。ちょうど良かったわ。私、今からシャルロット様のお部屋に行きたいのだけれど、場所が分からないから教えて欲しいの」
三階の奥とは言われたけど、右奥なのか左奥なのか、たくさん部屋がありすぎて分からない。
「ああ、それなら、向こうの奥の突き当たりだよ」
「ありがとう、助かる」
「うん、それじゃあね」
「バイバイ、またね」
私はルイくんに頭を下げると、急いで教えられた部屋へと向かった。
はぁ、ビックリした。
階段を駆け上がったせいか、その日はいつもより心臓の鼓動が早く、鳴り止まなかった。
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