第16話 討伐後

目を覚ます。

目を擦り覚醒していない脳でぼけーっと周りを見る。


この部屋は、教会の隣にある宿舎の部屋?

なんで、ここで寝ていたんだろう?いつ寝たんだろう?とぼんやりと思った。


コンコンコンと扉を叩く音が鳴った。


「入るぞ。」

「あ、は、はい。ど、どうぞ。」


言葉の途中で扉を開けて入ってきたのは指揮官様だった。


指揮官様を改めて見ると父さんより大きい、さらにがっしりとした筋骨隆々だから、もっと大きく見える。

金髪長髪を襟足で縛り纏めている。


赤い瞳で鋭い目つきの指揮官様と目を合わせると慣れていない人なら怯み上がってしまいそうだ。

俺は父さんに似た雰囲気を指揮官様が出していたから怯みはしなかった。

目つきは怖いと思ったけど。


「起きていたか。具合はどうだ?」

「えーっと、少し、怠いです。」

「そうか。精神的にもあんな凄い魔法を使って疲れているからだろうな。」


凄い魔法?

確かにいつもより多い魔力に多くの同時使用数だったけど、所詮生活魔法だから凄くないと思うんですけど?と脳が覚醒してきて考えられるようになって、気がつく。


「魔物はどうなりましたかっ?!母さん達は無事ですかっ?父さん達はっ?!」

「魔物は君のおかげで殲滅することができた。村の住人達は魔法を多く使っていたらしく、疲れているだろうから休んでもらっている。」

「そうですか。」


母さん達が無事を知り安堵した。

そして、見ていない俺は、わずかな可能性があるんじゃないかと指揮官様に聞く。


「……父さん達は?」

「……肉屋の地下倉庫に生き残りがいた。」

「……」


まだ、可能性が……


「彼らに話を聞くと君のお父さんと肉屋の主人達が『必ず救援隊が来る。お前達には辛いこともあるが長い未来がある。』『お前は結婚したばかりの奥さんがいるだろ?』『お前は幼い子供がいるだろ?』と一人一人説得し若い世代の彼ら彼女らを教会まで間に合わないから地下倉庫に避難させたそうだ。避難した後も長い時間、外で勇敢に戦うお父さん達の声が聞こえていたそうだ。」


う……


「……父さん達の、時間稼ぎの、おかげでっ、救援隊が、間に合ったんですねっ。父さん達は俺達を守った、英雄ですねっ。ひっぐ……う……。」


指揮官様が父さん達の話をしている途中から涙がこぼれ出して、涙を流しながら父さん達は英雄だと言いきった。

言葉にしたかったんだ。


父さんのおかげだけどっ、俺も幼い子供だろっ、母さんを一人にするなよっ……と掛け布に顔を埋め泣き、心の中で愚痴を言いながら、父さん達との思い出が浮かんでは消える。


前世でもされなかった肩車をしてくれた父さん、幼い子供に見せるべきじゃない大物の討伐したビックボアを誇らしげに見せる父さん、三歳児に肉の解体を楽しそうに教えて、ずたぼろの下手くそな解体でも褒めてくれて美味しい部位を報酬としてくれた肉屋のおっちゃん、父さん達との沢山の楽しい思い出が浮かんでは消える……

最後に「母さんを頼むな。」と頭に響いた……




結構な時間泣き続けていたが指揮官様は俺が落ち着くまで待っていてくれた。


「すみません。」

「もういいのか?」

「はい。また思い出して泣いてしまうかもしれませんが、今は大丈夫です 

。」

「うむ。子供らしいところもあるが……魔法も会話、その態度も子供には見えんな。それに娘以外の子供達は私とまともな会話はできん。娘と会話するように話しているのだがすぐ泣いてしまう……」

「あ、い、えーっと、いっぱい勉強を冒険者達や司祭様に教えてもらいましたから。それと少しですが接してみて恐い人ではないとわかりましたから、大丈夫です!」


少し落ち着いたのに……

若干気持ちが沈んでいるときにイケおじのしょぼん顔なんか見たくない!


「大丈夫か……うむ、うむ!」


うん、元気になった……


「今回私を含め領兵、冒険者達がゴブリンキング、途中で進化をしたゴブリンエンペラー相手に少ない犠牲で討伐できたのは君のおかげだ。」


あぁ、父さん達以外にも犠牲が出たんだ……

もっと早く支援していれば…………

それにもっと早く結界を直せることに気がついていれば父さん達を……


「い、いえ、自分がもっと早く支援していれば……」

「調子に乗って突っ込んだ冒険者の自業自得だ。それに君が報告に来る前の話だ。」


う、確かに、それは自業自得だな。

でも、もっと色々試そう。

後悔しないように……


「君が上位種を倒してくれたおかげで軽傷に済んだ。君の支援がなければ少なくない犠牲が出ていただろう。私もゴブリンエンペラーに殺られていただろう。君が後悔する必要はない。貴族の当主を救ったのだ。誇ると良い。」

「わかりました!ん?」

「どうした?」

「えっ?貴族の、当主を、救ったって言いましたか?当主様が、いたのですか?」

「そうだ。私を救った。」

「……」


Q.当主様がいたんですか?

A.私を救った。


私を救ったと言った人が当主様?

私を救ったと言った人は指揮官様

指揮官様=当主様?


えっ?!


「ん?」

「ええええええ?!指揮官様が貴族の当主様あああ?!」

「見えぬか?」

「い、い、いいえ。貴族様は後方で指示をお出しする方々だと思っていたので、最前線で戦っておりましたので、貴族の当主様だと思いませんでした。申し訳ありません。」


深く、寝かされていたベッドの敷き布団に頭が埋まるくらい深く土下座をした。


「何も気にしておらん。頭を上げよ。本当なら命の恩人である君に私が頭を下げ感謝をするべきなのだが、貴族というものは厄介なものでの……」


すごく面倒臭そう……


「頭を上げてくれ。まともに会話ができぬ。」

「わ、わかりました。」


顔を上げて向かい合う。

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