第13話 壊れた日
五歳を迎えて、数日が経った。
昼食を済ませいつものように外で魔法を楽しんでいたら、カンカンカンと連続で鐘が何度も繰り返し鳴った。
連続の鐘は魔物の襲来を知らすものと教えられていた。
今までに起こったことがないことに不謹慎にも興奮してしまった。
圧縮プチウィンドをグリフォンの形にして乗り、魔物がいる方へ飛んだ。
空から村に迫る魔物達を見て多勢に無勢という言葉が浮かび、興奮なんか吹き飛んで死という恐怖にグリフォンプチウィンドの制御を失い消え、地面に落下した。
下にいた村の狩人が俺に気がつき、受け止めてくれたおかげで地面への衝突は回避した。
父さんのところに連れていかれ、父さんに抱えられ避難場所の教会に連れていかれた。
母さんに急に飛んでいったことを怒られ泣かれ抱きつかれた。
俺は恐怖で震えていた。
父さんが俺と母さんを抱きしめた後、手を俺の頭にポンと置き「~~~~~~~。」何かを言っていた。
父さんがいなくなってからどのくらい経ったのだろうか?
時間がどのくらい経過したかわからない。
外の大人達の声が聞こえなくなった。
母さんや大人、シスター達が大丈夫、大丈夫と俺達子供達を励ましている。
バンッと音が鳴った。
シスターがゆっくりと扉を開いた。
その先に見えたのは教会を囲うように張ってある結界を叩いたり頭突きをしている多くの魔物達。
その光景を見てシスターが尻餅をつき後退る。
恐怖が伝染、神に祈る者、泣く者、諦める者、励ます者。
バキッとひび割れる音が鳴った方を見る。
魔物が叩いたであろう場所の結界にひびが入っていた。
俺はそれを見て「『プチリペア』」と魔法を唱えていた。
するとひび割れが直って綺麗な元の結界に戻った。
教会内が静寂に包まれる。
別の場所で結界を魔物が叩きまたバキッと、また「『プチリペア』」と唱え、結界が直った。
司祭様が一番に正気に戻る。
「結界がひび割れしたら結界にプチリペアを使いなさい!」
「組を作って交代で使いなさい!」
「結界が壊れなければ魔物は入ってきません。落ち着いて。落ち着いて行動しましょう。」と司祭様が指示を出した。
みなに希望が生まれる。
俺は直らなかったところに重ねて魔法を使った。
日が沈み、魔物達の攻撃が少なくなっていった。
「大人達は交代で見張りを子供達は寝ましょう。」と司祭様が言う。
母さんが俺を抱き締め声を殺し泣いていた。
俺もつられ泣きいつの間にか眠っていた。
目が覚め周りを見ると教会内で周りに涙の跡を残した子供達が眠っていた。
俺も同じか……
顔を袖でごしごしと拭いて、眠っている子供達や大人達を起こさないよう立ち上がりそっと教会を出る。
外は薄暗かった。
魔物達の結界を壊そうとする音が聞こえない。
グリフォンプチウィンドで上空に飛んで周りを見ると、魔物は俺達と同じように眠っていた。
魔物。
人類の敵。分かり合えぬもの達。俺達を食べるもの達。繁殖のために犯すもの達。
ゲームでは何度も討伐したことがあった。
ゲームでは何度か全滅しセーブしたところからやり直しレベル上げや装備を整え討伐した。
現実では結界越しだが初めて生きているところを見た。
殺気を向けられるなんて前世を含め今までなかった。
結界にひびが入ったときは絶望感、無意識に使ったプチリペアでひび割れが直った時に生まれた希望。
セーブなんてものはない。
死んだら終わり。
教会の屋根にある女神像の横にグリフォンプチウィンドから降りて座る。
今更ながら魔物が教会まで来たということは父さんや狩人達が死んでしまったのだと察し泣いた。
だから母さんも泣いていたのか……。
頼れる強く優しい父親だった。
もう、あのじょりじょりして痛い頬擦りも、大きな手で乱暴に撫でられることも、ないのか……。
優しい隣の狩人のお兄さん、がははといつも大きな声で笑っていて息子のように接してくれた肉屋のおっちゃん、強面だけど優しい門に立っていたおっちゃん、よく優しく頭を撫でてくれた村長、体術と剣術を教えてくれた冒険者のケンディさん、「天才だわ!」と褒めてくれた魔法を教えてくた冒険者のマジールさん、他のみんなも誰一人も教会まで戻って来なかった……
「母さんを頼むな。」と父さんが俺の頭に手を置き言った最後の言葉が頭に響いた。
まだ、恐怖がある。
けど、冷静になろう。
袖で涙を拭く。
ここからなら全体を見れる。
一度でも結界が壊れたら終わりだ。
ひび割れが直せそうに、間に合いそうにないところに魔法を使う。
無駄なく。
一番魔力があるのは俺だ。
ここにいる人達の生命線は俺だ。
「魔物の襲来の鐘が鳴って、すぐに救援の早馬を街に送りました。」と司祭様が言っていた。
救援が来るのは早ければ今日の昼、遅くても明日の明け方。
全滅したと思って防衛線を敷いて助けに来ないかもしれない。
だから魔物が起き破壊行動を始めたら、定期的に生きていると空にプチライトの閃光弾を上げることにした。
俺が母さんを、ここにいる皆を、守るんだ。
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