《補助魔法》しか使えなかった俺、世界最強の剣術を極めて第二の人生をやり直す〜俺を裏切ってきた冒険者たちが陰で悪事をしまくまってるようなので、社会的に殺します。許してください? 許すわけないでちゅよ〜♡
どまどま
第1話
「さあ、ここは頼んだぞ♪ アデオル君♪」
「へ……」
急に背中を押され、僕は目を白黒させる。
――地下迷宮グレンドリオ。
その最深部にて、僕はいま、仲間たちに殺されようとしていた。
「ゴォォォォォォォォォオオオ‼」
目前でおぞましい胴間声をあげるのは、デビルキメラと呼ばれる最悪の怪物だ。
ライオンの頭、鷲の頭、そして龍の頭。
四足歩行の胴体に三つの頭を持つ、正真正銘の化け物である。
仮に地上に出てしまおうものなら、単身で街や村を滅ぼしてしまいかねないほどの力を持つ。Sランク冒険者――数多くいる冒険者のなかでも最高ランクの実力者――が大勢集まることで、ようやく倒すことのできる化け物と言われていた。
「そんな……っ! 無理だよ、僕だけじゃ……!」
「わかってるって♪ だからおまえにお願いするしかないんだよ♪」
僕たちがそんな化け物と対峙している原因は、僕の肩を叩いてにっこり笑っているこの幼馴染――ベルフレドにある。
勇者ベルフレド、魔術師フレスタ、回復術師ムーマ、そして補助魔法使いの僕……アデオル・ヴィレズン。
ここ数年の間、僕たちはずっとこの四人でパーティーを組んでいた。
かつて仲の良かった幼馴染ということもあるし、パーティーの役割分担としても悪くないメンバーだった。
戦闘時は僕とムーマとで支援しつつ、ベルフレドとフレスタとで敵を攻撃する。しかも幼馴染補正で息ぴったりに戦えるため、僕らはあっという間に様々な功績を残し――。
全員が「Aランク」の称号をもらえるほど、短期間で多くの活躍をした。
けれど。
僕らはまだ全員、戦闘経験が三年やそこらしかない。
Aランク冒険者としては“若輩者”もいいところで、それがベルフレドの傲慢さに拍車をかけたんだろう。自分たちならデビルキメラも楽に勝てるだろうと、深く考えもしないうちに突っ込んだのだ。
――結果は惨敗。
ベルフレドの剣もフレスタの魔術もほとんど効くことなく、そしてムーマの回復魔法も追い付かない。
僕の《補助魔法》スキルであいつを麻痺状態にしていなければ、いまごろ殲滅もありえた状況だった。
「ガァァァァァァァァァァァァアアアア!」
そしてもちろん、デビルキメラはそれほど甘い相手ではない。
麻痺になってもなお、雄叫びをあげ、僕らを屠ろうとしてくる。麻痺のおかげでスピードはだいぶ落ちているが、それでもいまの僕たちでは――デビルキメラに敵わない。それほどの実力差があるのだ。
だからどうやってこの場を切り抜けるのか、必死に頭を回転させていたところで……。
――さあ、ここは頼んだぞ♪ アデオル君♪
勇者ベルフレドから、信じがたい言葉が飛び出してきたのだった。
「ど、どうして僕だけ……? みんなでここまで頑張ってきたじゃないか」
「はぁん? なんだよおまえ、まだわかんねぇってか」
ベルフレドはそこで、初めて醜悪な笑みを浮かべてみせた。
「俺らは全員レベル50を超えたってのに、おまえはまだレベル1のまんま。どれだけ魔物を倒しても一向に強くならねぇ。俺らがいままで、どれくらいおまえに迷惑かけられてきたか――わかんねぇわけじゃねぇよな?」
「…………っ」
それは、そうだ。
この数年間、僕はベルフレドと一緒に魔物と戦ってきた。
ときには命がけの戦闘を繰り広げることもあったし、死にかけたことも何度もあった。
けれど――僕のレベルは依然として1のまま。
続々と強くなっていく仲間たちに対し、強い負い目を感じているのは事実だった。実際、危ないところを何度も助けてもらってきたしな。
とはいっても、僕の本職はあくまで《戦闘の補助》。
敵にデバフをかけたりとか、味方にバフをかけたりとか、ベルフレドたちのサポートをするのがメインなのだ。うまく立ち回ることさえできれば、レベルの有無はたいした問題にならない。
だから僕なりに、できるだけパーティーに貢献してきたつもりだったのに。
今回もデビルキメラを麻痺させることで、彼らの命を守ったつもりだったのに。
「安心なさい。私たちと同じくらいレベルが高くて、優秀な補助使いをすでにスカウトしてあるわ。早ければ今日にでも、彼と合流することができるでしょう」
そう言うのは、魔術師フレスタ。
昔は近所に住んでいたおてんば娘だったが――いまはベルフレドと恋仲関係にあるんだったか。
下唇のあたりにあるほくろを人差し指でつつきながら、妖艶に笑っている。
「……そうか。おかしいと思ったら、これは最初から、僕を蹴落とすための……!」
「あらあら人聞きが悪いわねぇ。私たちはこれからSランクパーティーになるのに、大事な仲間を追放したんじゃ心象が悪いでしょ? だからまずは《大事なアデオル》に死んでもらうことで、私たちは《仲間の死を乗り越えた最強パーティー》になるのよ?」
「…………」
「そういうこと。ささ、もう死んで。邪魔」
抑揚のない声を発しながら、回復術師ムーマが僕の背中を押す。
彼女も戦闘職ではないものの、レベルは僕のほうが圧倒的に低い。
抵抗することもままならず、呆気なくデビルキメラの前に突き出されてしまった。
「ギュアアアアアアアアアアアア‼」
麻痺状態であることがよほどストレスなのか、デビルキメラが怒りの咆哮をあげる。
こいつは非常に凶暴性の高い魔物で、本来なら悠長に会話ができる相手ではない。すぐにでも僕らに飛びかかりたかったところを、麻痺のせいで動くこともままならず――相当に怒りを溜めていると見た。
「それじゃあね♪ 来世ではレベルが上がるといいわね、アデオル♪」
いつの間に遠くまで移動していたのか、魔術師フレスタは数メートル先でにっこり微笑むと。
地属性の魔法を発動し、大きな岩石を複数個出現させた。
しかも最悪なことに、唯一の退路に――だ。
もともとが細い通路だから、そこに岩を出されたら脱出することができない。
「なっ……!」
嘘だろ。嘘だろ。嘘だろ……⁉
レベルが上がらないなりに、いままで精一杯努力してきたのに。
自分なりに《補助魔法》を極め続けて、できる限りパーティーに貢献してきたのに。
その結果が……これか。
前述した通り、デビルキメラはSランク冒険者が数人がかりでやっと倒せる相手だ。
そしてそのSランク冒険者は、最低でもレベル80の高みに昇っていると聞いたことがある。
レベル1の――しかも直接的な攻撃手段を持たない僕が挑むにはあまりに絶望的な相手だといえた。常識的に考えれば、絶対に勝てるわけがない強敵だ。
けれど。
「このままなにもせず死ぬのは……嫌だ」
僕が使える補助魔法は、あくまで戦闘のサポートだ。
味方の攻撃力や防御力を上げたり、逆に魔物の能力をダウンさせたり……。他にも数えきれないほどの補助魔法があるが、基本的には《攻撃役》がいるからこそ成立するものだ。
魔物と一対一で戦うには、あまりにも心許ないと言える。
だとしても、僕は自分なりに補助魔法を極め続けてきた。レベルが上がらないからこそ、他の要素で挽回しようと頑張ってきた。
だったら、いまこの瞬間こそが、その努力を発揮するときではないのか。
「ふぅ……落ち着け、落ち着け……。やればできる、やればできる……!」
《補助魔法》しか使えなかった俺、世界最強の剣術を極めて第二の人生をやり直す〜俺を裏切ってきた冒険者たちが陰で悪事をしまくまってるようなので、社会的に殺します。許してください? 許すわけないでちゅよ〜♡ どまどま @domadoma
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