必ず45分遅れる君にわたしは今日も恋をする
紫乃遼
どうせ来ない君を待つ
「来るかなあ」
待ち合わせはお互いの最寄り駅、どちらかといえば彼に近い出口にあるベンチ。石造りの冷たい椅子に寒さをこらえて穿いた短いスカートのお尻を乗せて、単語帳を片手に彼を待つ。
もう約束の時間だ。今日は映画を観ることにしているから、さすがに時間通りに来てくれるかな。
上映時間という淡い期待にすがりながら、人が横切るたびに彼かどうかを確認してしまう。単語はどうにも頭に入りそうにない。一応受験期なのにな。
でも知ってるんだ。彼の足音も、猫背気味な姿勢も、遠くからでもわかるくらいに覚えている。もう三年近く一緒にいるんだ。眼の前を通り過ぎていくのが他人なことくらい、見なくてもわかるんだ。
十五分経った。彼はまだ来ない。チケットを取っていなくてよかった。彼の遅刻を見越して取らなかったのだけど。彼は絶対に遅刻する。それもよくわかってるんだ。付き合う前からそうだったから。付き合えば変わるかと思ったけれど、今のところ変わっていない。
それでも期待して、毎回わたしは約束の十分前に来てしまう。彼に見せたいミニスカートで少しでも誘惑できるかななんて子どもながらに考えて、どうせ見てくれないネックレスまでつけて、毎回一時間近く待ってしまう。待ったところで彼が褒めてくれるわけでも、謝ってくれるわけでも、ましてやわたしには備わっていない「女性の魅力」なんてものになびいてくれるわけでもないのに。
そうして彼はやって来た。いつも通りの四十五分遅刻。彼は悪びれずに、わたしの前まで来ることすらせずに、わたしから三メートル離れた位置で足を止める。いつもわたしが駆け寄る。
「来てくれてありがとう」
遅刻は責めない。だって、学校で会えるのに休日にも会ってくれることが、めんどくさがりの彼にとってどれほどの苦労か、わたしは知っているから。
「ねえ、上映時間すぎちゃったよ? 次の回で観る?」
話しかけるのも、いつもわたしから。それでもいいの。どうせ約束通りには来てくれないけれど、こうして来てくれるんだから。それだけでいいと、言い聞かせるの。
ねえ、指が、足が冷たいの。温めてよ。そんなことすら言えないわたしは、付き合ってくれているだけありがたいのだからと、今日も笑顔をつくろった。
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