ナイトクラブ『東京スピンドール』

遠野 彬

第1話 俺と親父と姉さんと

ここは…新宿歌舞伎町…《東京スピンドール》という店がある。

何の店か…だって?… ポールダンスやったりするキャバレーってとこかな。


隆史(たかし)

「オーナー酷いじゃないですか!  なにも…サヤカちゃんをクビにしなくても…」


極楽オーナー

「隆史…おまえ甘いよ!  なに…俺だって3ヶ月の猶予を出してたってわけさ。  それなのに…またあんな事件を起こしやがって! こっちの身にも成ってみろよ!」


梶崎マネージャー

「そうですよ…お坊っちゃま(隆史の事)、 旦那様だって随分目を掛けてきた娘なんですから。」


隆史

「ふんっ! うるさいよ!  どいつも コイツもサヤカを見捨てやがって!」


極楽

「オマエなあ…恋とビジネスは…ちゃんと分けろよ!  店を退かせてオマエが面倒見れば良いじゃないか?  オマエが仕事さえ ちゃんとしてくれれば… 悪いようにはしないぜ。」


隆史

「義理の父さんだからって親父風吹かせやがって… ちゃんとやりゃあ良いんだろ!」


バタンと戸を閉めて隆史はオーナー室を出て行った。 風体は街のチンピラだ。


極楽

「跳ねっ返りには…困ったもんだな。 世話が焼けるよ。」


梶崎

「オーナー、昔のご自分を見てる様なんじゃないですか? 何か嬉しそうですよ。」


極楽

「ああ、真理が生きててくれたらなあ。  親子3人の幸せってヤツを感じられたのかもな。」


梶崎

「隆史さんのお母さんの真理さんも… オーナーが居てくれて、きっと安心なさってますよ。」


……………………………………………………………


店のウェイターの安藤  「若!どちらへ?  お供しましょうか?」


隆史

「オマエ! ヤクザじゃねえんだから… 《若》は止めろ!」と言って軽く頭を小突く。


安藤

「へへっ! そうでしたね。 すみません。」と言って隆史をレクサ〇の後部座席に座らせる。


隆史

「小岩井町の《止まり木》って店までやってくれ! 姉さんに会いに行く。」


安藤

「わかりやした。」


……………………………………………………………


《止まり木》の梓(あずさ)姉さん

「タカ! いつまでもアコギな商売やってるんじゃないよ! アンタの親父によく言っときな!」


隆史

「へい! 姉さんもお達者で何よりです!」


梓姉さん

「バカヤロー! 誰のお陰で……!  おっと!この話はしたく無いんでえ!」


隆史

「姉さん……本当にすみません。」


姉さん

「タカよ! アレはなあ… アタイが好きでやった事だよ! 気にすんな!  もう言わなくて良いからな!」


梓姉さんは左目に眼帯をしている。 海賊船の船長みたいでもあり、睨みを効かせている。


隆史

「姉さん! 俺に姉さんの面倒見させてください!」


姉さん

「バカな事…言ってんじゃねえぞ! 

俺はなあ…オメエに面倒見られなくったって、 ちゃんと生きていけるんだよ!バカヤローが! オメエなんか早く帰っちまえ! 田代!コイツを早くつまみ出せ!」 …………………………………………………………… 隆史

「田代さん、姉さんの事…たのんます!」


田代

「おうよ! タカ、姉さんだってアレで結構タカに気を使ってるんだぜ!」


隆史

「はい!分かってます! 田代さん、姉さんの眼が ああ なったのは……!」


田代

「タカよ、分かってるさ。 でも姉さんの気持ちも察してやれよ。 オメエに辛い思いをさせねえようにだなあ…。」


隆史

「田代さん、有り難うございます。コレで何か姉さんの好きな物を…。」


田代

「タカ、済まねえな。姉さん喜ぶぜ。 ああ見えて…タカの事は心憎く思ってねえからな。」


隆史は小岩井町を後にした。 引きずられるような思いを抱えて…。




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