第27話 記録取るのも任務のうちで【EW-A-3】

 田辺は空の上でギルド戦の開始を迎えた。今回は現地の機竜を有するギルドの後方支援と空と地上の情報収集が与えられた役割だった。


「情報収集ポッドは全機投下――完了」

『地上では戦闘が始まっている』


 光学センサーで地上の様子をアップにすると、銃や魔術を使った遠距離戦が始まっていた。例の一夜城なら一夜ロボは集中砲火を浴びながら、ランチャーで応戦している。観測したデータは地上のギルドを経由して、遠方のエンケの空隙まで送信されていた。


「ハリボテだと思ったがそうでもないのか」

『機動性は低いが移動砲台や盾にはなる』


 相手はタイミングを見計らって攻め込むつもりだったはずだ。それなのに事前に動きが見えにくかったのは、魔術を使った欺瞞などもあるが、ゲームのシステムによる部分もある。配置についたらログアウトして、戦闘が始まったらログインする。死亡時は最寄りの拠点に戻る仕組みを利用して、身に着けていた装備や情報を記録したデバイスに運ぶ。前者のような方法を積極的に活用している可能性が高い。


「12時方向に敵機、迎撃には304航空隊が向かっている」


 レーダーで戦況を見守っているが有利な戦いに持ち込めているようだ。

 無人機の2号機から5号機は2機編隊で周辺空域を哨戒している。1号機はブラックアウトとペアを組むため残していた。


「勝った、あるいは勝てる、とこちらが思った瞬間に向こうがやりそうなこと、か」

『新たな機竜の投入、無数の護衛機とともに爆撃機の投入、超高速ミサイルによる我々への攻撃が想定される』

「そして、想像を絶するものか」

『我々には想像できず、彼らに想像できるものがあるとするなら、それは彼らだけが知っているものがヒントになる』


 田辺は唸り、シートに身体を預ける。機体と直結してデータを視界に重ねているから、どのような姿勢でも正確に情報がつかめる。操縦も手放しで行えるが念のために操作に必要なレバーや計器類も搭載されていた。


「情報収集が役割がより重要になったな」

『不測の事態を予測しろ、だ』

「それができたら苦労はしない」


 長距離空対空ミサイルによる撃ちあいが終わり、短距離ミサイルと機関砲を使った有視界戦闘に入ったことがレーダーから見て取れる。戦闘空域の外までレーダーの範囲を広げてみるが、新たな機影は見つからない。


『304航空隊からの情報によると敵の機竜はバーチャルスターだ』

「魔術支援機構が満載の空飛ぶ魔法陣か。どこから発進していてもおかしくはないが……」

『バーチャルスターにアレスティング・フックが取り付けられていることが判明した』

「アレスティング・フック? ――艦載機、海から来たのか」

『4号機と5号機を海上偵察に向かわせたい。許可を』

「許可する」


 広域レーダーのマップに加速する4号機と5号機が映っている。第304航空隊が戦っている空域の横をすり抜けて、山を越え、海に出る。その瞬間、正面から迫るミサイルをレーダーがとらえた。4号機と5号機はそれぞれミサイル防御を開始。

 田辺は即座にエンケの空隙に通信を繋ぎ、敵が海の上にいる可能性を伝えると、見つけ次第沈めなさい、と簡潔な返事。了解、と返して通信が終わる。


「4号機と5号機で索敵、2号機と3号機のエーテルバーストで沈める作戦はどうだ?」

『異論はない。確認だが我々は現状維持でよいのか?』

「中継役が持ち場を離れるわけにもいかない。ただ、ここに中継役がいるといっているようなものだ」

『2号機と3号機がこちらに接近中の敵機竜を捉えた。4機だ』

「噂すればなんとやらだな」

『現状維持でよいのか?』


 エリスの問いに田辺は、


「現状維持だ。ついでに敵を落とすだけだ」

『了解』

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