第26話 ところでみな記録はとっているかい?【EW-A-2】
ギルド「エンケの空隙」の拠点「サトゥルヌス城」の地下深くの指揮エリアに連合しているギルドのメンツが集まり、小規模なグループをいくつも形成していた。
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「問題は敵の第二波がいつくるかだ。ずっと、きりきりしていたら身が持たないぞ」
「それも作戦のうちだろう。正確な情報を待つしかない」
「何にしても戦場になった北方エリアの戦力回復は必要だ。そこに注力しよう」
「武器と弾薬はめどがついているんだが……」
「キャラクターの回復だよなぁ」
「治癒魔術が使える魔術士たちが対応中だ」
「え、対応中なの?」
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「生産系のギルドに協力を要請して各物資の生産量は増やしている」
「原材料の供給も行っているから、ひとまずは何とかしてくれるだろう」
「不満は、来ないのか?」
「こんなにたくさん作っていいのか、ひゃっほーう、と言っていた」
「今まで作り足りなかったのか……」
「傷んだりするから、どうしても供給にあわせて作る必要があったらしいよ」
「生産性向上のアイディアが思いついたってメール来た」
「私たちと全く違う戦いをしているね」
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「一番、投入したい機竜がほとんど動かせない、か」
「第500飛行隊が1機よこしてくれるそうだ」
「あそこの有名なブラックアウトが出たところで足りないだろ」
「それが我に新兵器の用意ありだそうで」
「新兵器?」
「ブラックアウトを無人化した機竜4機、お供につけると」
「ユダシステム的な」
「SDPでは」
「フリップナイトだろ」
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「領土内の輸送網は問題なし。問題は元・前線のあたりだ」
「敵からは丸見えだからなぁ」
「ギルド戦でなくても、ちょっかいは出せるときたもんだ」
「それはこちらも同じなので、狙撃が得意な面々を呼んできた。そろそろ到着する頃合いだ」
「どこのギルド?」
「二人組のギルドとか、そこと付き合いのあるギルド。何か、本職、らしい」
「本職? まぁ、本職でもプロゲーマーでも牽制になれば万々歳だ」
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あちこちのグループから聞こえてくる声にスグリは壁に寄りかかって聞き耳を立てていた。自分が本来こなすべきことはいったん、落ち着いている。こうやって、いろんな意見や感想が出る状態を眺めるのが今はやりたいことだった。自分では思いつかない、あるいは気づかないこともあがっていて、ギルドとしてもギルド連合としても機能していることが実感できる。
「大所帯になったわね」
「何をしんみりしてるんだよ」
いつの間にか現れた副ギルドマスターのヘゲルは、
「そういうのは祝勝会とかでやるもんだ」
「そうね」
「連中、もう一回仕掛けてくると思うか?」
「彼らの戦い方は相手の戦力と戦意をくじくのが狙い」
「じゃあ、持ち直す時間を与えているのも意図的だってか?」
「ええ、大丈夫、勝てる、と思ったところでギルド戦を申し込んでくるでしょうね」
ヘゲルはしばし考えて、
「明日か明後日あたりか?」
「ええ。今晩も怪しいわ」
彼女は驚いたように目を開き、それから声を小さくして、
「今晩だとさすがにきついぞ。対抗できない」
「いくつか手は打っておいたわ」
「手ってなんだよ」
「それは、開けてからのお楽しみ」
スグリは自身の唇に指をあてて、悪戯っぽく笑って見せた。
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――同日、深夜、あるいは早朝。
ギルド「エッジファイターズ」の斥候が双眼鏡を覗いていた。対象はもちろん、先日戦闘したギルドの陣地だ。連日の復旧作業でそれなりに様にはなってきたが、塹壕が掘り進んでいない箇所などがある。作業スピードから言えば、かなりやる気はあるようだ。今日はどうなっているか、と奥を見て、斥候は双眼鏡を落としそうになった。昨日まではなかったはずの砲台や見慣れぬ人型ロボットが並んでいるのだ。幻術はかけるには遠すぎるし、張りぼてにしては作りは精巧だ。
「CP、敵は新兵器の配備をすでに完了している」
『もう一回行ってくれ』
「敵は新兵器の配備をすでに完了している。Aプランは使えない」
『了解した。プランについては参考にしよう。戻れ』
斥候はそっとさりながらちらっと振り返る。肉眼でははっきり見えないが、確かにそこに存在が感じられた。
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「少なくとも、一泡吹かせられたんじゃないかしら」
敵の斥候が二度見して去っていった、と報告を受けてスグリは微笑む。
「どこから出てきたんだよ、砲台とロボット」
「それ、うちの新商品っす。ブロック式でさくさく組み立てられる砲台」
近くで聞いていた少女が会話に割り込んでくる。
「ロボットは?」
「同じくうちの新商品っす」
「まさか、ブロック式?」
ヘゲルの言葉に少女は大げさに手を振って、
「いやいや、パーツを組み合わせて作るんすよ」
「すげえな」
「それでちゃんと動くのだから大したものよ。本格的な機動戦闘は無理でも、陣地を守る戦いには耐えられる」
「壊れた部分だけさくっと交換できる優れものっすよ」
「何か新兵器の展覧会だな、今回」
「当然じゃない。普段使わないものを活用するのだから」
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その翌日、完璧とはいかないものの、それなりに満足できる状態でエンケの空隙ギルド連合はエッジファイターズギルド連合にギルド戦を申し込んだ。
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