第6話 ばれても変えるつもりはなく【D-F-EX3】

『まぁ、お前はそういう奴だよ』


 通話越しのハガラズの声は柔らかい。FSと戦うために作られた戦闘用アンドロイドの彼とカシスは、実際に戦ったことがある。そして、紆余曲折を経て、彼はカシスの保護者になっていた。


「どういう意味かしら」

『たまに隙ができたり、何かに執着したり』

「執着、ね」


 今の学校生活は新鮮な出来事が多く、満足感すら覚えている。それを手放すのは惜しいし、何より、


『惚れた奴にはとことんだもんなぁ』

「うるさいわね。切るわよ」

『俺を切らないでくれよ』

「なら、塵にしてあげる」

『おっかないっすなぁ、カシスさんは』


 間を空けて、彼は声のトーンを落として、


『うちの深海で見つかったあれ、FSは関係ないんだな』

「関係ないわ。もし、作るのだったら貝にしておくわ」

『しゃべる貝が見つかったら速攻、連絡するぜ』


 声はすでにいつもの調子に戻っている。姿かたちを自由に変えられる上に群体として活動できるのだから、何かあれば疑われるのも仕方ない。

 ただ、ハガラズも本気で聞いているわけではないだろう、ともカシスは思う。おそらく、別の誰かから確認するよう頼まれているのだ。本気であればもう少し、食いついてくるに違いない。


「ヒトの変異種だと思うわ。生まれてすぐに捨てられたのではないかしら」

『その線で探しはしているが……いったい、何年分のリストをみればいいんだ……』

「あなた、いつからそんな仕事を請けるようになったの?」

『FSがらみの可能性のものは全部、こっちに来るんだよ』


 彼が椅子の背もたれに身体を預け、頭をかいている様子を思い出しながら、


「使い潰されないでね」

『ある程度まとまったら、この手のが得意な連中に回すつもりだぜ』


 端末のディスプレイに別の通話が来ている通知が来た。優也だ。


「ほかの通話が来たから切るわ」

『うぃー、グッドラック』

「グッドラック」


 ハガラズとの通話を切り、優也との通話をはじめる。


『もしかして、邪魔しちゃったかな』

「別に。暇つぶしに動画を見ていただけだから」

『何の動画?』

「猫」

『猫、いいよね』

「そうね。触ってみたいのだけど、逃げられるのよね」


 猫の感覚器では正体がわかるのかもしれない、とカシスは内心嘆く。身体にいくつか改良を加えてみたが、効果は今のところなかった。


『猫もなんか気まぐれだし、そういうこともあるんじゃないかな』

「そうね」

『話は変わるんだけど、次の休みって空いてる?』

「ええ」

『一緒に映画を見ない? あの話題になっているの』

「FSが暴れる映画?」

『そうそう、それ。すごい迫力あるんだって』

「待ち合わせは、いつもの場所、いつもの時間でいいかしら」

『わかった。先に予約しておくね』


 嬉しそうな優也の声にカシスは微笑み、


「お願いするわ」

『ええっと、それじゃあ、切るね』

「おやすみなさい、優也」

『おやすみなさい』


 もう少し話していてもよかったが、課題が山になっているのを思い出した。


「学校生活も大変ね」


 ソファから身体を起こすと、彼女はテーブルに座り、学校専用の端末のスイッチを入れた。

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