第5話 ばれました【D-F-EX2】
廊下ですれ違ったのは間違いなく、あの二人だった。営業できていた、とは想像はできるが、まさか、この学校まで来るとは。知り合いは来ないと見込んでこの学校にしたというのに。
まったく、と思いながらカシスは屋上に続く階段をのぼる。屋上から駐車場を見下ろすと、車に乗る二人がちょうど見えた。運転手がアルギズなのは当然だろう。狙撃特化の戦闘用アンドロイドの空間認識能力は非常に高い。目は当然よいので事故とは無縁だろう。
「カシス?」
「何かしら、優也」
「何を見てるの?」
「あの車」
フェンス越しに優也も車を見下ろす。会社の名前とロゴが入っているから、乗っている人物はそれなりに年が離れていそうだが、
「知り合いが乗ってるの?」
「そうといえば、そうね」
自分が悩みともいえないもやもやを抱えていた時ですら、最後まで聞いてぴたっと原因を言い当てるカシスが、ぼかした物言いをするのが優也にとって意外だった。車はわざわざロータリーを一周してから、裏門を抜けてスロープを降りていく。
「これは見られたかもしれないわね」
「だいぶ、離れているよ」
「彼女、とても目がいいの」
と言ったところでカシスの端末が鳴った。
「何か用かしら?」
『もしかして、と思ったんですが、カシスさんでしたか。挨拶が遅れてすみません』
「単刀直入にどうぞ」
『彼氏さん、かわいいですね』
「あなたからそういわれるとは思ってなかったわ」
カシスはマイクに拾われない程度に小さく溜息をついた。
『否定しないんですね』
「ええ、私の可愛い恋人よ」
横で聞いていた優也が顔を赤らめて、もごもごと何かを言った。
『ほかの人に話しませんから安心してください』
「ここだけの話、といって広めるのもなしよ」
『秘密は守る主義です』
「口が軽かったら仕事にならないものね」
『そういうことです。では、勉強頑張ってくださいね』
「あなたは仕事頑張ってね、アルギズ」
『それでは、失礼します』
終始、楽しそうな調子で話すアルギズを思い出いして、カシスは性格って変わるものね、と呟いた。
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助手席に座るアズには屋上の人影が全く見えなかったが、電話の内容から何となく想像がついた。あの距離でも見えるんだ、と校舎がある方向をちらっと見てから、
「よく彼氏だってわかったね」
アズが感心した調子で言うと、アルギズは、いつもの微笑みのまま、
「ブラフだったんですよ」
といった。彼は、うわぁ、という驚きの声を飲み込んで、
「ものの見事に引っかかったわけか」
「距離が近かったので、付き合っていると感じましたが、確証が欲しかったんです」
「君、人の色恋沙汰に興味を持つタイプだったっけ?」
「FSの色恋沙汰には興味があるんですよ」
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