神への転生

和谷幸隆

第1話 神への転生

鈴木裕也は中小企業で営業をして10年。32歳独身。まぁ普通と言える人生だった。

労働時間は若干長いかもしれないが、外回りでさぼる時間もあるし大きな不満は無い。

収入も多いとは言えないが、独身で一人暮らし、誰にも気兼ねなく趣味に興じる程にはある。

特別な人生の目標も結婚願望も無くダラダラと社会人になってあっという間に10年が過ぎていた。


「さっ、今日の営業回りはこれくらいにして午後からはどこで潰そうか・・・」


午前中に最低限の業務を終え、午後からはどこでサボろうと思案していたところ、突然胸が痛みだす。


「グッ、、、!なんだ、、、これ、、、痛っ!、、、」


今までに経験したことが無い痛みに叫びだしたくなるが、

不思議と自分の体の心配よりも、街中で声を出したり倒れることが恥ずかしいという意識が強く働き、

声にも出さないよう必死に近くのベンチまで移動する。


横になって、何も考えられないまま激しい呼吸を整えようとするも視界が暗転していく。



「・・・・どこだ?ここは?夢か?」


裕也は気づくと知らない場所にいた。

というよりも真っ白な何もない空間だった。


「痛みが無くなってる・・・意識のある夢みたいなもんかな。」


夢?の中で考えて、することも無いので目を閉じようとする。


「ここは夢じゃないですよ。」


声がするので目を開けると見知らぬ同年代くらいの男が立っていた。

中肉中背、スーツを着てどこにでもいそうな男が話しかけていた。


「夢じゃないって、夢でしょ。」


「貴方は死んで、今は意識だけの存在です。」


「は?死んだ?そりゃ直前に胸の痛みはあったけど・・・」

「死後の世界って言いたいわけ?俺は死後は無だと思ってたけど。」


「無?消えてなくなるってこと?それもあながち間違ってないかもしれないですね。」


「は?どういうことです?」


「私は今の貴方を意識の存在と言いましたよね。では貴方の存在を証明することはできますか?」


「存在の証明?いや、俺自身存在を認識してるんだけど・・・」

「よくわからないけど、夢じゃなく意識存在だとして俺はどうなるんです?貴方は誰ですか?」


「私は貴方の価値観に合わせると神ですかね。」

「貴方がどうなるかは貴方次第でしょうか。」


「は?神?なんで神様が俺みたいな一般人と?普通に話すことなんてある?」

「いやいやいや、ないない。」


「・・・・・・・・・・・・・」


「はぁ、どうせ夢だしどうしようもないから聞くけど、この後が俺次第ってどういうことです?」


「そうですね。まず繰り返しますが日本人、32歳独身の貴方は死んでます。」

「それでどうでしょう。私の創った世界で生きてみませんか?」


「は?ラノベやアニメの転生か転移ってこと?」

「いやいやいや、仕事世界よりもっと無いでしょ。」


「なぜ無いと思うんですか?死んだ後のことは誰も認識してないですよね?」


「じゃあ、世界で年間何百万人か何千万人死んでるかわからないけど全員転生とか無理でしょ。」

「別世界じゃなくて輪廻転生としても、人間の人口って増え続けて魂の総数だって合わない。」


「なぜ何千万人全員転生が無理なんです?」


「そんな人数が転生したら転生先が破綻するでしょ。」


「1つの転生先だったらそうかもしれませんね。」

「転生先が1億や1兆あるかもしれませんよ。」


(転生先がいくら多くても転生先の世界の死者も転生するなら結局合わなくないか?)

(なんか頭が混乱してきた・・・)


「まぁ、定命の者には分かり難いかもしれませんね。」


「どうでしょう。貴方に理屈は重要ですか?」

「必要ならいくらでも議論してもいいですよ。」


「神様って暇なんだな。さっきの話だと転生する人間なんていくらでもいるのに俺にこんなに時間かけて。」


「貴方と話している私は一人だと思いますか?」


「どういう意味?」


「私は普遍的に存在していますので。どこにでもいてどこにもいない。」

「まぁ分かり易く言うと、今死者に転生の話しを同時に1000万の私がしていて全意識を共有している感じです。」


「すごく神っぽい・・・」


「神ですからねぇ」


「でも神ならそんな確認とかせずに好きに転生とかさせたらいいんじゃないの?」


「それでもいいならそうしますよ?」


「え、ちょっと待って。」


自称神が本物かどうかも分からないし、そもそも死後の世界かどうかも分からない。

でも、もしそれが事実ならできるだけ自分が楽しめる世界に転生したいと誰でも思うだろう。


「ええっと、転生って自分の死後の世界の赤ちゃんってことですか・・・?」

「それともラノベみたいに違う世界の貴族とか?」


裕也は現金なもので言葉使いも丁寧になる。


「どちらでも可能ですよ。」

「完全な指定はできないですがある程度の希望は聞きますよ。」


「だったら、剣と魔法の世界にチート能力を持って身分は高めで転生ってできますか・・・?


「勿論できますよ。」


神はニッコリと笑う。


「じゃあ、剣と魔法、魔物がいる世界で、誰よりも優れたスキルを持って高い身分になるよう転生させましょう。」

「ゲームみたいにステータスやスキルとか分かり易くしておきますね。」


「ありがとうございます!」


(これって現実か?ハーレムつくるもスローライフするも自由?王にもなれるんじゃないか?)


「では転生させますよ。」




裕也は気づくとさっきと同じ真っ白な空間にいた。


「転生、、、してない?夢だった、、、?」


「ステータスオープン!」


神が言っていたのでステータスやスキルが表示されないか試す。


「!」


すると可視化されたウインドウが開き、自身のステータスが確認できる。

LV999 HP99999 MP99999

明らかにカンストされた数字の後に所有スキルが表示される。

剣術、槍術、、、、、火魔法、、、時空魔法、、、収納魔法、鑑定・・・・

膨大なスキルが最大状態で表示されていた。


「うおおおお!最強じゃん!」

「これって俺ツエーや無双し放題じゃね?」


裕也は興奮し様々なスキルや魔法を試していく。



何時間か経っただろうか。真っ白な世界がいつまでも変わらないのだ。

どこかの王族や貴族に転生すると思っていたが何も起こらないのだ。


「どういうことだ・・・?」


「かみさまーーーーー!」


神に呼び掛けるが反応が無い。それでも頼るものは何もないので呼び続ける。

どれくらい時間が経っただろうか。


「何か用ですか?」


先ほどの神の声だけが聞こえてくる。


「神様!なぜすぐにこたえてくれなかったんですか!俺はいつ転生されるんですか!」


裕也は不安や恐怖から神に対して責める口調で問い詰める。


「私は貴方の価値観で神という存在と言いましたが自分を神とは言ってないですよね。」

「神と呼ばれてもですね。それに貴方の問いにすべてこたえる必要が私にありますか?」

「貴方が生きていた時に神という存在と会話ができていた人はほとんどいませんよね?」


「まぁいいでしょう。もうひとつ、貴方は間違いなく転生してますよ?」


「え、転生してるって?さっきと同じ空間ですよね?」


「似た場所ですが違う空間ですね。」

「あなたのいるべき場所ですよ?間違いなく。」


「俺のいるべき場所?」


「見えるようにしてますが確認していませんか?さっきまで色々試してたようですが。」


「何、、を?」


「種族です。」


『種族:転生神』


「てんせい、、、しん、、、、」


「はい。御覧の通り人々が身に着けられるスキルがすべて備わっています。」

「身分も神ですよ神。かなり高いでしょう。」


ニッコリと神は話しをする。


「え、でも、ここで俺は何を、、、」


「この世界に転生する者にスキルを授けたりできますよ。」

「地上を見たり、信託のような形で助言もできます。」


「誰もいないここで、、、?いつまで、、、?」


「え、期限は無いですよ。強いて言うなら転生する人がいなくなればすることはなくなりますかね。」


「はあああああ!?何言ってるの?何もない、誰もいない空間で一生やれ?」

「そんなの奴隷以下の人生じゃねーか!」

「やめだ!やめ!もう一度転生させてくれ!」


「繰り返しますが、貴方の言うことを私が聞かなければならないことはないんですよ。」

「もう私が話すことはありませんので。」

「それでは転生後をお楽しみください。」




それから何年経っただろうか。

始めは地上を眺めて楽しんでいた。

自分がスキルを与えた転生者が魔王を討ち平和が訪れる。

育成SLGのような感覚で人々を俯瞰していた。

だが神に転生はしたが精神は人のままであった裕也の心は次第に蝕まれていった。

一生同じことを繰り返すことに絶望した。


『転生する人がいなくなればすることはなくなる』


この奴隷のような仕事を終わらせるために信託を駆使し世界の王族達や転生者を騙し、

相互不信の種を蒔く。国家間の戦争へ誘導する。

次第に魔物の勢力は強くなり人口は大きく減っていった。


あと何年か何十年かで人がすべて死ぬかと思われたとき、

気づくと裕也の前に人が立っていた。


「誰だ・・・・?」

「ここに転生前の者以外が?」


「忘れたのか?」


訪れた男が自分を忘れたのかと問いかける。


「何?お前と会ったことなどないぞ?」


「屑が。10年前お前にスキルを渡されて、ハズレと言われ神からも国からも捨てられた者だ!」


「そのような者多すぎていちいち覚えていないな。」


「お前に復讐に来た。ハズレと蔑んだものに殺されるんだ!」


「ふう、神の私が雑魚にやられるわけがないだろう・・・」


裕也はあらゆる最上級スキルを持っているので自分は無敵だと思っていた。

だがふと我に返ると自分には武器も鎧も無かった。

そして何より戦った経験が無いのだ。

死を隣に何度も戦い続けた者相手に蹂躙されるのはわかりきった結果だった。

それでも大量のHPと自然回復力のため数時間何度も何度も、

斬られ、突かれ、焼かれ、あらゆる苦痛がその身を襲った。


「ガッ、、、、」

「私は、、、神だ、、、、神は死なない、、、」


「知るか。死ね!」


来訪者は裕也の言葉に耳を貸さず、とどめと剣を胸に突き入れた。


(ほらな、、、神は死なないんだよ。後もう少しで人間を根絶やしにできる・・・)


「神は死んだ。」

「俺を見捨てた他の転生者も国も既に無くなった・・・」


(何を言っているんだ?俺はまだ生きているだろ!)



「おや、貴方がここにいた神を殺したんですか?」


裕也を神にした存在が突然現れ、残っていた男に声をかける。


「誰だ!」


「私は、私はここの神を作った存在です。」


「何だと!お前が元凶なのか!?」


「ここの世界で起きたことなら、さっき貴方が消した者がしたことですが、製造者に責任があるなら私にあるとも言えますね。」

「どう考えるかは貴方の解釈にお任せします。」

「私は貴方と敵対するつもりは無いですよ。貴方が私を攻撃したとしても無駄ですし。」


男は持てる物理、魔法、あらゆる攻撃を試すもまったく効果が無い。


「・・・・そのようだな、、、」


「まぁ分からないことを試してみるのは悪いことではありません。」

「ところで、これからどうするつもりですか?」


「ここの神を殺した後のことは考えてなかった・・・」


(だから何を言っているんだ?俺は死んでないのになぜ無視するんだ?)


「ふむ。殺した後・・・ですか、、、」

「何をもって殺したとするかですが。貴方が戦った神ですが、まだそこにいますよ。」

「いると言っても意識が存在するだけで私以外観測できませんし、何にも干渉できないんですけどね。」


「ここにいるだと?この会話も聞こえているというのか?」


「そうですね。意識があるだけで実体が無いという意味で生きていると言えるかは人間の認識でどうとるかですが。」


「そうか・・・それはある意味死ぬよりも、いや魂の死よりもきつい罰かもしれないな・・・」


「たまに使う人がいますが、魂の死とは詩的な表現ですね。」


「それで、貴方はこれからやることが無いんですよね?」


「人生をやり直したいとは思いませんか?」


ニッコリと笑い提案するのだった。

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