第32話
先の魔物との大戦では、暁の神子だけが不在であった。しかし、戦いの終息後に誕生した暁の神子により、長らく途切れていた精霊たちとの交流が再開され、ルーメン全土の復興が加速したと言われている。
それに加え、暁の神子の誕生は神子の中でも極端に少ないことから、大戦以後、最も神聖視される存在でもあった。
そのため、カーティオ誕生時のメディウムは大いに沸き、次期国王への期待も高まったのは、当然のことだった。
しかし、初夏のある日、カーティオの誕生を祝う国を挙げた催しの際に発表されたのは、カーティオが王位継承権を放棄するということだった。
「案の定、騒いでいるのは貴族の連中だけか」
「だろうな。暮らしていけるなら誰がそこに立とうと多くの民は気にせんよ」
現国王であるリヴェラも承知のこととして、本人の口から告げられたそれに、以外にも平民たちの多くは冷静だ。事実、生活さえ安定しているのならば、国民の多くにとっては、誰が王となったとしても変わりない。王=君主だとしても、悪政を行う者でなければそれでよかった。
まして、カーティオは王でなくとも、神子であることには変わりないのだから。
「それで? 王として何をする? 」
リヴェラの執務補佐官を務めるアデラールは、現アエラスティ公爵でセラスの兄にあたる。
「何も」
「……酷だな。お前にとっても、子供たちにとっても」
二人の王子はまだアカデミーの入学前だ。自分が同じ頃どうしていたかを思い出しても、前王にとって息子が一人という環境にいたリヴェラ自身は、継承権について深く考えてはいなかった。まして、政に関わった記憶などない。
自分が神子か加護を持つ者だったなら変わったのだろうかと考えたこともあるが、そういった存在が何をなすべきとするのかさえ想像がつかなかった。
ただ、これくらいの歳の子供相手ならば、まだ甘やかしてもいいのではなかっただろうか。そう思うと、アデラールの言うことはその通りなのだろう。
「どちら側にもつけないからな。仕方ない……」
カーティオか、フォルテかと問われることはある。だが、そこでどちらかの名前を出してしまえば、それを大義名分としてもう片方は攻撃の対象となってしまう。薄情だと言われようが、今は静観するしかないのだ。
「ただ、息子たちを傷付けるような輩には、遠慮するつもりはない」
その時は、思う存分力を振るおうと、ふっと笑うリヴェラに、アデラールはやれやれと言った体でため息を吐いた。
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