67話:涙(3章最終話)
「ひっく、えっぐ……」
しばらくの間、テテフは泣いていた。
母親と一緒に逃げた「秘密の道」、その出入り口の扉がある
地面に膝をつき、大粒の涙を流しながら、時には嗚咽を交えつつ、燃えるゴミ山を見つめて泣いていた。
この2ヶ月、溜めに溜め込んだ想いを吐き出す様に。
「パパ……ママぁ……うわぁぁぁぁああああ~~~~ん!!」
その号泣をかき消すほどの、爆音!!
終わることなない爆発が、未だに下のゴミ山から幾度も響き続けている。
――“火葬”だ。
ゴミ山の燃焼と共に行われるのは、2ヶ月越しの“火葬”。
様々な想いがテテフの中に駆け巡ったことは想像に難くない。
しかし、どの様な思いが駆け巡ったのかを知ることは、ピエトロを倒すよりも遥かに難しい。
(一体誰が、何の為に爆薬を?)
せめて、テテフがお墓を掘り返すまで待っていて欲しかった――そんな「もしも」の話をしてもしょうがないことは、自分でもわかっている。
起きた事実が全て。
ゴミ山は爆発し、燃焼し、地獄となった。
その地獄を見下ろし、変わらず号泣するテテフ。
彼女の涙を止めることすら今のボクには出来そうもない。
だからと言って一緒に泣いてあげることすら、今のボクには出来ない。
地獄の4000年を経て、誰かの為に泣く涙は枯れた。
だからせめて、今は寄り添おう。
止めどなく溢れ出る涙も、いつか必ず途切れる。
生きていればお腹も減るし、悲しみに
自分の意思で、脚で、テテフが立ち上がらなければならない時が必ず来る。
その時に備えて。
彼女が立ち上がる時、少しでも“支え”となれる様に。
少しでも頼って貰えるように、せめて今は寄り添おう。
もしそれが「必要無い」と言うのであれば、別にそれでも構わない。
無理して頼ってくれる必要など何処にもないし、一人で立ち上がれるならそれに越したことはない。
だけど、選択肢は必要だ。
結果的に選ばれなくとも、「誰かに頼る」という選択肢があった事実が重要だ。
ひとりぼっちじゃないと、彼女がそう思える様に。
小さなテテフの小さな背中に、かつての幼い自分の姿を重ねて。
誰も助けてくれなかった昔の自分へ、自分の手を差し伸べるつもりで。
ボクはただ、彼女の隣に寄り添い続けた。
――――――――
――――
――
―
嗚咽が落ち着いてきたのは、太陽が同じくらいの目線に降りて来た時だった。
感情に従う自暴自棄な時間は終わり、今ならこちらの言葉も彼女に届くだろう。
「ねぇ、テテフって何歳?」
「……9歳」
「そっか、若いね。――で、これからどうするの?」
「………………」
少し待っても答えは返ってこない。
そりゃそうだ。そう簡単に決められる訳が無い。
まだテテフは子供だし、決められないのは致し方のないこと。
だけど、それを恥ずべきことだとでも思ったのか。
テテフが悔しそうに「ギリリ……ッ」と歯を食いしばったので、ボクはその口の端を掴み、下がった口角を無理やり上げる。
「……はにほふふ(何をする)?」
「迷っていいし、決められなくていいんだよ。ボクだって、テテフの年齢の頃は1人でアレコレ決められなかったし、そもそも何かを決めたところで、それを実行する力も無かったからね。でも、それでいいと思うんだ。子供ってそういうモノだし」
言い終わるや否やのタイミング。
彼女がボクの手を弾き、キッと鋭い瞳でこちらを睨む。
「お前、アタシを馬鹿にしてるのか?」
「もっとボクを頼れって、そう言ってるんだよ」
「ッ――」
「テテフは十分頑張ったよ。あんなゴミ山で、2ヶ月も一人で……もう十分頑張ったんだから、今くらいは誰かに頼って休むべきだ。これからどうするかが決まらないなら、せめて決まるまではさ、ボクの目が届く範囲で休んでよ。ピエトロ倒したらお肉食べる約束もまだだし――(って、あらら)」
「……ぐす」
既に枯れたと思っていたのに、彼女の瞳から再び涙が溢れて来た。
どうやらボクの涙腺と違って、テテフの涙腺は随分と底が深いらしい。
ついでに鼻水も垂れて来たけれど、ちり紙とか持ってないので、誤魔化す代わりに頭の獣耳を撫でておく。
(うん、やっぱり手触りが良いな。たまに触りたくなるから、是非ともテテフには組織に居て貰おう)
尻尾の手触りも捨てがたいし、彼女を撫でるのはボクの気分転換に丁度いい。
という自己満足な思惑が、彼女を組織に誘う理由の半分で、残り半分は……これまた色々。
今となっては分別も出来ない色々な感情を抱えたまま、ボクはテテフの高さに視線を合わせる。
「そろそろ戻ろうか。上でクオリアが待ってる」
「……うん」
コクリ。
彼女が頷いたのを確認後に歩き出すも、すぐにグイっと服の裾を引っ張られた。
「何? どうしたの?」
「……おんぶ」
「えぇ? 自分の脚で登れるでしょ。獣人族なんだし」
「頼れって、お前が言った。おんぶしろ」
「う~ん、しょうがないなぁ……」
男に二言は無い、なんて古臭い言葉を使うつもりはないけれど。
それでも先ほど言ったばかりの言葉で返されたら「ぐうの音」も出ないというか、単純にカッコ悪い。
ポリポリと頭をかき、仕方なく黒ヘビを使って彼女背負う。
背中にギュッとしがみつかれ、結果として腹の痛みが蒸し返してきたけれど……でも、何故かちょっと嬉しい。
その嬉しさを原動力に、痛む身体に鞭を打ち、ボクは
この険しい道の先が、いつか必ず己の復讐に繋がると信じて――。
【3章】(完)
――――――――――――――――
*あとがき
これにて【3章:ハッピータウン編】は完結となります。
ここまでお付き合い頂き本当にありがとうございました。
次の【4章】は『
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