66話:地獄絵図
「やっぱりここに居たんだ?」
「ッ!?」
ゴミ山の上にテテフを見つけた。
離れた位置から声を掛けると、彼女が「ビクッ」と震えるが、しかしこちらは振り向かない。
無言のまま、一人黙々とゴミ山を掘り返し続けている。
一体、どれだけの時間そうしていたのだろうか?
彼女の指先には血が滲み、綺麗になっていた耳と尻尾の毛並みも汚れている。
見たところ1メートルも掘り返せていないけれど、このゴミ山を掘り返すのは大人でも一筋縄ではいかない。
こんなやり方では、“目的”までたどり着くのに何日かかることか……。
「ボクも手伝うよ」
「………………」
返事は無かったけど、否定されることもない。
そんなテテフに習って、ボクも積もったゴミを拾い、それを遠くに投げ捨てる。
黒ヘビを使うと身体が痛いので、今のところは左手のみだ。
その作業の繰り返し。
終わりが見えない。
というより、重機でも使わない限り終わることは無いだろう。
それでも黙々と作業を続けていると、後ろからボソリと聞こえた。
「……怪我、もういいのか?」
「うん、ちょっとだけ痛むけど平気だよ。それよりテテフ、クオリアって医者に会ったでしょ? 半分黒い白衣(?)を着た女の人」
「……それが?」
「ボク、あの人と同じ組織なんだよね。これから
「……いや、辞めとく」
「そっか。ちなみにどうして?」
無理強いはしない。
けど、理由くらいは知りたい。
ちょっとだけお節介をかけた相手が、ここに留まる理由を。
この場所を離れたくないとか、それっぽい理由なら何でもいい。
むしろここに留まらず、“
しかし、彼女の答えはどの予想とも違う。
「……アタシに関わった奴は、不幸になる。お前も、もうアタシに関わらない方がいい」
「ん?」
「きっと、アタシは疫病神なんだ」
「んん?」
意味が分からない。
掘り返す作業で疲れ過ぎて、頭がおかしくなったのだろうか?
「神様を名乗るならもっとマシな神様にしたら? 嘘を吐くのはあまり感心しないよ」
「嘘じゃない。パパもママも、アタシを養子にしたせいで死んだ。お前も、アタシに関わったから死にかけた。アタシは疫病神なんヒャッ!?」
尻尾を掴んだら、テテフが短い悲鳴を上げて飛び上がった。
すぐさま「キッ」と丸い瞳で睨みつけて来る。
「な、何すんだ急に!?」
「ボクが思うに、疫病神ってこんなモフモフな尻尾を生やしてないんじゃない? こんな触り心地の良い耳も無いと思うし」
「は、離せ!! 勝手に触るな!!」
「もうちょっとマシな理由だったら離すけど、そんな理由じゃ駄目だね」
会話の最中に黒ヘビを巻きつけ、逃げられない様に捕縛。
尻尾の汚れを左手で
ほんのり温かくて手触りも良いので、このままずっと触っていたいけれど、別にその為に捕縛した訳ではない。
「今のテテフはさ、悲願だった復讐を終えて、充実した満足感に浸って、だけどその後に襲ってきた罪悪感で自分を責めてるのが見え見えだよ。キミの両親が亡くなったのは全部ピエトロのせいだし、ボクが死にかけたのも単にボクが弱かっただけ。テテフはまだ子供なんだし、そんなに自分を責める必要は――」
何の前触れもなく、近くのゴミ山が“爆発”。
爆音と共に多数の破片が四方に飛び散り、その一部がボク達を襲う!!
(ッ!!)
時間的余裕は無い。
黒ヘビの巻き付いたテテフを押し倒し、その上へ覆い被さる。
直後、ボクの頭上を「ヒュンヒュン」と鋭い風切り音が通り過ぎた。
予告無しに襲って来た恐怖の時間。
それを何とかやり過ごし、頭上の風切り音が落ち着いてから、ボクはゆっくりと身体を起こす。
「コレは……」
振り返ると、ゴミ山が大きく
陥没した地面の様に、ゴミ山の中にぽっかりと小さな穴が開いている。
その穴の底に、見覚えのある「2つの小さな墓石」も見えるが……。
「パパッ、ママ!!」
「近づいちゃ駄目だ!! “焼け死ぬ”よ!!」
――燃えていた。
ゴミ山に空いた穴が燃えていたのだ。
その穴へ、愚かにも降りて行こうとするテテフ。
咄嗟に彼女を引き留め、黒ヘビで拘束したところで――再びの「爆音」!!
それも1つではない、複数だ。
先の爆音が引き金となったのか、ゴミ山のアチコチで大きな爆発が起きていた。
(くそ、どうしていきなり爆発を!? まさか、噂にあった“危ない物”って爆薬だったのか!? ……とにかく避難しないと!!)
今、爆発の理由を考えている場合ではない。
このゴミ山の中に安全地帯があるとは思えず、テテフを抱えて
「離せッ、パパとママがあそこに!!」
「駄目だッ、今戻ったら爆発に巻き込まれて死ぬ!!」
泣きながら暴れるテテフをそれでも抑える。
反動で腹の痛みも激しさを増すが、ここで彼女を離すわけにはいかない。
既に、ゴミ山は地獄絵図。
爆発と燃焼、そこに立ち昇る黒い煙。
地獄かと見紛う光景に、ボクの背筋がゾッと凍る。
規模としてはまだまだ地獄の小規模だけれど、この勢いで爆発が続くと何処まで燃え広がるかわからない。
(どうする、ゴミ町の人達にこの事を伝えるべきか? ……いや、そんな余裕は無い)
ギリリと、歯を食いしばる。
何処で爆発が起きるかわからない以上、ゴミ町に向かうだけでも相当危険だ。
この爆発音と煙で危険を察知し、ゴミ町の住人が早めに逃げてくれることを願うしかない。
もしくは――
「パパ……ママ……うわぁぁぁぁああああ~~~~ん!!」
(駄目だ、テテフには頼めない)
彼女は今、錯乱状態にある。
今ここで自由にしたら、両親のお墓に近寄ろうとして、自ら爆炎の中に飛び込みかねない。
その可能性を排除できない限り、彼女を一人で行かせるべきではない。
「うッ、煙が凄いな。臭いも上がって来た……ここも危ないか」
流石に火の手はここまで届かないが、昇って来た煙がボクの鼻を刺激する。
毒性のガスも否定出来ない以上、ここに長居すべきではないだろう。
少女の涙を、絶叫を無視したまま。
自分の命を守る為に、ボクは小さな身体を抱き抱えながら、
――――――――――――――――
*あとがき
次話、2章の最終話です。
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