64話:3日後 ~クオリアと蜘蛛の糸~
~ ドラノア視点 ~
――パチリ。
目が覚めて、最初に視界へ入って来たのは、半分が崩れた開放感のある天井。
周囲はこれまた半壊の壁があり、その向こう側には廃墟と化した町並みが見える。
(ここは……『ハッピータウン』の建物内か? どうしてボクはここに……あぁそうだ、ピエトロと戦ったんだ)
テテフと一緒に「とどめ」を刺して、そこで気を失ったのは覚えている。
あのまま墜落して死亡する流れになっていないのは、彼女がボクを運んでくれたおかげだろう。
(……テテフは何処だ?)
確かめる為に身体を起こそうとして――
「痛ッ!?」
腹部に激痛が走り、堪らず横たわる。
すると、そんなボクの短い悲鳴に“反応”があった。
「起きたかドラ坊、私が誰かわかるか?」
「え? あ、えっと……『クオリア』?」
「ふむ、とりあえず頭は大丈夫みたいだな。全く、3日もグースカ眠りやがって」
頭の方から覗き込んで来たのは、右半分が黒い白衣(?)を纏った女性。
彼女は『秘密結社:
実年齢は知らないけれど、見た目的には20代の前半くらいだろうか?、
一応は「医者」ということで、蜂蜜となった『家出少女:パルフェ』を託した人物でもあるが、
ちなみに「ドラ坊」という呼び名は何度か訂正を求めたけれど、構わず使い続ける為にボクも諦めた次第となる。
「クオリア、何で『ハッピータウン』にいるの?」
「グラハムの指示だ。お前を『Trash World (ゴミ世界)』に向かわせた後、ページの所有者が“ピエトロらしい”って情報が入ってな。もし本当なら今のお前じゃ負ける可能性もあると、助っ人として私を寄越したのさ」
「そう、だったんた……。ピエトロってそんなに有名人だったの?」
「一部界隈では『
「うん。まぁボク一人の力じゃないけどね」
勝ちこそしたものの、純粋な実力ではピエトロの方が優っていた感じは否めない。
テテフの助力が無ければ今頃死んでいただろうし、死なずとも腹に穴は開いた。
その穴を黒ヘビで――『バグ』で塞いだのは、正直言って“ボクの意思ではない”。
血小板が傷口を塞ぐように、半ば自動的にお腹の穴をバグが塞いだおかげで一命を取り留めることが出来たのだ。
今現在、そのお腹が包帯でグルグル巻きなのは、クオリアによる治療の成果か。
じんわりと赤く染まっているものの、見たところ出血は止まっている。
「
「……テテフに会ったの?」
「あぁ。ここに来る途中で空を飛んでる奴がいたから、捕まえて話を聞いてみたら『医者を探してる』って言ってな。それでドラ坊の話を聞いて駆け付けたって訳よ。マジで死にかけだったから、
「………………」
クオリア。
一応は組織の「医者」ってことになってるけど、ボクの中では「職業:マッドサイエンティスト」になっている。
とは言え、それでも彼女が助けてくれたのは事実だし、感謝しない訳にもいかないだろう。
「とりあえず助けてくれてありがと。それで、テテフは今何処に?」
「さぁな、昨日から姿を見てない。食い物でも探しに行ったんじゃねーか?」
言いつつ、クオリアがボクの瞼を開き、細いライトを当てる。
その後も胸に何か当てたり、医者がやってそうな聴診っぽい振る舞いが進む。
その間、特にやることもないボクは町の状況を彼女から聞いた。
ここから見える「廃墟」の光景で大まかな予想はついていたけれど、やはり現実は厳しい。
クオリア曰く――。
「建物の半分は全壊、残りも半壊ってところだな。既に半分以上の人間が『ハッピータウン』を捨てて出て行ったし、残った人間もいずれ出て行かざるを得ないだろうな。こんな山の上に作られた町、物流が止まれば生活が立ちいかなくなる」
「……そっか」
「おいおい、何を落ち込んでるんだ? ドラ坊がいなきゃ大半の奴らは街を出る前に死んでたんだ。ピエトロ相手に十分よくやったよ」
「……だといいけどね」
それでも、“こうなる前”に奴を倒せれば――そう思わずにはいられない。
まだまだ自分が「弱い存在」なのだと実感せずにはいられない。
(強くならなきゃ。その為に『秘密結社:
現状では、『
故郷『スエズ村』壊滅した『暴食のグラトニー』へ辿り着く前に、恐らくボクは死んでしまうだろう。
黒ヘビも、地獄の熱も、ナイフの扱いも、まだまだ鍛錬が必要だ。
「――よし、一通り大丈夫そうだな」
ボクの背中をバシッと叩き、クオリアが聴診に使った道具を鞄に片付ける。
「まだ治療は必要だが、ここにはマシな設備が無い。一旦
「う~ん、我慢すれば動けないことは無いけど……ちょっと痛みが酷いかな。ここから
「ある訳ねーだろ。一旦『セーフティネット』のある町まで行かないと駄目だ」
「だよねぇ」
管理者の目が届かない『
闇の組織が共同運営する施設であり、そこまで行かないことには『Darkness World (暗黒世界)』にある
(しょうがない。我慢して歩くしかないか)
そう諦めて上半身を起こしたところで、クオリアの胸に“
途端、彼女の下半身が“蜘蛛の身体”となり、腹の先にある「糸いぼ」と呼ばれる部分から純白の糸が放出。
あっという間にボクの身体がグルグル巻きにされ、大きな背中にふわりと乗った。
(“
上半身は普通の人だが、下半身は完全に蜘蛛。
それも人間サイズの蜘蛛なので、言い方は悪いが正直「怪物感」が凄い。
ボクの場合、彼女との「顔合わせ」がこの姿だったので、一度目ほどの衝撃は無いものの、それでもやっぱり凄い変化だ
これまでも“
「怪我が痛くて歩けないと、そう泣き叫ぶドラ坊の為に私が“
「え、お金取るの?」
「当たり前だろ。実験には金がかかるんだ。腹の治療費もタダじゃねーから覚悟しとけよ?」
「えぇ……」
これで
『秘密結社:
それよりも彼女が何の躊躇いも無く歩き出したことの方が問題で、ボクは堪らず声を掛ける。
「待ってよ、テテフを置いてくの?」
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