【3章:ハッピータウン編(全32話) ~少年は『T』の世界へ渡り、獣人族の幼女と出逢い、復讐代行に命を懸ける~】

35話:実戦を通して決めろ

*まえがき

この【3章】で服装の変わった「ダークエルフの少女:ロロ」と、後々出てくる「獣人族の少女:テテフ」の挿絵(?)を描いています↓。

ネタバレ要素もありますので、それでも大丈夫な方は本編を読む前にご覧下さい。

https://kakuyomu.jp/users/nextkami/news/16817330664858402340


以下、本編です。

――――――――――――――――


 ~ 『蜘蛛のスパイダーズハウス』のロビーにて ~


「ったく、遅ぇなあのジジイ。“次の動き”を説明するから集まれって、そう言ったのは何処のどいつだよ?」


 ローテーブルを挟み、反対側のソファーに寝転がる組織の先輩(自称):イヴァン。

 大口を開けて「ふぁああ~~」と欠伸をかました後、ボクを見てクイッと顎を動かす。


「おい後輩、ジジイを呼んで来い」


「人に命令する前に、イヴァンが自分で呼んで来れば?」


「ケッ、可愛くない後輩だな。あと、イヴァン“さん”だって何度言えばわかるんだよ? そもそもテメェは新入りのくせに生意気で――」


 そんな感じで小言を言い出したイヴァンは一旦無視して。


 ボクがここ『秘密結社:朝霧あさぎり』に来たのは、既に2日前の話。

 その日の夜にお風呂場で気絶したボクは、様子を見に来たダークエルフの少女:ロロに救助された、というのを後から聞いた。

 下手をすれば溺死もあり得た為、彼女にはただ感謝あるのみだけど……そんな彼女が最近の“悩みの種”でもある。



「お飲み物をお持ちしました」



 噂をすれば、じゃないけれど。

 1階奥のキッチンから、年季の入ったワゴン車を押す「給仕服姿のロロ」が現れた。

 3つのコップをワゴン車に乗せ、振動を感じるこのロビーでも中身を溢さずに運んで来た訳だが……。


御主人様マスター、ホットのハニーミルクです。それと、イヴァンさんにはジンジャーエールを」


「おう、すまんな」と軽い口調で受け取るイヴァン。

 それに対し、ボクは「あー、どうも」と礼を言いつつも言葉は何処か歯切れが悪い。


御主人様マスター、どうしたんです? 何かお気に召しませんでしたか?」


「いや、そういう訳じゃないけどさ……御主人様マスターって呼ぶの辞めてくれない?」

 問題はコレ、ボクの“呼称”だ。

「昨日も言ったけど、ボクは自分の復讐を果たす為にここにいるだけだから。ごっこ遊びなら他でやって貰えると助かるんだよね」


「……ぐすんッ」


「あ~あ~、後輩が女を泣かせた~」


 ロロが涙を浮かべたかと思えば、先輩:イヴァンが安っぽい茶々を入れる。

 子供じゃないんだから、という呆れた視線をイヴァンに向けると、彼は意外にも真面目な視線と「小声」を返してくる。


「人生経験の浅い後輩の為に言っておくが、ダークエルフを泣かせるのは得策じゃねーぞ? こいつ等は“情が深い”ことで有名な種族だからな」


「それが何だって言うのさ?」


「わからねーのか? 情が深いって言えば聞こえは良いが、裏を返せば“嫉妬深い”って話だ。良くも悪くも、お前は奴隷として売られる寸前でこの女を助けた。そんな男に自分に存在を否定されたら、この女が一体何を仕出かすかわかったもんじゃねーぞ?」


「そんな大袈裟な……」


「先輩の忠告は素直に聞き入れておくもんだぜ? ま、信じるも信じないもテメェの自由だけどな」


 所詮は「対岸の火事」と言わんばかりに、最後は「クククッ」と笑うイヴァン。

 出来れば彼の創作話であることを願うものの、状況的にはフォローしておくのが最適解か。


「ロロ、さっきのは冗談だからね。好きに呼んでくれて構わないよ」


「……本当ですか?」


「勿論」


 しっかり頷き、とりあえずは彼女の涙を消すことに成功。

 コレは中々に先が思いやられるなと思いつつ、話題を変える為にも“あの少女”の話を持ち出す。


「それで、パルフェはまだ蜂蜜状態のままだっけ?」


「はい。“クオリア先生”に診て頂きましたが、調べるのに色々と時間が掛かるみたいです。しばらくの間、先生に預けることになりました」


「そっか。まぁこればっかりは仕方ないね」


「症例が珍し過ぎて、医者の自分にもさっぱりだと仰ってました。あと、『面白い実験体が来てくれてワクワクする』とも」


「実験体って……」


 『秘密結社:朝霧あさぎり』の医者:クオリア:。

 顔合わせは既に昨日済ませていて、ボクの印象では「医者」というよりも「科学者」、それもマッドサイエンティストに近い印象だった。

 蜂蜜になってしまったパルフェの安否は気になるけれど、まぁボクに出来ることも無いし、今は彼女に任せる他ない。


 そして、ここでようやく主導権を握る人物が登場。



「ホッホッホッ。待たせたな諸君」



 2階からフヨフヨと降りて来た“真っ白い火の玉”。

 よく見ると人の顔にも見えるアレが、何を隠そう『秘密結社:朝霧あさぎり』の長:グラハムだ。

 外出の際は「白髭老人」の身体に入るが、隠れ家アジト:『蜘蛛の家スパイダーズハウス』の中では基本的にこの姿らしい。


「さて、次の動きを話す前に、1つハッキリさせておく必要がある。イヴァンとドラノア、お主等二人はどちらが強い?」


「ボク」「俺」


 答えたのは同時。

 すぐさまバチバチと視線が飛び交う。


「おい、調子乗ってんじゃねーぞ後輩。俺の方が強いに決まってんだろ」


「別に決まってないし。何を根拠に――」



「辞めんか」



 ピタリと、グラハムが静かに一喝。

 無駄な争いをするな、みたいな説教を喰らうのかと思いきや、実際のところは“真逆”だった。


「お主等二人の実力によって“次の仕事”を決める。どちらが上でどちらが下か、それは実戦を通して決めろ」


「実践? ってことは……ボクがイヴァンと戦うの?」


「あぁ。これより『格付け戦』を執り行う」



 ■



 ~ 『蜘蛛の家スパイダーズハウス』の外 ~


 『Darkness World (暗黒世界)』の荒野にて、ボクは10メートル程の間隔をあけて先輩(自称):イヴァンと対峙していた。

 中間には火の玉姿のグラハムがフヨフヨと浮いており、これから行う『格付け戦』の説明を始める。


「ルールは単純。相手に『参った』と言わせれば勝ち。死ぬ前に負けを認めることをお勧めする」


「――だってよ後輩、今の内に降参してもいいんだぜ?」


 ボクに勝って当たり前、と言わんばかりなイヴァンの口調。

 確かに奴隷オークション会場で見せた彼の“魂乃炎アトリビュート”は強かったし、「底」を見せていないその実力は未知数。

 ただ者ではないことは確実だけど、ここまで言われて大人しく引き下がるボクでもない。


「降参するのはイヴァンの方だよ。今の内に負けた時の言い訳を考えておいてね」


「ケッ、マジで可愛くねぇ後輩だな。俺が勝ったら何でも言うことを聞いてもらうからな?」


「いいよ。じゃあボクが勝ったら二度と先輩面しないでね」


「望むところだ。ついでに俺は“一歩も動かず”テメェに勝ってやるよ。ここまでハンデをやるんだから、俺が勝ったら“さん”付けも強制な」


「何それ、今から負けた時の言い訳作り?」


「逆だよ逆。糞生意気なテメェに勝った時の、勝利の余韻に浸る追加材料を作ってんのさ」


 売り言葉に買い言葉。

 見えない火花がバチバチと飛び交う状況に、少し離れた位置から「け、喧嘩は良くないですよ~」と蚊の鳴くような声が聞こえてくる。


 声の主は、給仕服に身を包むダークエルフ族の少女:ロロ。

 玄関まで続く階段でオロオロと狼狽えているが、今更辞められる勝負でもない。


「両者、準備はよいな?」


 グラハムの確認に「コクリ」と頷き――


「では、始め!!」


 かくして、『秘密結社:朝霧あさぎり』の上下関係を決める、重要な一戦が幕を開けた。

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