34話:どうせ一度は死んだ命(2章最終話)

 真っ白な火の玉:魂の姿となったグラハムは告げた。

 『いにしえの蛇神:ヨルムンガンド』の討伐し、“奪われた全てを取り戻す”ことが己の目的だと。


 “奪われた全て”――それが「ヨルムンガンドに喰われた身体」を差しているだろうことはわかる。

 ただ、流石にポカンとした顔を返す他ない。


「『ヨルムンガンド』って倒せるの? よくわかんないけど神様でしょ?」


「その神をも殺す秘宝が『Z World (終焉世界)』に眠っておる。それを手に入れることさえ出来れば、相手が神であろうと討伐は可能じゃ」


「神をも殺す秘宝? それに『Z World (終焉の世界)』って……これまた随分と胡散臭い話になってきたね」


 全26世界から構成される新世界『AtoAアトア』。

 『A』~『Z』の頭文字で始まる世界の中で、唯一“未発見”の世界が『Z World (終焉の世界)』だ。


 未発見――つまりは誰も行ったことが無い世界に「神をも殺す秘宝」が眠っていると言われても、「なるほど、納得」とはならない。

 話の信憑性もそうだし、百歩譲ってその話が本当だとしても、ボクがここに呼ばれた理由が謎。


「グラハムがやりたいことは一応わかったけどさ、どうしてボクを仲間にするの? 『Z World (終焉の世界)』に行きたいなら勝手に探せばいいじゃん」


「そういう訳にもいかねーんだなコレが」


 ここで組織の先輩:イヴァンが口を開く。

 彼の背後には図形の描かれたボードがあり、26個ある“各世界の名前”が円形に並んで記されていた。


 一番上にはボクの故郷である「スエズ村」や「メリーフィールド孤児院」、そして『世界管理学園:ウィンストン校』のあった『Adam World (黎明世界)』の名前。

 そこから右回りで『Beast World (猛獣世界)』、『Chaos World (混沌世界)』と続き、最後が『Z World (終焉世界)』となる。


「テメェも知ってるだろうが、新世界『AtoAアトア』の歴史は“発見の歴史”と言ってもいい。大昔、とある預言者が『この世には26の世界がある』と告げてから、人々は次々と新世界を発見した。たった1つの『Adam World (黎明世界)』から始まった新世界『AtoAアトア』は、今や両手で数え切れない数の世界を有している」


「うん、その話は知ってるよ。学園の授業でも習ったし。だけど予言された26世界の中で、唯一見つかってない世界が『Z World (終焉世界)』でしょ?」


「あぁ。そこに『ヨルムンガンド』を討伐する鍵――神をも殺す秘宝が眠っている。つまり『秘密結社:朝霧あさぎり』の第一目標は、『Z World (終焉の世界)』への到達。そしてその為には、“バグ使い”が必要だと言われてる」


「何それ、誰がそんなこと言ってるの?」


「『クリストファー・J・マゼラン』。700年前に実在した伝説の探検家だ」


「マゼラン……」


 その名は学園の授業で耳にしたことがある。

 というか、何なら学園に通う前から知っていた。

 新世界『AtoAアトア』における歴史上の人物で、一番有名だと言っても過言ではないだろう。


「確か、たった一人で18個も世界を見つけた人だよね?」


「あぁ、新世界『AtoAアトア』の大半はマゼランが発見した世界だ。そしてそんな男が、最後に残した日誌の中に書いてあったのさ。『Z World (終焉の世界)』へ渡る鍵は“バグ使い”だってな」


「何それ? そんな話、今まで一度も聞いたこと無いけど」


「当たり前だ。日誌は『世界管理局』が厳重に保管してるからな。元々は存在自体も隠されていた代物だが、随分と前にその情報が洩れて裏社会が騒然となった事件があった。今や『五芒星ビッグファイブ』をはじめとして、様々な闇組織がバグ使いの確保に動いてるのさ」


「なるほど、“だから”か」


 にわかには信じがたい話だが、しかしおかげで合点がいったこともある。

 『暗黒街:ナイカポネ』でパルフェを攫った人攫いが、「バグ使いは高く売れる」と言っていた理由がコレだ。

 『闇の遊園地ベックスハイランド』でも、ボクがバグ使いだと知れた時点で皆がざわついていた。


 あの時は何が何やらさっぱりだったけど、そういった事情があったらしい。

 神すら殺せる力があるなら誰だって手に入れたいだろうし、それを差し置いても“世界へ一番乗り”は資源の独占を意味している。

 そりゃあ『五芒星ビッグファイブ』も狙うに決まっているだろう。


「ホッホッホッ、理解出来たか?」


 ここで再び、イヴァンからグラハムに会話の主導権が渡る。

 表情の見え辛い魂の姿で、それでもボクを見ているのがわかった。


「先にお主に言うておくが、バグ使いが『Z World (終焉世界)』とどう関わるのか、現状は全くわかっておらん。そもそも“バグ自体”が未だに不明瞭な点が多い存在じゃからな。――しかし、重要な駒だとわかっておる以上、そう易々と他の組織に取られてはかなわん。お主にはワシの組織に入って貰う」


「その話、ボクに拒否権は?」


「無い。首輪もつけずに他の組織に奪われるくらいなら、ワシが地獄に送り返した方がマシじゃ」


「………………」


 暴論、というか極論が過ぎる。

 むしろ今の脅しで逃げ出したくなったレベルだけど、かと言って逃げ出したところで行く当ても無い。


(『秘密結社:朝霧あさぎり』……ここでグラハムの仲間になるのが、ボクにとっての最善手なのか?)


 今、改めて考える。

 自分の今後を、これからの生き方を。


 既に『ジャック・A・バルバドス』への復讐は果たした。

 ボクを12年間苦しめた男への復讐を遂げた今、ボクは何を目標に生きればいい?

 今、ボクに必要なモノは一体何だ?



 決まっている、それは――。



 ■



 ~ その日の夜 ~


 隠れ家アジトのお風呂場にて。

 組織の長:グラハムとの会話を終えたボクは、熱々のシャワーを浴びつつ、脱獄から今日に至るまでの疲れを洗い流す。


(痛ッ~~、傷に染みるなぁ)


 ここに来るまで幾つかの切り傷を負った。

 比較的軽傷で済んでいるけど、お湯に濡れると痛みがぶり返して来るのは避けられない。


 ギュッと唇を食いしばり。

 傷に染みる痛みへ徐々に慣れ、思考を回す余裕が出来たところで、やはり考えるのは「先程の話」。


 『今、ボクに必要なモノは一体何だ?』



 決まっている――それは“強さ”だ。



 『ジャック・A・バルバドス』への復讐は終わったけれど、それで全てが終わった訳ではない。

 ボクのおじいちゃんを、そして故郷:スエズ村の皆を喰い殺した『五芒星ビッグファイブ』:暴食のグラトニーが残っている。


 今思い出しても圧倒的な強さだった。

 現状のボクでは逆立ちしても勝てないし、想像の上でも勝てる未来が見えない。

 それでも、奴に勝てる強さを手に入れなければ、ボクの復讐が本当の意味で終わることはないだろう。


 だからボクは、先ほどグラハムの部屋でこう答えた。


 ――――――――

 ――――

 ――

 ―


『わかったよ。地獄に返されるのは困るし『秘密結社:朝霧あさぎり』に入るよ。けど、1つだけ質問』


『何じゃ?』


『その“神をも殺す秘宝”があれば、『五芒星ビッグファイブ』にも勝てる?』


『お主如きが『五芒星ビッグファイブ』に勝つつもりか? 馬鹿を言うのも休み休みに……』


 ここでグラハムは言葉を止める。

 ボクの表情を見て本気だと思ったのか、しばらくしてから改めて言葉を紡いだ。


『――物事には順序がある。『五芒星ビッグファイブ』も『Z World (終焉世界)』を目指しておる以上、奴等とぶつかるのは“神をも殺す秘宝”を手に入れる前。あの化け物共を相手に勝つつもりなら、特別な道具など無くとも渡り合えるくらいの実力は必須じゃ』


『それはつまり、グラハムには『五芒星ビッグファイブ』と渡り合える実力があるってこと?』


『ホッホッホッ。それを見極めるのもお主の仕事。見極められる程度の実力があれば、の話じゃがな』


 これは挑発か、もしくはボクへの期待なのか。

 いまいち表情の判別し辛い魂の姿で、それでもグラハムが「ニヤリ」と笑っているのが見えた。



 ―

 ――

 ――――

 ―――――――



 キュッと、シャワーの回しを止めて。

 グラハムとの話を振り返ったボクは、広めの湯船に浸かりつつ右肩から静かに黒ヘビを出す。


「ねぇ、バグって何なの? キミは一体何者? ヨルムンガンドとの関係は?」


 黒ヘビの顔をこちらに向けて尋ねてみても、答えは無い。

 一人で人形遊びをしている様な、そんな虚無感が押し寄せてくるだけ。


(はぁ~、わからないことばかりでウンザリだよ。……でも、無理だと思っていた『ジャック』への復讐は果たせた。死力を尽くせば、暴食のグラトニーにだって勝てる筈だ)


 奴に勝つ為なら、必要なことは何でもやる。

 土下座でも何でも、血の滲む様な鍛錬だって惜しまない。


 どうせ一度は死んだ命。

 14人の命を奪い、その屍の上に居座るけがれた命だ。


 今更人並みの人生を送ろうだなんて思わない。

 今更人並みの幸せを望むこともない。


 自己満足の為に偽りの正義を語り、目の前の悪を滅するだけ。

 その果てに暴食のグラトニーへと辿り着き、復讐を果たせれば本望。


 それ以外は望まない。

 復讐を遂げること以外、ボクはもう、何も――



 ぐらりッ。



(あれ、意識が……)


 急激な眠気に襲われ、抵抗も出来ない。

 ボクの身体と意識は、呆気なく湯船の中へと落ちていった。


 ――――――――――――――――

*あとがき

 これにて【2章:『闇の遊園地ベックスハイランド』編】は完結となります。

 次の【3章:ハッピータウン編】から、闇の世界での成り上がり物語が本格始動   & 敵も一筋縄ではいかない強力な相手となってくるので、引き続き主人公の応援を宜しくお願い致します。


「更新頑張れ」と思って頂いたら、作品の「フォロー」や「☆☆☆評価」もよろしくお願いします。1つでも「フォロー」や「☆」が増えると大変励みになりますので。

また、お時間ある方は筆者別作品「🍓ロリ巨乳の幼馴染み(ハーレム+百合*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)」も是非。


↓↓黒ヘビの『☆☆☆』評価はこちら(レビューを頂けたら尚更嬉しいです)↓↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330653405525509#reviews

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る