【2章:『闇の遊園地《ベックスハイランド》』編(全14話) ~少年は宿敵と対峙し、奴隷オークションをぶち壊して、『秘密結社』の仲間となる~】】

21話:五芒星《ビッグファイブ》

*まえがき

この【2章】で登場するヒロインと、組織の仲間二人の挿絵を描いています↓。

ネタバレ要素もありますので、それでも大丈夫な方は本編を読む前にご覧下さい。

https://kakuyomu.jp/users/nextkami/news/16817330666648605627


以下、本編です。

――――――――――――――――


 誰かが言った。

 赤子に罪は無い、と。


 だが、その赤子は産まれながらに罪を背負った。

 否、罪を背負いながら産まれたのだ。


 母の子宮を内側から割き、肉と血にまみれて赤子はこの世に生を受けた。

 産声は、声高らかな笑い声。

 余程美味かったのだろう。

 母の全てを余さず喰らって、赤子は胸に炎を灯した。


 至って普通の人間から産まれた、極めて特異な異形の赤子。

 後に『暴食のグラトニー』と呼ばれる、大罪を背負った悪童誕生の瞬間だった。



 それから、数十年の時を経て――。



 ■■■(以下、ドラノア視点)■■■



 現在、ボクは『闇の遊園地ベックスハイランド』を目指して線路を歩いている。

 黒ヘビの右腕で「壺」を抱え、この中には家出少女:パルフェが入っているが、これは冗談でも何でもない。

 彼女も把握していなかった“魂乃炎アトリビュート”の効力により「蜂蜜の姿」となった結果だ。


 更に特筆すべきは、額から角を生やした鬼族の少女:鬼姫おにひめ

 さも当然と隣を歩く彼女に、ボクは懐疑的な視線を向ける。


「何でここに鬼姫がいるの? ボクが受け取らなかった報酬を届けに来た、って感じでもないよね」


「なに、たまたま私も『闇の遊園地ベックスハイラント』に用事があっただけさ」


「でも、ボク等が乗っていた5号車には居なかったよね?」


「私は1号車で寝ていたからね。だけど爆発音の後に5号車が切り離されるのが見えたから、何事かと思って様子を見に来たって訳。いやぁ~、良い物を見せて貰ったよ。実に興味深い“復讐劇”だった」


 拍手三回パチパチパチと、明らかに心の籠っていない拍手を奏でる鬼姫。

 それからおもむろに、彼女はボクが抱える壺の中を覗き込む。


「――それにしても、まさか天国の姫様ひめさまが蜂蜜になるとはね。撃たれた時は終わったかと思ったよ」


「えへへ、私もあの時は死んだと思ったよ。生きててよかったぁ~」


 壺の中から響く呑気な声は、蜂蜜状態のパルフェから発せられたモノ。

 どうやら鬼姫は彼女のことも把握しているらしく、益々以って警戒度を上げざるを得ない。


「言っておくけどパルフェは渡さないよ。これでも一応は用心棒として雇われているからね」


「ほう? いくらで雇われたのか興味あるね。どうだい姫様、ドラノア君よりも私がちょっとだけ安く雇われてあげてもいいよ? 私の方がドラノア君よりも強いし」


「えっ、そうなの?」


 パルフェが発したそれとなく興味あり気な声。

 同性で強い用心棒なら彼女もボクより安心だろうが、しかしながらこの話をスルー出来る道理も無い。


「パルフェ、信じちゃ駄目だよ。鬼姫よりもボクの方が強いんだから」


「おいおいドラノア君、嘘を吐いちゃ駄目じゃないか。私の方が強いに決まっているだろう」


「いいや、ボクの方が強いね」


「いやいや、絶対に私が上だ」


 視線が交錯バチバチバチッ

 互いの視線が火花を生むが、ここで不毛な言い争い繰り広げても仕方がない。

 仕方なくボクの方から視線を逸らすと、鬼姫が「ふふんッ」と得意げに鼻を鳴らしてこの話題は終わった。



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 しばらく無言で歩き続け、1時間近く経っただろうか?

 前方に“街の明かり”が見えて来たところで、鬼姫が久方ぶりに口を開く。


「今更だけど、ドラノア君が“バグ使い”だったのは私も予想していなかった。様子を見に来て正解だったよ」


「バグ使い……」

 人攫いの親玉:バッチャーもそんなことを言っていたか。

「鬼姫は、バグが何なのか知ってるの?」


「ふむ、これまた難しい質問だね。バグが何なのか、それを明確に答えられる人間がこの新世界『AtoA』にいるかどうかも微妙なところだよ。バグの存在は未だに謎が多くて、『世界管理局』も解明出来ていないと聞く。ただし、明確にわかっていることなら1つあるよ」


「それは?」


「『五芒星ビッグファイブ』はバグ使いを欲している」


「ッ――」


 “『五芒星ビッグファイブ』”。

 その名を聞けば泣く子も黙る、『AtoA』の裏社会を牛耳る5人の大物。

 5人それぞれが巨大な闇組織を有しており、この新世界『AtoA』の“表の支配者”が『世界管理局』なら、“裏の支配者”は『五芒星ビッグファイブ』と言っても過言ではない。


 何を隠そう、鬼姫が所属する『闇砂漠商会やみさばくしょうかい』も『五芒星ビッグファイブ』の1人が有する闇組織な訳だが……。


「一応聞いておくけど、『闇砂漠商会』にボクを売り飛ばすつもりじゃないよね?」


「さぁどうだろうね。ドラノア君が『闇砂漠商会』に興味あるなら話を通してあげてもいいけど」


「余計なお世話だよ。ボク、『五芒星ビッグファイブ』嫌いだし」


「おやおや、天下の『五芒星ビッグファイブ』に盾突く気かい? 命を早めるよ」


「それならそこまでの命ってだけさ。ボクは絶対に『五芒星ビッグファイブ』には屈しないから」


「ハハッ、強がるだけなら誰でも出来るよ。まぁせいぜい頑張ることだね」


 ボクの返しを鼻で笑う鬼姫。

 彼女とは馬が合わないなと思いつつ、壺の中が随分と静かなので覗いてみると、蜂蜜状態のパルフェがスヤスヤと静かな寝息を立てていた。

 この家出少女、ボクが思っていたよりも神経が図太いのかも知れない。


「それで、『五芒星ビッグファイブ』がバグ使いを欲する理由は?」


「知りたいかい? 『闇砂漠商会』に入るなら教えてあげてもいいよ」


「それは流石に――」



 轟音!!



「「ッ!?」」


 会話を中断させるには十分過ぎる音で、ボクと鬼姫の緊張感が一気に増す。

 聞こえて来たのはちょうど向かっていた街の方からだが、爆発音とは違う何かが崩れる様な音だった。

 ボクは鬼姫に視線を移す。


「あの街って『闇の遊園地ベックスハイランド』じゃないよね?」


「あぁ、途中駅の1つ『暗黒街:ボッティ』だよ。そこまで大きな街ではなかった筈だが……さて、何事かな」


 既に通り過ぎた街ならともかく、これから通る予定の街なので無視する訳にもいかない。

 すぐさま歩を早めて街へと入ると、人々が悲鳴を上げながら逃げ惑う姿があった。


「おじさん、何があったの?」


「化け物が出たッ、あんなのに襲われたらこの街は終わりだ!!」


 走って来た男性に声を掛けると、返って来たのは酷く慌てた様子の声。

 そのまま彼は立ち止まることなく、他の人達と共に街を出てゆく。

 皆が慌てているので、誰もボクの右腕(黒ヘビ)を気にしないのは面倒が無くていいけど、男性の答えにはボクも鬼姫も参った。


「化け物だとさ。ドラノア君、どうする?」


「出来れば関わりたくなかったけど……既にここまで来ちゃったからね。ボクが倒すよ」


「ハハッ、随分と心強い台詞だ。しかし、私はお勧めしないかな。彼の言った“化け物”って、多分アレのことだろう?」


 言って、鬼姫が親指で示した先。

 そこには倒壊した建物があり、その瓦礫の山の上に、鬼姫の言葉に嘘偽りの無い“化け物”の姿があった。



 それも「むしゃむしゃ」と“人間を喰らっている人間”の姿が。



「ッ――」


 ゾッとする。

 人間は人間でも、明らかに“人間離れした化け物”だ。

 身長は優に5メートルを越え、異様に発達した頭だけで身体の3分の1程を占めている。


 見る者全てに、強制的に畏怖を覚えさせる圧倒的な存在感。

 アレを退治することを「お勧めしない」と言った鬼姫が、珍しくその額に一筋の汗を垂らす。


「……全く、どうしてこんな場所に奴がいるんだ? 『五芒星ビッグファイブ』の一人:“暴食のグラトニー”じゃないか。今の我々が手を出していい相手では――ちょッ、ドラノア君!?」


 そのグラトニーとやらに向かって、ボクは壺を置いて駆け出していた。

 後ろから「辞めろ!!」と鬼姫の叫び声が聞こえるも、それに耳を傾けることは出来ない。


 何故なら奴は――ボクの故郷を壊滅させ、“祖父じいちゃんを喰らった張本人”なのだから。

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