貴族 【女装潜入調査】

@0000_nishiki

第1話

『という事よ…』

『だから私達二人で行ってこようと思うの、小さい子達をよろしくお願いするわね』


『『は?!』』


『お嬢様……それは流石に心配なのですが。本当にお二人で大丈夫でしょうか…?私がお二人の執事として着いて行くというのも駄目なのですか?』


『まず、女性だけというのが怪しいと思います。僕が従業員側から潜入しますよ』


『いや普通に行くって言う考えを辞めた方が良いだろ……』


『わしは"おとこ"じゃないから行けるのぅ!着いてってもいーんだじぇ?!』


『貴方は少し黙っててください。外へ放り出しますよ』


━━━━━━━━━━━━━━━


豪華客船の事件から数日後、ベネット家の元にまた一通の招待状が届いた。


"ご婦人限定 パーティへのご招待_

本会場では"規律の乱れ","安全の為"に紳士の皆様のご入場をお断りしています"


そう、手紙には記されていた。

普通の人から見ると何の変哲も、違和感も無い招待状だが、ベネット家にもなる上級貴族の周りではこのパーティに関する恐ろしい噂が広がっていた。


『女だけしか行けないパーティに行った娘が帰ってこなくなった』


『パーティに行った妻と連絡が取れない』


『そのパーティ会場も、主催者すら見つけることが出来ない』


_そんな、奇妙な噂が。

噂が本当かも、この招待されたパーティがその噂になっているパーティなのかも分からないが、エレノアやレイラはこの手紙を見た瞬間に何か察しが着いた。


勿論、行かないという選択肢が正解で、噂を知っている上級貴族達は絶対にそのパーティへ行かないし、騙されてパーティへ行く自分達より位が低い貴族を見下ろして楽しんでいる者もいた。

だが、エレノアやレイラはその位が低い貴族を救う為に…本当に拉致などが起こっているのだとしたらそれを止めるべくパーティへ行くと選択したのだ。


そして、今がこの状況。


「大丈夫よ、ふふ…そんなに心配しないで頂戴。私達は貴方達が思っているより弱くないわ」


「……ええ。それに、罪も無い人が拉致や監禁…犯罪に巻き込まれていたら嫌でしょう?」


「確かに…嫌ですけど。お嬢様やレイラ様が行く必要はありますか?…僕が行きます」


「でもどうやっていくの、お兄様。ぼくら女の子じゃないよ」


アルムが首を傾げながらそう言うと、皆口を閉じてしまう。


「ノラも、一緒に行きます…!ノラは女の子ですし、それに…お姉様達だけだと、あの……心配なんです。お姉様達のこと、すごい頼りにしてるし……信用してます!でも、なにかあったらと思うと…!」


「それならお姉様達だけで良いんじゃないの?ノラの方が…なんか危なそうだし」


服の裾を掴んで言うノラをジュリーが横目に見る。

そう言われたノラはハッとして少し顔が赤くなってしまった。


「まぁでも、僕も……怪しいと思う…し、心配だし……。そんな噂があるのに……」


「ね、ぼくも心配!一緒に行きたいな〜。パーティ楽しそうだし!」


「馬鹿、アルム。女性が帰ってこなくなるパーティっていう話だったでしょ」


目を輝かせ始めるアルムにすかさずジュリーはツッコミを入れる。

アルムは"そっか、ごめん!"と笑顔で謝った。


「私は…態々行かなくて良いと思います。自ら罠にかかりに行くようなものですし…。お嬢様のお考えなら、出来るだけ賛成したいのですが」


「……そうね。確かに、その通りだわ。でも、止めようとしているのが私達しか居なかったのなら…と考えてみて」


「……!…………はい、」


「私達が見捨てたら、今もまだ帰って来れていない彼女達が救われる事は一生…無いわ」


「……ええ、そう…ですね。分かりました。お嬢様方を信じてベネット家で待っています」


(優しいな、お嬢様は。優しすぎるくらい…)


"そこに私は救われたのだけど"そう思いながら、オスカーは少し困ったように微笑んでお辞儀をした。


「んー、?お主らなにでそんなむずかしーかおをしているんだじぇ?」


そのお辞儀をするオスカーの後ろからシャルルは顔を出す。


「みんな"おんな"になって行けばいーんだじぇ!!ほら!」


そう言うと、シャルルの周りがキラキラと光出し、一瞬にしてシャルルの格好が可愛らしいワンピース姿に変わった。胸元に着いている淡い紫の大きなリボンがアクセントになっている。


「すごーい!!シャルルシャルル、ぼくにもやって!」


「ふふん、いーんだじぇ!!ほら!」


シャルルがそう言って手を前に出すと、同じようにアルムの周りが光り出した。

…が、服装が変わった訳では無くどうやら頭に耳が生えてしまったようだ。


「え?猫耳…?うわ、本物だー!!すごい、シャルル!」


「え、それで良いの?アルム…」


「そうじゃろうそうじゃろう!次はおずがーにやってやるんだじぇ!えい!」


「は…いや、私は別に……ちょっ、」


オスカーの話を全く聞かずにシャルルが魔法をかけると、今度は先程と同じく服装が変わった。

服装が変わったのは良いが、ドレスやワンピースでは無く、給仕が着る…つまりメイド服姿だ。


「おい」


「あら、……。……似合ってるわ、オスカー。新鮮ね」


「ええ、…ふふ。とても可愛らしいわよ」


「可愛いです!!ノラも着てみたいな〜」


「………………ありがとうございます」


オスカーは小さくそう言うと、光が無い目で微笑みながらシャルルを睨みつけた。


「やっぱりむずかしー魔法は上手くいかないんだじぇ……白いの、もっかい試していーかのぅ!」


「僕で試さないでください…。でも、シャルルさんが言う通り一緒に行くんだとしたら女装しか無いかもしれませんね」


「…正気ですか?」


「正気ですけど」


メイド服姿のオスカーが呆れ気味で呟くとソフィアはそれに対してはっきりと返す。

ジュリーも流石に"女装はな…"と言わんばかりの顔をしていた。


「ぼくは一緒に行けるなら何でもいーよ!!お姉様達とパーティ行きたいもん!」


「あら、本当?ふふ…嬉しいわ。なら、給仕の方達を手配しようかしら…!私達だけで大丈夫、とは言ったけれど…皆も着いてきてくれるのなら心強いわ…!」


「……そうね。でも、噂が本当だとしたら…私達が狙われる可能性も全然あるわ。だから、…気をつけて頂戴。何かあったらすぐ報告して欲しいわ」


「分かりました。お嬢様とレイラ様も僕達に頼って欲しいです」


「はーい!気をつける!ます!」


「気をつけます、でしょ。ノラとアルムは僕が見るから…大丈夫」


「え、!……えっと…でも!私も二人のお姉さんだから…!頼って欲しい、です!」


「私もお嬢様や皆様に危険が及ばないよう…細心の注意をはらいます。すぐ動けないと、女装してまで…着いて行く意味が無くなってしまいますし」


「わしも"さいしんのちゅーい"をはらって行くんだじぇ!!で、さいしんのちゅーいってなんじゃ、おずがー!」


「大人しくしろって事ですよ」


━━━━━━━━━━━━━━━

数日後、パーティ当日。

彼女達はパーティへ行く為の支度を朝早くからしていた。


「おおっ、みんな似合ってるな!な、クロエ!」


「ええ、そうね。女装すると言われた時はどうなるか心配だったけれど、意外と似合ってるじゃない」


「アイザック様、給仕の方達やドレスを態々手配して頂き本当にありがとうございます…、それにクロエ様もメイクや着付けを手伝って頂いて……」


エレノアは丁寧にお辞儀をした。


「あら、ふふ…そんなに気になさらないで」


「そうだぜ、オレも協力したいって思ったからアーケルに頼んで用意してもらったんだぜ!」


「アイザック様からいきなりあのような事を言われて、本当に驚きましたけどね」


「あっはは!ごめんなー、アーケル!」


謝るも笑顔のアイザックを見て、アーケルは静かに「はぁ…」とため息をついた。



「……オスカー?大丈夫…かしら、」


「はい……余裕、です……」


一方、ドレスに着替えたオスカーはヒールに苦戦していた。

ヒールを履くのを辞めるという手もあるが、流石に18歳の年齢でヒールが無いローファーを履いていると、少し魅力に欠けるからだ。


「無理をしなくても良いと思うわ…。普通のローファーに替えてもらいましょう……?」


レイラは震えながら壁に寄りかかって何とか立とうとしているオスカーを心配し、そのオスカーを支えながら聞く。


「いえ、私は大丈夫ですので……お気遣いをさせてしまって申し訳ない…、です」


「……そう、?なら、……見ているわ」


そう言うと、レイラは静かに離れて近くのソファに座った。

その瞬間、シャルルは一直線にオスカーへ向かって行くと肩に飛び乗った。


「……!シャルルさ……、……痛っ」


「おずがー!!…あれ、大丈夫かのぅ」


「……はぁ、誰のせいで倒れたと……いや、まず私には女装が向いていないんだと思います」


そう言うと、ヒールで平然と立っているソフィアや、ドレス姿で楽しそうに走り回るアルムを呆然と眺める。


「あら、あんたは何してるのよ。」


「クロエ……」


「早く立ちなさい、普段から姿勢には気をつけているでしょう?その姿勢を意識するの。ヒールに意識を囚われないで」


「……。分かりましたよ」




「すごーい!初めて着る!ひらひらしてるね!」


「アルム、あんま走ると転ぶよ。ドレス、汚れちゃうでしょ」


「なんで?一緒に走ろーよ、ジュリー!たのしーよ!」


そう言うと、アルムはジュリーの手を無理矢理掴み走り出そうとする。


「危ないよ、二人とも。それに借りているドレスだから……あ」


ソフィアが注意をするも、アルムはドレスの裾に足を引っ掛けて転んでしまい、巻き添えでジュリーも同じく倒れる。


「…っ、…アルム、!だから駄目だって……」


「痛い……ごめんね〜……」


「大丈夫?気をつけないと、会場で転んだら人も沢山いて迷惑がかかるから…怪我は?」


少し声色をいつもより低くして、二人の前に膝を着いて座りながらソフィアは言う。


「はい、…ごめんなさい。怪我は…大丈夫です」


「ごめんなさい……ぼくも大丈夫!」


「なら…良かった」


本当に申し訳なさそうに、子犬のような顔をして謝るアルムとジュリーを見てソフィアは微笑みながら二人の頭を優しく撫でた。

二人は安心した顔で同じく笑う。


「ねぇ、ノラに見せに行こーよ!」


「……良いよ」


そしてアルムとジュリーは立ち上がると、ノラの元へ歩き出す。


「ノラー!」


「はい!何ですか……あっ、可愛い…!二人とも、凄く可愛いです!」


「ふふっ、でしょ!」


「……これ、喜んで良いのかな……。可愛いって、」


「ノラもすごいかわいいね!お姫様みたい!」


「……確かに、ノラに凄い似合ってる服」


「えっ、ほんと…ですか?嬉しいです!ありがとうございます!!」


少し顔を染めながら、ノラは手を胸元に宛てて微笑んだ。


━━━━━━━━━━━━━━━

支度が終わった彼女らは庭を出た先の玄関で馬車を待っていた。


「行ってらっしゃいませ、皆様。私が責任持ってベネット家をお守りします」


「行ってらっしゃい!……ああっ、やっぱり心配だな…!!俺も一緒に…、でも、うーん……」


「アイザック様……、私達は大人しく待っていましょう」


「そう…だな、本当に本当に…気をつけてな!!」


「心配だけれど、きっと貴方達なら大丈夫だわ。あぁでも…オスカーは話さないようにしなさいね」


「……分かってますよ」


その機嫌が悪そうな返事を聞いて、クロエは満足そうに「ふふ」と口元に手を宛てて笑った。


「行ってきます。ベネット家を…よろしくお願い致しますね…!」


「……私からも、よろしくお願い致します。それと、朝早くから…本当にありがとうございました」


エレノアとレイラは小さく、そして静かに微笑むと丁寧にゆっくりお辞儀をした。

馬車に乗り込んだ彼女達を見て、アイザックは心底心配そうな顔で大きく手を振る。


「気をつけてなー!!まってるぞーーー!」


アーケルとクロエも馬車が走り出すのを見て、願うような、そんな真剣な表情をしながら頭を下げた。


to be continued…

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