第2話
タマモ、それがグラサン女の名前。
日本語が通じないわけではないが、どうにも一般常識が欠落した相手で
彼女曰く、友達の所に
世間知らずが一人で生きていけるとも思えないし、本官としても通訳の居た方が手間も省けるというものだ。
たかが交通違反と軽んじるなかれ。ルールを軽んじる気持ちが犯罪を招く。
口頭の警告が犯罪予防に繋がるケースも多い。
だからこそ本官はタマモの家におもむき、釘を刺さねばならない。
しかし、彼女ときたらもう……。
「タクシーを使うなと申したか? ならば汝が我の足となれ、いざゆかん」
仕方なく、バイクの後ろに乗せて自宅まで送ることになってしまったよ、とほほ。
皆の目が痛い。
「これはこれは、ウチのタマモが迷惑をかけたようで スイマセン」
幸いにも、タマモの保護者は比較的まともだった。
案内された先が稲荷神社なのは驚いたが、社務所で俺達を出迎えた巫女さんが礼節を重んじる方なのは非常に助かった。ちゃんと謝罪ができるだけで大助かり。
「本当に申し訳ありませんでした。なんせ彼女、最近まで殺生石の中で眠っていた大妖怪なので。常識とか
前言撤回。この人もヤベーわ。
信田とかいう巫女さんの言うことには。
タマモの正体はかつて日本を騒がせた九尾の狐らしい。
ほう。その伝説、聞いた事があるぞ。
確かこんな話しだ。
九尾の狐はまず美女に化け、国王に近づき誘惑する。
彼女の美貌に目がくらんだ王様は、すっかり骨抜き。操り人形と化す。そうして王の権力を乱用し贅沢の限りを尽くした結果、政治は乱れ、経済もズタボロ。その
そして、敗れた九尾が石となり長き眠りについた……それが有名な那須の殺生石。石から発する毒気のせいで生物すら住めぬ荒地になったとか。
その殺生石が割れたというニュースはTVで見たけれど。
まさか中身がこんなギャルだったとは、知らなかったなぁ。
……って、鵜呑みにしてどうする。
「そんな
「本当ですって。同じ狐属のよしみで、ウチが面倒を見ているんですが。なんせ
「たわけ、我は傾国の美女ぞ? 吐息で理性を吹き飛ばし、どんな男でも五分で破産に追いやる底知れぬ悪女ぞ? 貧乏役人に婿が務まるはずもなし。おととい来て たもれ」
「なにが傾国ですか、今は貴方が違反の警告を受けているんですよ」
つい本官の口から本音がまろび出る。
それに狐の
バイクで二人乗りをする間に、香水をたっぷり嗅がされた影響だろうか。
それとも背中にあてられた乳房の思い出が男を惑わせるのか?
どうしても彼女とお近づきになりたくて、仕方がなくなっているじゃないか。
底なし沼というより、タマモは大渦だ。
ただそこにいるだけで 周囲の男どもを巻き込んでしまう、歩く災害。
大妖怪というのも、
いいや、信じるものか。
ただの世間知らずで、友達の家に居候している家出娘だ、彼女は。
犯罪に走る前に、本官が保護してあげるべきなんだ。今すぐにでも。
そっちが妖怪と嘘をつくのなら、こっちだって考えがある。
「それに貧乏役人とは心外ですね。こう見えても本官はアラブの石油王と血縁関係があるんですよ。白バイ隊は世を忍ぶ仮の姿。実際は大富豪でして」
「ははは! いと をかし! ならば証拠を見せてたもう。我は『狐うどん』が大好物なのだ。富豪に相応しい『最高に贅沢な狐うどん』を我にたびたまへ。それが出来たなら、汝との交際を考えようぞ」
売り言葉に買い言葉。とんでもない事になってしまったぞ。
しかし もう後には引けない。
後日、最高に贅沢な狐うどんを持参すると約束して本官は社務所を後にした。
あれ? 本官は 何をしに此処へ来たんだっけ?
正直、まるで狐にツマまれたような心地だ。
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