図書室の怪物 デカ・ヒデ


 結局、セクシャルがセクシャルだということを信じざるを得なくなったイイヒト公爵。


「レベルアップならば、身長が伸びることもあり得るな……」と強制的に自分を納得させた後、ダンベルとベンチを大量買いして去っていった。


 いや、貴族の馬車ってあんなに物を入れられるスペースがあるんだね。すげえや。セクシャルは普段馬車になんて乗らないため、全く知らなかった。


 イイヒト公爵は、本当に貴族らしい貴族である。セクシャルも少しは見習ったほうがいい。


 イイヒト公爵が帰った後、周りの見物人もちょこちょことダンベルを購入していき、その日に用意していた分はすべて完売した。


 セクシャル初の商売作戦は大成功である。


 というか、そもそもなぜいきなりダンベルを売り始めたのかということを説明していなかったな。申し訳ない。


 セクシャルの呟きを拾っただけなので詳しいことや確実なことはわからないが、どうやら魔境の開拓をするために金を集めているらしい。


 魔境の開拓というと、ちょうどセクシャルの母であるジェンダーが領地を発展させるために行おうとしていたことだ。


 ジェンダーを手助けするつもりなのかなんなのかは定かではないが、とりあえずは領地のためになることをやろうとしているようなので安心である。


 とはいえ、せいぜい数千数万円の商品を売って領地の開拓をしようとは、かなり大変な計画だ。


 商品が完売したと言っても、今日一日の稼ぎは60万円ほど。魔力の消費を減らすために使用した素材の材料費などを考えると、利益は50万円程度だと考えるのが妥当だろう。製造費用や人件費などがかかっていないだけまだマシだが、領地の開拓が目的ならば、この程度ではまだまだ足りない。


 これからしばらくの間、同じ王都の商店街にて、ダンベルを売るついでにいろいろな使い方を披露するという約束をイイヒト公爵と交わしていたようなので、セクシャルの金稼ぎはまだまだ続くようだ。


 店を畳んだセクシャルは、ダンベルの材料を購入してからハラスメント領へと転移ゲートを使って帰っていった。


..................................................................


 プロテインやサプリを摂取した後、体を清めてから食事を取り、トレーニング後の栄養摂取を済ませたセクシャルは、珍しいことに屋敷の図書室へと向かった。


 ハラスメント家の図書室といえば、オリンピア王国でも有名なほどめちゃくちゃ広くて大きい。


 セクシャルのひいひいひいじいちゃんあたりに該当するアカデミック・ハラスメントという人物が、趣味でたくさん本を集めていたせいでこんなにも大きくなったらしい。


 ちなみにだが、アカデミックはあまりの知識量の多さゆえに、王立学園の教授を務めていたこともあるらしい。それほどの人物の書斎なのだから、大抵の本は存在すると思うが……一体セクシャルは何を目的にここを訪れたのだろうか。


 我々はその謎を解き明かすべくジャングルの奥地へと向かった……。(謝罪)

 

「お、セクシャルさま。お久しぶりなんだけれども」

「ああ、久しぶりだなヤマギシ。ちょうどいいところに来たな。本を探すのを手伝ってくれ」


 セクシャルが図書室へと足を踏み入れると、それを察知したかのように何者かが忍び寄り、セクシャルに声をかけた。


 セクシャルにヤマギシと呼ばれるこの人物は、この図書館の司書のうち1人である、デカ・ヒデである。


 〇〇なんだけれども……が口癖の彼は、ものすごくガタイが良く知識も豊富なので、セクシャルは彼のことを気に入っていた。


 そのガタイの良さは、レベルアップ前の筋肉ダルマ状態のセクシャルを彷彿とさせるほどで、なぜ司書をやっているのか疑問が湧くほどの人材である。とにかくすごい。


「任せてほしいんだけれども〜」

「それじゃあ、従魔術系統の本を10冊ほどたのむ」

「了解なんだけれども〜」


 セクシャルの要望を快く引き受けてくれたヒデを見送りながらも、セクシャルは本を探し始めた。


 ふむ、なるほど。従魔術系統の本ときたか。いよいよ本当に行動の理由が謎に包まれてきたが、いくつか予想はできなくもない。


 まず1つ目は、強力な魔物を味方につけることでダンジョンなどを攻略し、巨万の富を手に入れ、それにより魔境の開拓を進めようとしているのではないかということ。


 2つ目は、牛などをテイムする事で、プロテインを作ろうとしているのではないかという事。


 1つ目に関しては、ダンジョン攻略ほどの大金を狙っているのだとすると、ちまちまとダンベルを売る理由が薄くなってしまうので微妙な気がする。


 しかし、2つ目に関しても、わざわざ従魔術を学ばなくとも、牛の調教師を外部から連れてくればいいだけだろう。


 んー……本当にわからん。


 こちらの疑問など置き去りにしたままのセクシャルは、ヒデが集めてくれた10冊と、自分で見つけた2.3冊の本を腕の中に積み上げて、自室へと戻っていった。


 普通に図書室で読んでけばいいのにわざわざ自室に戻るとは、相変わらず引きこもりの鏡のような男である。


 

 

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