幼馴染の誕生日パーティー参加してみた!
この日、セクシャルは珍しいことに領地から離れ、王都オリンピアを訪れていた。
家トレ派の引きこもりニート予備軍であるセクシャルがわざわざ遠い王都まで外出するなど普通では考えられぬものだが、今回は外せない用事があったようだ。
その用事というのも、レスト公爵家の長女であるアクティ・レストの誕生日パーティーが王都にて開催されるとのことだ。
アクティ・レストとセクシャルは同い年であり、同じ公爵家の生まれということでたまに遊ぶような仲なのである。
いわゆる、幼馴染というやつだ。
人柄もセクシャルと馬が合うし、能力も有能ということでセクシャルはかなりアクティのことを気に入っているようだった。
アクティは回復系の能力を持っており、その能力を使うことで筋トレを手伝ってもらっていたのを覚えている。
疲労回復とか、超回復とかね。特に超回復を早める能力なんかは、毎日筋トレしたいのに回復を待たなくてはいけないジレンマを抱えている全てのトレーニーからすると、夢のような能力である。
さて、そんな夢のような能力を持つ少女であるアクティは、現在様々な貴族たちの対応に追われていた。
やはり、公爵家のパーティーというくらいなのでかなり多くの貴族が来場しており、アクティにプレゼントを渡すための行列ができているくらいだ。
「アクティ様! こちらはうちの領地の名物の……」
「アクティ様! こちらはとても希少性の高い宝石でして……」
「アクティ様! ……」
「アクティ様! ……」
実際、こうしてプレゼントを渡す者たちの姿を観察していると、なんだかとても不快な気分にさせられる。
ほとんどの貴族が、自分の持ってきたプレゼントという名の貢物がどれだけいいものなのかというアピールしかせず、単純に彼女に祝いの言葉をかけるものは数少ない。
単純に彼女が可憐だということもあるが、公爵家と縁を繋いでおきたいという貴族達の思想が透けて見えるような光景だった。
確かに、この光景を見るとセクシャルがパーティー等を嫌う理由がよくわかる。
そして、好感度稼ぎの場と化したパーティーにようやくセクシャルが到着した。
「ほら、セクシャル。お前も行ってきなさい」
「……いや、疲れているようだし後にする」
「そうか? だが……」
「うるさい」
到着すると早速、父親であるパワーがプレゼントを渡してくるようセクシャルに提案するが、セクシャルはそれをバッサリと切り捨てた。
家族仲が悪い訳ではないのだが、苦しんでいる領民の現状を知ったセクシャルは、それを改善しようとしない無能な父親に対して反抗気味なのだ。
決してパワーが特別悪人である訳ではなく、農民や貧民を大切にしないのはほとんどの貴族がそうである。
しかし、前世の記憶があり、なおかつ食事に気を遣っているセクシャルからすると、民がまともに食事を取れていない状況というのはそれだけ許せない案件であった。
パワーがパワハラを行うのは格下のもの限定であり、対等な存在の家族は大切にしているだけに、セクシャルの反抗はかなりパワーにダメージを与える。
昔、使用人にパワハラをしているところをセクシャルに見られ、ブチギレされて以降パワハラをしなくなったほどだ。
今だって、セクシャルに口を封じられてからは、うじうじとしょぼくれて妻に甘えている。
このように、セクシャルの中身をキン・ニクオが乗っ取ったことによる影響は、本人以外にも現れ始めていた。
原作では、ここまで夫婦仲は良くなかったはずなので、もしかしたら存在しないはずだったセクシャルの妹や弟が生まれる日も近いかもしれない……。
「あ! セク! 来てくれたのね!」
そして数分後。しょぼくれている気持ちが悪い父親を放っておいて食事に舌鼓を打っていたセクシャルは、パーティーの主役であるアクティに発見された。
彼女もプレゼント地獄にはうんざりしていたようで、セクシャルを見つけたのを口実に貴族の群れから脱出し、セクシャルの下まで駆け寄った。
プレゼントをまだ渡せていない貴族や、他の貴族を牽制していた貴族達は突如登場したセクシャルに不満そうな顔を向けるが、セクシャルが装着した指輪に刻まれた刻印を見て表情を一変させた。
ハラスメント公爵家の人間であると気がついたのである。
ハラスメント公爵家には変人と無能が多いし、領地の開拓もまともに行われていないような土地ではあるが、一応は公爵家なのである。先祖達の功績だとしても、家の序列は高い。
「アク、久しぶりだな。」
「ええ、久しぶり! 会えて嬉しいわ!」
セクシャルと会話をし、顔を輝かせるアクティ。非常に可愛らしい。
「しかし、よく俺が俺だと分かったな」
「私がセクを見間違える訳ないでしょ! ていうか、話は聞いていたけどほんとに大きくなってるのね」
「ああ、幸運だった。こっちの方がいろいろ動きやすくて良いんだ」
「そりゃそうよ……前は、ほんとに筋肉ダルマみたいだったもの! もうあんなのはやめてよね!」
「言うな……わかっている。俺だってシンソールユーザーのような醜い体にはもう戻りたくない」
2人が話しているのは、レベルアップする前のセクシャルの体についてのことだろう。
あの時の体は本当に気持ちが悪かった。セクシャルの変態的なトレーニングとさまざまなファンタジー要素が組み合わさり、本当に人工筋肉を全身に極大まで植えつけたかのような姿になっていた。きしょすぎ。
そして2人の間で他愛無い話が進み、とうとう話題はプレゼントの話へ。
「ていうか、呑気にご飯食べてないでプレゼント渡しに来なさいよね。ほら、プレゼント持ってきてるでしょ? 出しなさい」
「いや、持ってきてないが……」
「はぁ!!!??」
これは、修羅場の予感である。
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