筋肉つきすぎたのでダンジョン行ってみた
6歳になり外出ができるようになったセクシャルは、ダンジョンに訪れていた。
※ダンジョン……魔物が出てくる異次元空間。洞窟だったり海底だったり、様々なところにダンジョンの入り口が存在している。
今回のダンジョン探索は、レベルアップをすることが目的のようだ。
幼少期からハードなトレーニングを重ねたことが原因で、セクシャルの筋肉は肥大しすぎてしまったのだ。
筋肉が肥大することはトレーニングの目的の一つであるので本来嬉しいことなのだが、セクシャルの場合はアナボリックステロイドを使ったのではないかと見間違われるほど肥大してしまっている。
※アナボリックステロイド……筋肉増強剤であり、様々な副作用がある。有名な副作用として、男性なのに女性のように胸が発達してしまうガイノなどが挙げられる。
肥大しすぎた筋肉は体の柔軟性や関節の可動域に影響を及ぼし、今やセクシャルは自分の肩を自分で触れることすらままならない。
そこで、魔物を倒すことで起こるレベルアップを利用し、筋肉のサイズを落とそうと考えているようだ。
レベルアップに筋肉のサイズを落とす作用が確実にあるのかと問われれば、分からない。過去にそういった事例がないからだ。
しかし、レベルアップの作用の一つに『肉体の最適化』というものがある。
最適化というくらいなのだから、自身の肩にすら触れられないバグった肉体をどうにかしてくれるだろう。
ダンジョン内を進むセクシャルの足取りは軽い。
◇◇◇
さて、能天気にダンジョンを進んでいたセクシャルであるが、早速モンスターの気配を察知したようだ。
セクシャルが立ち止まることにより雑音が消え、ぷよぷよという何者かが放つ音のみがダンジョンに響く。
音の鳴る方を注視していると、プルプルとした青いボールのような物体がセクシャルの視界に入った。
セクシャルも気がついたようだが、あれは最弱の魔物と名高いスライムである。
しかし、最弱とはいえ魔物は魔物。危険なことには変わりがないのである。
スライムの強さや特徴がはっきりとしない今、接近戦を挑むのは愚策だと考えたのだろうか。
セクシャルはスライムと一定の距離をとりつつ、10kgのダンベルを投げつけることで攻撃を行った。実に、脳筋らしからぬ戦法である。
運の悪いことに最初のダンベルはぴょんと飛んで避けられてしまったが、スライムの着地地点にもダンベルを投げつけることで、無事にスライムに命中。
かなりの勢いを持ったダンベルに押しつぶされたスライムは弾け飛び、ドロップアイテムに姿を変えていった。
やはり、雑魚である。この世界におけるスライムの攻撃手段は体当たりのみ。近寄らなければ攻撃を喰らう心配もなく、あっさりと倒せてしまうものだ。
その後セクシャルは投げるダンベルの重さを軽くしていきながらスライムを討伐し、最終的には3キロのダンベルを多用するようになった。
そして、20体ほど倒す頃には当たり前のようにスライムの行動パターンや一度の跳躍での移動距離などを把握し、効率的にスライムを討伐し始める。
脳筋のくせに、こういう肉体労働系というか、肉体を使ったことに関しては頭が働くのはなんなんだろうか。様々な脳筋キャラ達のの謎である。
順調にダンジョンを進んでいくと、ゴブリンやオークなど他のモンスターも出現するようになってきた。
動きの素早いゴブリンには2キロなど軽めのダンベルを大量に投げつける物量作戦。防御力は高いが動きが遅いオークには15キロのダンベルなどを使った高火力作戦で無事討伐を成功させた。
「意外と呆気ないものだな……」
複数体を同時に相手する場合には、数匹がダンベルの弾幕から逃れて接近してきてしまうこともあった。
そのような場合にはまず落ち着いて距離を取り、20キロのバーベルシャフトを振り回すことで制圧。
やはり、オリンピックシャフトに敵うものは無し。圧倒的な強さで傷一つ負うことなくモンスターたちを倒していき、ついに討伐数が99体へと到達。
今回倒したモンスターは全てGランクなので、全員等しく経験値は1。そのため、あと1体倒せば無事レベルアップである。
セクシャルもその事実を改めて思い返したのか、意気揚々とモンスターを探していく。そして、スライムを発見。
そのままスライムに近寄っていくのかと思いきや、その場で大量のプロテインを作り出してビルダー飲みをキメていく。
「グチュグチュグチュグチュ……ゴクリ」
気持ちよさそうな顔だ。中毒性もなければ特別な作用も何もないただのタンパク質なのに。
そして、セクシャル合計1キロという確実に致死量のプロテインやその他サプリメントを摂取した後、ダンベルを投げてスライムを討伐した。
『おめでとう!レベルアップ!』
レベルアップを告げる音がセクシャルの周囲に鳴り響く。そして、セクシャルの体から煙が立ち上がり肉体に変化が起こっていく。
「ぐぐ……うぉぉぉぉぉぉぉぉ! 胃の中のタンパク質、全部吸収しろぉぉぉぉぉぉ!」
なるほど。先程の奇行はどうやら、レベルアップを利用した大量の栄養素摂ということだったようだ。果たして意味があったのかは今の段階では不明である。
そして、レベルアップの痛みに耐え切ったセクシャルは、身長が170cmほどまで成長していた。
ちなみにだが、身長が80センチほど成長したので服はビリビリに破れている。
「なるほど。筋肉を縮めるのではなく、体を大きくしたのか……」
見た目は細マッチョといったところに収まっており、男からも女からもウケそうな体型である。うらやま。
しかし、この肉体をそのままにしておかないのが脳筋の性である。きっと、数年後には再び筋肉ダルマが誕生することだろう。
「おお! 筋力が落ちることも覚悟していたが、速筋繊維一本一本のパワーが上がってやがる! それに、総動員数も増えたなぁ! 遅筋はどうだ?……」
ダンジョンの中だというのに呑気なもので、変化した肉体の状態確認に励むセクシャル。
筋肉ダルマがスリムで引き締まった体型になったことにより、気持ち悪さがかなり減少。筋肉よりも整った顔立ちのほうが目立つようになり、シャフトを振り回しながらはしゃぐ姿が可愛らしく見える。全裸だが。
「あぁ〜早くMAX測定してぇ〜! ギルドなんかに物売ってる暇ねぇゾォ!」
一応モンスターたちのドロップアイテムを集めていたセクシャルであるが、早く家に帰って力試しがしたくなってしまったようだ。
ちょうどよくボロボロの格好をした幼い労働者がいたので、その子にドロップアイテムとウエイトゲイナープロテインを渡し、即帰宅したセクシャルであった。
……上裸のマッチョに変なモノを押し付けられて、トラウマになってないといいけど……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます