13
千屋さんを怪我で欠いたあたしたちは二日目全敗を喫した。あたしのサーブも、本職じゃない明賀先輩のアタックもことごとく拾われ、あたしたちの実力はなにひとつ通じなかった。
最後の試合を終え、俯きながらベンチに戻ると千屋さんは欠伸をかみ殺していた。
「あたしたち負けたんだけど」
全敗と千屋さんの退屈そうな態度に苛立ち、つい噛みついてしまった。
「見てたから知ってる」
「昨日は負けそうになるとあんなに悔しそうな表情してたじゃん」
「私の出てない試合は別にどうでも……」
全身からどっと力が抜けた。千屋さんはこういう人間だ。こういうところが敵をつくる所以だ。もう少し自分の態度の悪さを自覚したほうがいい。千屋さん自身のためにも。
「明賀先輩はプレーにそつがないですね。経験が長いだけあります」
千屋さんが唐突に今日の総括らしきものに入った。お前は監督かなにかか、と言いたかったが口をはさむ余地はなさそうだ。
「逆に長所がない、とも言えますが」
明賀先輩は引きつった笑顔を浮かべ、口の端をひくひくさせている。見ているこっちがはらはらしてしまう。
「宮成先輩は……本来マネージャーなのでなにも言いません」
宮成先輩の運動神経はお世辞にもいいとは言えない。だがここまで湾曲にそれでいて嫌みとも取れる言い方はさすがだ。その宮成先輩は言葉を詰まらせ、明賀先輩と同じように顔を引きつらせている。
「阿河さんは、目も当てられない」
こいつ……こいつは本当に、もう……。
「明賀先輩、一回なら殴ってもいいですか?」
「そうね。一回くらいなら」
笑顔の奥に潜む明賀先輩の苛立ちに千屋さんは怯むことなく平然としている。
「日本一になりたいんですよね」
千屋さんはそう言うと松葉杖を使って立ち上がった。昨日試合後に病院に行ったら捻挫と診断され、一ヶ月近くは運動をするなと言われたそうだ。
「来年は日本一にさせてあげますのでついてきてください。……阿河さんは足を引っ張らないで」
千屋さんが私たちの間を強引に通り抜け、器用にちゃっちゃと歩いて行った。
後ろから見た千屋さんの耳が真っ赤になっているのをあたしは見逃さなかった。あたしは追いかけ、後ろから頭をぐりぐりと撫でた。
「なに?」
千屋さんが睨んできたが全然怖くない。
「来年は頼むわよ、千屋さん」
明賀先輩もいつの間にか追いついていて、千屋さんの腰を結構強く叩いた。これはさっきの皮肉のお返しが込められている。
「ようやく唯ちゃん本気になったの」
宮成先輩は千屋さんの前に回り込んで、犬を激しく撫でるように両手で千屋さんの頭を撫でた。
千屋さんがまんざらでもなさそうにぎこちなく小さく笑った。
今度は全部を愛せそうだ。
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