第36話 ゴブリンの巣
「ゴブゴブゥ!!!」
10分ほど、ゴブリンたちと巣の中で逃走劇を繰り広げた後、俺はついに広場でゴブリンたちに待ち伏せされてしまった。
後方からも大量のゴブリンたちがやってきている。
まさに絶体絶命。
「リノからはなるべく戦闘は避けるように言われたんだけどな……」
〈加速の素質〉でゴブリンたちの間を抜けるように逃げてもいい……が、いい加減俺にも体力の限界が来ていた。
幸い、俺自身も広い場所の方が戦いやすい。
このチャンスを逃せば、俺はいつかゴブリンたちに捕まってしまうだろう。
「ゴブゥゴブゴブ!!!」
それはニタニタと本当に気持ちの悪い笑いだった。
何がそんなに面白いんだよ。
こちとら必死なのに。
だが、俺はそこで何かに気づいた。
笑っているゴブリンたちは皆、俺の少し上を見ているのだ。
……まさか。
俺がゴブリンたちの視線の先を見ようと思った瞬間だった。
――シュバババババ
それは数え切れないほどの数の矢の雨であった。
奴らは元々、ここに誘き寄せるつもりだったのか。
「卑怯な!」
俺は思いっきり地面を踏み抜き、加速を発動させる。
頭上数センチまで落ちてきていた矢の雨は穿つ対象を失い、地面へと刺さっていく。
俺は前方のゴブリン集団の先頭にいた上位種らしきゴブリンの前で姿勢を低くし――
「ゴブゥ?!」
刹那、そのゴブリンの体が消えた。
「赤の呪剣の力、存分に味わいな」
それは赤の呪剣の力であった。
呪剣に触れたゴブリンは跡形もなく灰となって消えていく。
「ゴブゥ、ゴブゴブゴブ?!」
加速を発動してしまった以上、俺の体は止まることを知らず、そのままゴブリンの大群へ突っ込む。
一体ずつ倒しているようであれば俺の体力が持たない……ならば。
俺は呪剣に対して念じる。
伸びろ、と。
その瞬間、剣先から太陽のように真っ赤な炎が吹き出す。
これだ、これ。
赤の呪剣……その本質は斬りつけたものを焼き殺せることではなく、炎を自由に剣に纏える点であったのだ。
俺はそのまま前進しながら体をクルリと一回転させ、辺りのゴブリンを一掃する。
「まだまだぁ!」
壁にぶつかりそうになった瞬間、地面を強く蹴り、その場でバク転する。
そして空中で体の向きを変えると……進行方向にいたゴブリンは全て焼失してしまった。
〈コメント欄 同接:30000人〉
“やっぱりこっちも化け物だ”
“もう見えないや”
“ゴブリンが逆に可哀想”
“七瀬相手に集団戦なんて効くはずないもんな”
“爽快”
“見てて気持ちいい”
音のように俺の体はゴブリンの軍勢の間を縦横無尽に駆け巡り、いつの間にか、生きているゴブリンは奥の方に潜んでいた子供のゴブリンだけになっていた。
「さてと、あとはあいつでお終い……って、逃げるな!」
俺がその子供のゴブリンの方を向いた瞬間、そいつは背中を見せて思いっきり逃げていく。
追わなきゃ、と俺は地面を強く踏み抜く……が、俺の足は急に止まった。
どこかから聞こえた悲鳴の音で。
「この先からだ……」
その方向は子供ゴブリンが逃げていった方向とは逆の方向だった。
仕方がない、あのゴブリンは見逃すしかないか。
〈コメント欄 同接:30000人〉
“今の女の人の悲鳴じゃん……”
“こわっ……”
“よくよく考えたら七瀬みたいに凄い力なかったら矢の罠でジ・エンドなんだもんな”
“ゴブリンって意外と恐ろしいのか”
“余裕とか言ってごめん”
“早く助けに行ってあげて”
“ワンチャン、グロい映像出てくるかもだから耐性ない人は今のうちに閉じとけよー”
だが、どうしようか。
元々、リノからは戦闘は避けるように言われているのだ。
今行けばあの悲鳴をあげた人をゴブリンたちに襲われる前に助けられるかもしれない。
けれど、もし、もう手遅れだとしたら……?
〈コメント欄〉
“助けに行かないの?”
“どした”
“【朗報】リノさんが今、ゴブリンリッチを倒し終わってこっちに向かってるらしいよ”
“おお、ゴブリンリッチ倒したのか”
“配信見てきたけど結構、あっさり終わってたぜ”
“流石下層探索者だな……”
「……助けに行くか」
ゴブリンリッチが倒されたのであれば、他のモンスターは俺でも倒せるだろう。
俺は先程のゴブリンとの戦いですっかり自分に自信がつき、あの程度ならあと4、5回繰り返しても怪我することはないだろうと思っていた。
確か、リノは巣に300体くらいゴブリンがいると言っていた。
さっきの戦いで体感、100体は倒したため、残りのゴブリン全員に待ち伏せされていたとしても所詮は200体……さっきと同じ要領でどうにでもなる。
俺には呪剣と防御面最強のマントがあるんだから。
そう思い、俺は赤の呪剣を鞘にしまって悲鳴の聞こえた先へ駆ける。
〈コメント欄〉
“お、助けに行くか”
“面白くなってきた!!”
“そうこなくっちゃ”
“リノさん待った方がいいんじゃ”
“七瀬も馬鹿強いし、大丈夫だろ、ゴブリンリッチもいないんだし”
“それもそうか”
「一応、少し映像が乱れる可能性があるので耐性がない人は今のうちに閉じておくことをお勧めします」
俺は通路を走りながら視聴者に注意喚起をしておく。
まあ、そんなことを言っている俺自身がグロいのにあまり耐性がないのだがな。
通路は一本道で俺が近づけば近づくほどゴブリンの鳴き声は大きくなる。
そして――
「ここか……」
そこには俺の身長の何倍もある巨大な岩の扉があった。
そして、扉の向こうからはとんでもない数のゴブリンの鳴き声、そして掠れた女性の悲鳴が聞こえてくる。
俺は鞘から呪剣を抜き、その扉を開けた。
「ゴブゥゴブゴブゴブ!!!!!!」
扉を開けた瞬間に俺を歓迎したのは――
無数の矢と火の玉であった。
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