第34話 赤色の……石?
「ゴブ、ゴブゥゴブゴブ!!」
これで15体目だろうか。
俺は最後に残ったゴブリンを後ろから斬りつける。
「はあはあ……数が多すぎだろ。これでほんのちょっとって……一体どうなってるんだ」
リノによると俺はこれから今倒した数の30倍ほどのゴブリンを倒さなければならないらしい、それもその中には上位種が何体もいるんだとか。
憂鬱で憂鬱で仕方がない。
俺は目的の地下遺跡を目の前に大きな溜め息をつく。
なぜこうなったのか。それは約1時間前に遡る。
――――――
「囮になる……ですか?」
それは、何体か辺りの警戒をしていたゴブリンを倒した時だった。
彼女は俺にそう言ってきた。
「えっ?!……まさか、俺がするんですか?」
「ううん、違う。囮は私がやる……私がなるべく多くのゴブリンを外に出させる。その間にななせんはゴブリンたちの本拠地を叩いてほしい」
なんともハードな提案だな……。
だが、ゴブリンの本拠地には当然ながらゴブリンリッチがいるだろう?そいつはどうするのだろうか。
「安心して、私はゴブリンリッチを外に出させられる方法を知ってる……だからななせんには中で暴れてきて欲しい。囚われている人がいたらその人の救出もお願い」
「暴れるって……」
そんな雑でいいのだろうか。
一応、ゴブリンたちのことはかなり警戒しないといけないのだろう?
「ななせんなら大丈夫だって信じてる……それに転移の指輪もあるから」
「そ、そうですか……」
だとしても初下層攻略なのに一人で戦うのは少し……というかだいぶ、怖い。
それは恐らく、中層以上と違って下層からは命の危険が伴うからなのだろう。
「大丈夫……ななせんならやれる。私も配信してるから何かあったらすぐに視聴者さんから私に伝わる、だから安心して存分に暴れてきて」
リノは俺の手を掴み、真剣な眼差しでそう言った。
ああもう、そこまで言われたなら死ぬ気でやるしかないじゃないか。
異常現象さえも乗り切ったこの力でゴブリン如き、ぶっ倒してやる。
……
…………
………………
と思っていた時期が俺にもありました。
リノから教わった匂い消しの方法を試し、俺は今、ゴブリンが大量にいるであろう遺跡の中を探索している。
通路の警戒をしていたゴブリンナイトは後ろから視覚を狙って闇討ちしている。
俺の持つ〈目の素質〉は自身の目に暗視効果を付与できるためこのような薄暗いところにはうってつけだ。
さらに素質でゴブリンたちの視線の範囲を視覚化すれば背後をとることなんて容易い。
俺はそのまま順調に通路を突き進んでいたのだが……。
「――ゴブゥ……ゴブゥ」
どこかからかとんでもない数のゴブリンの呻き声のようなものが聞こえてくるのだ。
これぞまさにホラーと言っても良い。前に進めば進むほどその声は大きくなっていき、俺は配信のコメント欄を見て心を落ち着けていた。
〈コメント欄 同接:25000人〉
“何この呻き声”
“気持ち悪い……”
“ごめん、リタイア”
“何があっても俺は最後まで見続けるぞ……”
“きっしょいなぁ”
“だんだん大きくなってない?”
“これってもしかしなくてもゴブリンの子供の鳴き声……とか?”
その中で一つ気になるコメントがあった。
ゴブリンの子供の鳴き声……モンスターは動物ではないから一般的に子供を産まない。ただ、一部のモンスターに限っては繁殖とダンジョンによる自動出現の二種類で誕生すると言われている。
そして、その一部のモンスターというのがゴブリンなのだ。
つまり――
「今、進んでいる方向にはゴブリンたちの子育て部屋があるってことですよね」
それも何百ものの。
子供を産むモンスターの特徴として挙げられるのが子供は殺されそうになると叫ぶことで助けを呼ぶことだ。
一体であれば叫ばせる前に殺せるが何百にもなれば倒すのには手間取ってしまう。
そしたらそこでゴブリンとの全面戦争の始まりだ。
それは不味い。
まずはゴブリンウィザードやナイトなどの上位種を倒してから普通のゴブリンを倒さなければならない、というのはゴブリンを倒したことのある者なら誰でも知っていることだ。
特にゴブリンウィザードに横槍を入れられればこちらも上手く戦えない。
なので、俺はここは無視して奥へ奥へと進むことにした。
「――ゴブゥ、ゴブゥゴブ、ゴブゴブゥゴブ」
なんていう数の声だ……。
この中には一体、どれだけの数のゴブリンの子供がいるのだろうか。
何百……いや、千にも及ぶかもな。
俺は静かに足音を立てないように部屋の横を通り過ぎた後、通路に何かが飾られていることに気づいた。
「なんだこれ……」
それはまるでゴブリンの顔を模したような仮面だった。
なんとも気色の悪い……。
誰が作ったのだろうか、こんな器用なことはゴブリンたちには不可能だろうし……悪趣味な奴が落としたものを拾ったのかな。
俺は試しに手に取ってみる。
よく見ると額に赤色の石が埋め込まれている。
あれ? 赤色の……石?
脳裏に赤い石に関する記憶がよぎり、冷や汗が背中を伝い落ちる。
「ゴブゥ、ゴブゴブゴブ!!!」
後ろを振り向くとそこには何十匹もののゴブリンが俺のことを見て叫んでいた。
つまり、これはあの魔寄せの粉の元である魔寄せの石であったのだ。
触るんじゃなかった!
〈コメント欄 同接:26000人〉
“あ”
“あ”
“あーあ”
“終わったな”
“不用意に変なもん触んなよ……”
「ゴブゴブゥ!!」
後ろの子育て部屋から次々とゴブリンたちが現れる。
だいたい30はいるんじゃないだろうか。
「まずい……挟み撃ちされる前に逃げるか」
俺は急いで魔除けの粉を自分に振りかけて相殺し、急いで前に向かって駆けた。
なんでこう……いつもトラブルばっかり起こるんだろうか。
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