第14話 絶対零度


「絶対零度」


 鋭い声と共に、氷がレイを中心に展開される。

 俺がこの技を見るのは3回目なのでもう、対策済みだ。


「かそ―――んなっ?!」


 地面を蹴り、加速を使おうとしたところだった。

 突然、背後から鋭い殺気を感じ、振り返ると、鋭い氷の針が地面から伸びてきていた。


「どうして……」


 俺は急いで方向転換し、氷の針を避ける。


 絶対零度、それは本来なら正面から使用者を中心に氷が伸びていき、相手を凍らせる技のはず。

 つまり、これは――


「フェイクか……やるな」  


「ふふ、気づかれちゃったか」


 敢えて嘘の技の名前を言い、相手を騙すトリック。

 知能を持たないモンスターには使えないが、人間には有効な技だ。

 こいつはこの技で何人を殺してきたのだろうか。


「なあ」


 俺はレイから十分な距離を取って話しかける。


「俺を殺しても送還システムで俺は地上に戻るだけだぞ? それなのにお前はなんで俺を殺そうとするんだ?」


 一番の疑問だった。

 送還システムがあるダンジョン内ではイレギュラーが起きない限り死ぬことがないため、安全だと言われている。

 それなのになぜ……。


「送還システムのことは知ってるよ、でもそのシステムには大きな欠陥がある、送還システムによって地上へ戻された人間は1時間程、意識を失うんだよ」


「ああ、それがどうした?」


「考えてみな、もしも送還された場所に毒薬を持った人間がいたらどうなるか」


 その言葉で全てを俺は理解し、そして全身に寒気が走った。


「君がもしも、ここで私を殺しても私は死なない、けど君が死んだらそれで君は終わりだ、最高な話でしょ?」


「……卑怯なことを」


 だが、その言葉を聞いて俺は安心した。

 こいつは殺してもいい相手、手加減することは決して出来ない、と。


「なら、こっちもこっちで卑怯なことをさせてもらうぜ?」 


 俺はポケットからスマホを取り出す。

 そしてなんと、そのスマホの画面には困惑している様子のコメントが大量に表示されていた。


“どうなってんだ?”

“今来た”

“リノ氏は実際悪くなかったのか……?”

“この女、マジでゴミやろ、誰だよ”


「あっ、どうもダンチューバーの七瀬です、さっき聞こえてきたと思いますけど全てはこの人が元凶みたいですね」


 そう言って俺はカメラをオンにする。

 すると、配信にはリノさんにそっくりな少女が映されただろう。

 コメント欄はさらに荒れていく。


「な、何をしてるの?! 動画を取ろうだなんて無駄なこと……まさか?!」


 そう、俺は配信をしていたのだ。

 それも一番初めから。


「そのまさかですよ、レイさんの悪行の自白、全部配信に乗ってましたよ」


「ッッ?!」


 一番、初めから彼女とのやり取りは配信に乗っていた。

 そして、俺は配信を付けた状態でスマホをポケットにスマホを仕舞い、犯人が現れるのを待っていたのだ。


「そんな……あなたが配信をしていたら気づくはずなのに……なぜ」


「それは当然ですよ、配信サイトは変えてましたので」


 俺はさらっとそう言った。

 もう彼女はどう言い逃れしても無駄なことを察したのか、ぺたんと床に崩れ落ちた。


 ……

 …………

 ………………


 そこからはトントン拍子だったと思う。

 俺は動画を証拠として警察に提出したところ、警察が指紋鑑定や画像鑑定などを行い、無事にリノさんの無実は証明された。


「それにしても、凄い、よくあんな発想湧いた、」


「いえいえ、偶々ですよ」


 ここは大学の近くの小さなカフェ。

 喧騒の中、リノさんは感心したようにそう言った。


「でも、なんでリノさんは怪しまれるようなことを今までしていたんですか?」


 俺は以前、ネットのスレッドで見た内容を思い出す。

 珍しくその日は『えごさ』と呼ばれるものをしてみたのだ。

 すると、俺に関するスレッドが見つかり、そこではリノさんの行動が不思議がられていたのだ。


「そう言われると思ってた……ちょっと長くなるかもだけど、聞いてくれる?」


「ええ、もちろんですよ」


 そして、彼女は口を開いた。





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