第13話 「  」




「ここか、待ち合わせ場所は」


 俺は連絡した人物が指定した場所に立ちながらそう呟く。


 先ほど、俺が文字を打ったのはリノさんのSNSアカウントへのDMのためだった。

 普通なら、現在、警察署にいるはずのリノさんにそのDMが届くわけがないと考えるだろう。


 それなのにDMを送った理由は、さっき、リノさんが警察署にいるはずの時間に俺が送った『容疑がかかってるって本当ですか?』というDMに既読がついていたからである。


 そう、俺はリノさんのSNSアカウントは誰かに乗っ取られているんじゃないか、そう考察したのだ……。

 そしてその人物が今回の騒動の真犯人なんじゃないか。

 そんな仮説さえも建てていた。


 ――カツカツカツ


 曲がり角から人の足音が聞こえてくる。

 俺は誰が現れるのかと目を凝らしてそこを見た。


 だが、そこから現れたのは――


「ななせん、久しぶり」


「なんで……だ?」


 一番、考えられない人物がそこには立っていた。


「り、リノさん、警察署にいるんじゃなかったんですか?」


 そう、現れたのは俺の固定視聴者でありながら下層探索者であるリノさんだった。

 リノさんは不思議がるように口を開く。


「警察署? 結局、ちょっと事情を説明したらすぐに帰してくれた、それでどうしたの? ななせん」


「ど、どうしたもこうしたもリノさんにはテロ準備の容疑がかかっているって速報が流れてきたんですよ!? それなのにそんなに簡単に帰してくれるんですか?」


「報道? あれは嘘……全部、本当の犯人を炙り出すためのもの」


「え?……」


 俺は驚きの声をあげる。

 つまり、一ノ瀬さんもニュースサイトも全てリノさんの嘘に協力していたということなのか?

 あまりにも規模が大きすぎるというか、日本中を巻き込んだ馬鹿げた方法だと思うのだが……。


「馬鹿げた話だと思うかもしれないけどホント、信じて」


 リノさんの青い目が俺を見つめる。

 その目は澄んでいて、見惚れるほど綺麗だった。


「ご、ごめんなさい、俺、勘違いしちゃってたんですかね?」


 俺は頭を下げ、全力の謝罪をした。


「別にいい、私は気にしてないから」


 カツカツと足音を立てながらリノさんは近づいてくる。


 だが、それは俺が「あ、ありがとうございます」と、言うために顔を上げた瞬間だった――。




「――絶対零度」


 あの時の冷たく鋭い声が鼓膜を震わせる。


 ――刹那、極氷がリノさんを中心にダンジョン内を凍らせようとした。


「加速!!」


 きっと、あと0.1秒でも遅かったら俺は氷の像になっていただろう。

 リノさんから放たれた氷の魔法はそれぐらい強烈なものだった。

 俺は〈加速〉で魔法の範囲外へ逃げた。


「あ〜あ、なんだ、気付かれちゃったかぁ〜」


「は?」


 その口調はいつものリノさんの無口な口調ではなく、腑抜けたようなものだった。


「あれれ? まだ気づいてないの? 私、悲しいなぁ」


「お前は……誰だ?」


 俺はようやく、目の前にいる少女をリノさんの姿をした他人だと認識した。


「あはは、そんなにお姉ちゃんと似てるんだ、私」


「お姉ちゃん……? そういうことか?」


 お姉ちゃん、彼女はリノさんのことをそう呼んだ。

 俺はある仮定を立てる。

 すると、今までのことの辻褄が全て合致した。


 つまり、こいつは――


「リノさんの双子の妹ってことか……はは」


「御名答〜、そう、私はあのクソ姉の双子の妹だよ」


 そう、こいつはリノさんとの双子。

 つまり、俺がリノさんのSNSアカウントに向けて送ったDMをなんらかの方法でこいつが読み、ここに来たのか。

 普通なら難しいSNSの乗っ取りだが、姉妹なら簡単な話だ。


「じゃあ、お前はリノさんに冤罪をかけたのか?」


 俺は一番訊きたかった質問を投げかけた。


「ははは、当然でしょ? ダンジョン内での意図的なイレギュラー発生だって私がやったの、あの日、クソ姉は出かけていた、だから私がクソ姉のフリをしてダンジョン協会であえて目撃させて怪しくさせた、そしてクソ姉のカバンに怪しい魔道具を入れて通報した」


 俺は血管が八切れそうになる。

 こいつのせいでリノさんは容疑をかけられ、今にも捕まりそうな状況に陥っている。


「……ッ!? そんなの許されるわけがない」


「許される? 元々そんな気ないよ、私の人生を滅茶苦茶にしたあのクソ姉を不幸にできるなら私はなんでも捧げる、だから私は組織に入って世界を巻き込んで何もかも滅茶苦茶にしてやる」


「んなッ……」


 間違ってる。

 恐らく、二人の間にはなんらかのトラブルがあったのだろう。

 そこに俺がどうこう言える筋合いはない。

 だが、それでも冤罪を掛けたり、挙げ句の果てには市民をも巻き込むなんて間違っている。


「なあ、リノの妹――」


「――やめろ」


 それはドスの効いた声で、俺は心臓が跳ねるくらいビクッとした。


「私を妹って呼ぶな! 私はレイって名前があるし、姉よりも優れてるからッ!!」


 この少女――レイの目から余裕が消える。

 その青い目はまるで、人を射殺せるんじゃないかってぐらい鋭かった。


「殺してやる、あんたもあのクソ姉も」


 レイの全身から殺気が溢れ出す。

 俺は人から向けられる本物の殺意を初めて味わった。








 ――――――


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