おまけ 甘い駆け引き

 コルネリアが目を覚ますと、何か違和感を覚えてそちらに視線を向けた。


「レオンハルト様っ!?」


 自分の隣には愛しい夫であるレオンハルトが眠っている。

 そのはだけたシャツから見える胸板からはとんでもない色気を放っていた。

 咄嗟にシーツで顔を隠して彼を見ないようにしてもう一度声をかける。


「レオンハルト様……?」


 それでも聞こえてくるのが、彼の静かな寝息だけ──


(確か昨日は遅くまで仕事をなさっていたはずじゃあ……)


 寝る前に挨拶に行った際に、今日は一緒に眠れないんだ、と申し訳なさそうに言われた。

 そんな言葉を思い出して、彼女は必死に頭の中で否定する。


(いえっ! 決してその、寂しいから一緒に寝たいなんて事ではないんですよ!?)


 シーツの中に隠した顔は少し赤らんでおり、頭を軽く左右に振った。

 彼女がこんなことを心の中で思うわけには理由があった。


 最近、夫であるレオンハルトの態度が素っ気ない気がしていたのだ。

 なんとなく自分の愛が重すぎるのかもしれない、それで嫌われたのかも、と感じたコルネリアは、押してみるのではなく引いてみる作戦に出た。


(最近レオンハルト様を意識的に避けてみたりしたけど、なんにも反応は変わらないし……)


 そう、結果引いてみても彼の反応は変わらず素っ気ないだけだった。

 それどころか会えない不満だけがコルネリアの中で募ってしまい、もやもやが止まらなかった。


 そーっとレオンハルトの様子を伺うように、シーツから顔をのぞかせると、じーっと彼を見つめてみる。


(本当に綺麗な寝顔……やっぱり好き……)


 もはや心の声がだだ漏れしそうな勢いで呟く。

 鼓動がどんどん早まってどうしようもなく、彼女の中である欲望が渦巻いた。


(ちょっとならいいかな?)


 彼女はゆっくりとレオンハルトに顔を近づけると、そのまま自らの唇を彼の唇にちょんと押し当てる。

 そーっと彼が起きていないか伺う。


「……んっ」

「──っ!」


 少しだけ身体をよじっている彼にびくりと驚くも、彼が再び寝息を立てると安心した。


(……足りない)


 もはや愛情表現が足りなくなった彼女は逆に心がざわざわとして困ってしまう。

 このままでは彼を襲ってしまいそう。

 そう思ってコルネリアはゆっくりとベッドから離れることにした。



「あれ、もう終わり?」

「──!?」


 思わず振り返ると、彼が艶めかしいサファイア色の瞳をこちらに向けている。


「レオンハルト様っ!」

「もう、最近素っ気ないなと思ってたから寂しくて隣に寝に来たのに」

「そ、素っ気ないのはレオンハルト様じゃないですか?」


 少しむっとした表情を浮かべてコルネリアは反論する。

 すると、レオンハルトは申し訳なさそうに目を逸らすと、彼女の元に向かう。


 彼女を勢いよく抱きしめると、ごめんと耳元で呟いた。

 すると、コルネリアは自分の首元が少しヒヤッとしたことに驚いて手をやると、そこには細いチェーンに飾りがあるネックレスがあった。


「レオンハルト様、これは……?」

「昨日は誕生日だから、コルネリアの。これをプレゼントする予定だったんだけど、間に合わなくて。ごめん」


 申し訳なさそうにしゅんとする彼を見て、コルネリアはなんとも彼が愛おしくなった。


「いいえ、もしかして素っ気なかったのはこれのためですか?」

「ああ、その、プレゼントをサプライズで渡したかったけど、なんとなく口走ってしまいそうで。数日不安にさせたなら、ごめん」


 星形の飾りの中に光る淡い紫の宝石は、朝日に照らされて輝いている。

 その飾りを愛おしそうになでたあと、コルネリアは彼に抱き着いた。


「私も、レオンハルト様への愛が重すぎるかもしれないと、少し素っ気ない態度をとってしまいました。ごめんなさい」


 ぎゅっと彼を抱きしめながら目に涙をためて謝る。

 そんな彼女の謝罪を聞いて全ての行動の意味が納得できたのか、彼は微笑んだ。


「よかった、嫌われたわけじゃなくて」

「嫌うなんてっ!! その、大好きです……」


 あまりにストレートな愛情表現に、彼の心は燃え上がった。


「コルネリア、ごめん我慢できないかも」

「え……?」


 そう言って彼は彼女をベッドに押し倒すと、そのまま彼女の唇を貪る。


「レオンハルト、さま……」

「可愛すぎ。コルネリア」


 そんな言葉と共に彼の溺愛は続く。


「んっ……」


 何度も当てられる唇に思わず吐息が漏れる。


「ん……コルネリア、愛してる」

「私も、大好きです」


 再び唇が重なって、甘い甘い時間が始まる──

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